表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】辰巳センセイの文学教室【ネトコン受賞】  作者: 瀬川雅峰
三章 竹取物語の時間_2019年1月編
48/118

3 年越しても一人

2019年 1月1日 元旦


 新年になった。

 何をする、というわけでもない。


 特に予定もなかったので、昨夜の大晦日は近所のそば屋へ行った。同じような考えの人間は、それなりにいたようで、店内は活気があった。

 温まりたくて、天ぷらそばを頼んだ。


 帰りに深夜まで営業しているスーパーに寄って食材とつまみを少し買い込んだ。といっても、入荷がもう少ないのか、ものも少なかったが……帰宅して、一人でテレビを眺めながら、ビールを一缶開けた、ところまでで、記憶が途切れている。

 軽く酔って横になっている間に、いつの間にか新年になっていたらしい。


 目に前にスマホが転がっている。


 飾り気のない透明の耐衝撃カバー。ストラップホールに、100円玉大の円形アクセサリ――透明レジン製で円城からのクリスマスプレゼント――が付いている。


 レジンクラフトは昨年の秋頃から創作部の一部で流行った。液状の透明レジンに花や小物などを埋め込んで、硬化させて仕上げる。新しもの好きの橘が流行らせて、文化祭でも少しだが展示、配布した。


 スマホの側面のボタンを押して、時計表示を見る。

朝10時過ぎ。

 

 いつになく、静かに感じる。

 ここのところ、ずっと賑やかなところにいた――そんな気持ちになる。


 気のせいだ。


 大学生の頃から一人暮らしをしていた。一人の時間などいくらでも過ごしてる。

 いつものようにデスクに座る。PCに向かい、本を開き、コーヒーを淹れ……デスクの上、ノートPCの横に立てた額に目をやった。

 

 昨年9月、文化祭で撮った写真だった……当時の部長の双海をはじめ、円城に結城に尾上……部員15人に加え、差し入れを持ってきてくれた卒業生の福井や五十嵐も写っている。


  ◇


 昼近くになっても、みぞれ混じりの小雨が止まない。

 玄関のカギを開けて、外に出た。

 冷え切った郵便ポストには、分厚い正月用の新聞と、薄い年賀状の束があった。


 両方を手にしてリビングに戻り、テーブルに置いた。


 届いた30枚ほどの年賀状をチェックする。昔からやりとりのある親類と、創作部員がほとんどだった。ざっと名字を眺めたところ、ほぼ部員全員分、揃っているように見える。部活動中に住所を教えたとき 「顧問だからといって無理に送らなくていいから」 と言っておいた割には、義理堅い。

 

 差出人、内容をあらためて確認しながら一枚一枚めくっていく中に、円城からの一枚を見つけた。


 凝った手描きイラスト――少し着崩した晴れ着の女の子が、挑発的に微笑んでいる――に手書きの文面が添えられていた。



 

 先生、明けましておめでとうございます。

  一刻も早く、先生の元へ戻るつもりですので、

  どうか、いい子にして、待っていてください。

   ――晴れ着姿がお見せできなくて、残念です。




  留学へ行く前に書いて、投函したのだろう。そのまま、残りの年賀状をチェックする。と、一番下の差出人にまた「円城」とあった。


円城――?


  毛筆による手描きだった。

  ずいぶんといかめしい筆跡。自在で力強い筆遣いだ。


円城(えんじょう) 鉄治(てつはる)


 円城――咲耶以外に知り合いがいた覚えはない。

 不審に思いながら、毛筆で書かれた文面を読んでみる。




謹賀新年


日頃、大変お世話になっていると、

愚女から伺っております。


辰巳先生におかれましては、

今後とも思慮分別のある御指導を、

教育に携わる一社会人として、

また父親として、切にお願い申し上げます。


           教育長 円城鉄治




 ただの年賀状のはずなのに、異様な迫力がある。

 なんの意図もない社交辞令、とは思えない。


――お前にセクハラする教師がいたら、すぐクビにしてやる

 半年前に送られてきた通知と、円城との会話を思い出した。

アラサー男のぼっちな年越し…地味(;´Д`)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓いただいたファンアート、サイドストーリーなどを陳列中です。
i360194
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ