表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】辰巳センセイの文学教室【ネトコン受賞】  作者: 瀬川雅峰
二章 羅生門の時間_2017年4月編
45/118

23 補講 姫と二人とセンセイ

7月7日(金) 七夕


「先生、俺がもってた本、栞が挟まってたの、覚えてます?」


 福井の手に、紙のしおり。

 少し、厚みがある。

 よく見ると、一枚の紙を包むように別の紙が覆っている。

 この外側の覆いは、あとから着けたものだ。


 福井は中の一回り細身の栞を取り出し、ぺらりと裏を向けた。


――合格、お祈りしています。

 高校が決まったら、ぜひ、お祝いをさせていただけませんか。


 中学時代の福井と尾上は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……直接名乗ることも、声をかけることもない関係でも、尾上が渡したかったメッセージは、ちゃんと福井の手に渡っていた。


 現在の尾上は、福井の隣で照れている――すっかり笑顔が柔らかくなった。


 今日は、創作部員二人の()()()()を見に来た。

 彼らの出会った場所――地元の図書館である。


 傍らには、円城もいる。

「おまえ、いつも二人について歩いてるのか。邪魔じゃないか、それ」

「……今日は、先生が来るって聞いたから、こっちに来ただけです。私だって、それくらい考えてます」


 隣に近づいて、少し声を落とす。

「……あれから危ないことはしてないな?」

「……もう、しません。沢山の人に恨まれるのはほんとに怖かったです……だから」


だから?


「今回の件を、私なりに落ち着かせようと思って、書き込みました」

円城が、スマホでSNSを見せた。


@sakuya

> 皆様、たくさん嫌な思いをさせて、本当にすみませんでした。

> デートしてくださった先輩方を、侮辱したようになってしまったのも、

> ひとえに私の考えが足りなかったのが原因です。

> 今後、先輩や同級生とはお付き合いせず、

> この度のような迷惑を二度とおかけしないと約束します。



――出家でもするのか? ずいぶんな覚悟だ。



> 本日からは、辰巳祐司先生ひとりと、真剣にお付き合いしていきます。

> 2017 7/7 sakuya



……は?



「……これは?」

「文のとおりです……私は先生にひっついてる変な子になります。なので、きっと男女どちらからも、興味を無くされていくと思います」

「……にしても、なんで俺の名前を」

「だって先生、私を本気で、心配してくれましたよね」

「……ああ」

「頼れ、とも言ってくださいました」

「教師としてな」

「私、まだまだ危なっかしい、と思いませんか?」

「……それは、思う」

 大人と子どもの部分があまりにアンバランスだ。


「だったら、もう危ないことをしないように、ちゃんと、そばで見ていてください……そうしないと、また大変なことをしてしまうかもしれません」

「……卒業までなら」


 円城の顔が近づく。息がかかるほどに。

 彼女の瞳は、こちらの表情を漏らさず拾おうとするかのように、正面にひたと据えられている……虎に正面から睨まれた狐はこんな気分だろうか。


「私は先生から、卒業するつもりはありません……先生は、そう思ってくださらないんですか?」

 ――潤んだ目で見るんじゃない。

「教師と生徒の恋愛は、許されてないぞ?」


 やりとりを眺めていた福井が、にこにこと割り込んできた。

「そうでもないですよ。うちの両親、もと先生と教え子ですし。母が先生で、父が教え子ですけど……」


――うち、両親ともに()()()()()()()()()――


「母は、卒業後だったら、なんとでもなる、って言ってました」


 福井が円城に目配せして、にっこり笑った。

 俺のすぐ横で、円城がくふっと笑って、

  

  ほんの一瞬、頬にふわっと何かが――



 

――センセイ、もう、私のものです。





                   羅生門の時間 了

『羅生門の時間』

これにて全編の終了です。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。


思えば1章は、数年前から構想を練り、何割かは草稿も書いていた状態でした。

それを磨いて、組み立てながら、結末を書くことでおおむね形になりました。

でも2章は構想も舞姫編を連載してから錬り始めました。

連載を始めてからもプロットを組み直したり、執筆に詰まって書き直したり…

連載がちゃんと続くのか、10話を掲載した頃まではずっとひやひやでした。


それでも、書き終えた今では、

心から自信をもって「読んでください」と言える物語になりました。

1章ほど計算をやり切ったとは言えませんが、

尾上さんや、福井くん、そしてなんといっても円城さんについては、

舞姫編を上回るエネルギーで、全力を出して書き切ることができました。

彼らにわずかでも魅力を感じていただけたなら、作者としてとても嬉しく思います。


ここまで書き切れたのも、感想や割烹へコメントをくださった方、

ポイントやブクマでの応援で元気をいただけたからこそです。

あらためて、ありがとうございました。

(評価やブクマがまだ、という方はぜひ!★1でもありがたいです)


さて、今後ですが、

『3章 竹取物語の時間』を掲載したい、と思いつつ、

実はまだお見せできるクオリティになっていない、というのが実情です。

しっかり形になってから公開したいと思ってますので、

しばらく時間をいただければと思います。

それでは、また3章でお会いできますよう。

(2019年5月15日)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓いただいたファンアート、サイドストーリーなどを陳列中です。
i360194
― 新着の感想 ―
[一言] 「羅生門」が一番、高校生に馴染ませにくい文学作品かな、と思っていたので、「こうきたか!なるほど!あっぱれ!」と思いました。(上から目線ですみません。) そして、最終的に公然の事実をとりつけた…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ