22 エピローグ 創作部は本日から絶賛活動開始です
7月6日(木) 11時30分 期末考査最終日
第二特別教室に、テストを終えた部長、五十嵐がきた。
3年生のテスト科目は、他学年より少なめだ。その分、終わるのも早い。
「五十嵐、部の名前、変えようと思うんだ」
「急ですね。どうしたんですか」
テストあけで五十嵐の表情はにこやかだ。
「名前自体は前からどうにかしようと思ってたんだが……活動休止していた文芸同好会に、部員が二人も入ってね。そもそも創作系ということで相性も悪くないし、どうせなら漫イラに統合しようと思って……どうだろ」
「特に反対はしませんけど……何か考えあってのこと、ですか?」
「……さすが五十嵐。察しがよくて助かるよ」
◇
待つこと50分。
他学年もテストが終わり、部活に合流してくる。
3学年合わせて15人。全員がそろったところで、切り出す。
「部活の名前を変更します。これまでの名前が長すぎたし、同じパターンにすると、さらに伸びちゃうので」
「どうなるんですか」――質問の声が上がったので、黒板に書いた。
漫画研究イラスト制作文芸部
「これは……ひどいですね」
部員から率直な感想が上がる。
「……だろ。なので、いっそのこと、シンプルにする。絵を描く部活以外も吸収したから 『創作部』 でいくつもりだ……どうかな」
意外と反対は出なかった。
さすがに長すぎる、と部員たちも思っていたらしい。
◇
漫画研究イラスト制作文芸部は、あらためて創作部になった。
それぞれ、自分の描きやすい席に座って、活動の準備に入る。
事前の打ち合わせ通りのタイミングで、教室のドアがノックされた。
ドアを開けて、廊下の2人を中に入れる。
俺と、円城、尾上で教室の前に立つ。
「テストが終わって今日から活動再開なので、新入部員を紹介しておきます。1年4組の円城咲耶さんと、小説志望の尾上千絵さん。小説志望の部員は初なので、話を作るのが苦手なイラスト部隊とのコラボとか、いいんじゃないかな」
円城と尾上は、それぞれ簡単に挨拶した。
「あと、3年の福井くんも小説希望で入部したんだけど、彼は基本的に地元の図書館に通って受験勉強している。実は、小説を書くアドバイスがほしい、と言われたので、だったら部員になれ、と入れてしまった。ま、部費の請求枠にも頭数で貢献してくれるから。先生のアドバイスとトレードということで……」
「それ、顧問として反則ぎりぎりじゃないですか……」
良識派の五十嵐が小声でツッコミを入れる。
なごやかな空気だが、部員達に一部、微妙な顔をした者もいた。
炎上騒ぎを起こした円城と、その友人らしい尾上、そして、円城とのデート写真をばらまかれた福井……噂をそれぞれ耳にしていた部員達にすれば、気になるところだろう。
だが、もうスキャンダルは過去にすべきことだ。
指導室で円城と話した次の日、横山と原に謝って、事態は一応落着した。
上級生の、特に女子には、円城を悪く言う者はまだまだいるが、ある程度は時間で解決していくしかない。ここからは時間をかけて部員として馴染ませて、自分のペースで円城も、尾上も創作を楽しめるようにしてやりたい。
福井がここに姿を現していないのも、当然、わざとだ。
校内で福井と尾上は一切接触しない腹づもり、と聞いている。
3年生の卒業まで後半年。無理に誰かに認めさせる必要もないのだから、二人の時間を静かに重ねていけばいい。部員という形にしたのは、こちらとのチャネルを残す――なにかあったときに、すぐ手を出せるようにしておくためだ。
◇
「きゃ」
部員の集まっている円城のまわりで小さな悲鳴が聞こえた。スケッチブックを開いたらしい。
円城は子どもの頃から習い事として絵の教育も受けていて、1年生としてはなかなか描き慣れている。ただ、モチーフに問題があって――作品は扇情的な……はっきり言って過激な服装や場面ばかり。スケッチブックの中身が、少々いかがわしいことになっている。
しかし、部員達も、そこは絵描き揃い。じっくり円城の絵の腕前を見定めて――なかなかやる、とすぐに「仲間」認定したようだ。創作を志す者同士、今後はたっぷり切磋琢磨してもらおう。
「部員としての自覚をもって 『部誌に載せられる方向』 でたのむ」
円城に一言釘を刺して、特別教室を出た。
――創作部、本日より活動開始である。
今回は表向きのエピローグ、
そして次回が真エンド。おなじみ「補講」です。
入魂のエンドです。お楽しみください。