21 舞台裏の男たち
6月27日(火) 早朝
昨晩、電話をかけて福井に早朝、学校へ来てほしい、と伝えてある。
生徒指導室のドアをノックして、福井が入ってきた。
単刀直入に言う。
「君が、円城の計画に乗ったんだな?」
「……なんの話ですか」
一応、シラを切る態度をとっているが、時間もない。さっさと進める。
「……写真を撮ったのが君だ、という話だ。自分の写真で、カメラの方見てるし……そもそも、君が円城とデートしてる時点で――俺にはバレるつもりだったろ」
福井は、あっさり、しかし微妙な認め方をする。
「写真を撮ったのも、匿名のアカウントで貼って騒ぎにしたのも、俺です。だから、今回の騒ぎの責任は、俺にあります」
まあ、そうくるだろう、とは思っていた。
「この状況で、誰が写真貼ったか、なんて大した問題じゃないよ」
――円城を取り巻く悪意。
騒ぎも下火になってるものの、事態が収束したとは言い切れない。そして自分に全ての悪意を向けようとした円城――彼女の心こそ問題だ。
「円城さんが大変なことになってるって知って、金曜に千……尾上と話しました。俺も尾上も、どうしたらいいかって話は、すぐまとまったというか、同じ意見でした」
福井が一言断りを入れて、スマホのSNSアプリを操作しはじめた。
「学校で、先生と話すから、来てくれないかって、昨日連絡しておいたんです」
――すぐ指導室のドアがノックされた。内側から、福井がカギを解除した。
「失礼します」
口々に言いながら入ってきたのは、軽音部の横山と、サッカー部の原だった。
横山が切り出した。
「福井と、尾上さんから、話は聞いてます。円城さんがなんでこんなことしたのかも」
同じ連絡がいったのだろう。原も隣でうなずいている。
二人に問いかける。
「円城のこと、怒ってないのか?」
横山が、少し考え顔をしてから口を開いた。
「福井と、尾上さんが事情を話してくれたっていったじゃないすか。正直、俺ら、もう怒る気ないというか……」
原も「……円城さんってすげぇなぁ、って話はしてますけど」――平然としている。
そこで横山が、ぱっと愉快そうな笑顔になった。いきがかり上、ここまでは真面目な表情をしていた、ということらしい。
「先生! 正直言っちゃいますけど、陰口ばっか言ってる女たちをわざと焚きつけて、敵意を自分一人に向ける――なんて聞いて、もう痺れちゃって。ふつーじゃないって。そんなこと考える女の子、しかも後輩すよ!ロックすぎる!ってマジで思っちゃいました。だから、怒ってる、というよりは……もうファンになっちゃた、みたいな?」
原も冷静に頷いている。
「そもそも、一方的に怒るって話でもないかなって。円城さんを誘ったの、横山先輩と俺の方なんで。円城さんはデートしてくれただけ、ともいえますし……」
……拍子抜けした。
一応、二人に再確認する。
「君らにしてみれば、円城の計画に巻き込まれたわけで、三股かけられたし、写真貼られたし、で不満はあるだろうと思ったんだ」
横山が記憶をたどりながら話す。
「三股、と聞いて微妙な気持ちになったとか、計画のためのデートだったのかってがっかりしたとか……そりゃ、ありますよ。男っすから。でも、すげぇ友達思いで、やることもロックで、そっちに感心しちゃったら、もういいやって。俺、基本、女の子にはポジティブ評価で、優しいんで」
――噂通りというか、ある意味さすが横山だった。
原も似たようなものらしい。
「デートは、普通に楽しかったんですけど……本気で口説こうとすると、彼女が黙ってビミョ――――な空気になるんですよ。嘘を言いたくなかったのかな、人を騙せない子なんだなって……後から好感度アップしちゃって……バカみたいですよね」
――円城が選んで、巻き込んだ連中だけある、ということか。
どいつもずいぶんお人好しだ。
横山が、話題を変えた。
「先生、それより、あんな写真アップされたからって、円城さんを集団で叩いてるヤツらこそ、当事者でもないのにおかしいって思ったんですよ。俺らも」
「だから週末、書き込みしちゃいました」と原が受けた。
「俺と原。それに福井の3人で 『俺らが、ぜんぜん気にしてないのに、他人が騒いで叩いてる方がずっとキモいじゃん』 って」
……週明け、円城へのバッシングがずいぶん下火になったのは、彼らのおかげでもあったらしい。
今日にも円城を謝りに来させるから、ちゃんと話を聞いてあげてほしい、今回の件の真相は、福井や尾上のためにも、他言は無用……その2点を確認して早朝の男子ミーティングは終わった。
――彼らになら、円城はちゃんと謝れる。
途中いろいろしんどい場面もありました羅生門編、
これにて解き終わりです。
お読みいただき、ありがとうございました。