18 創作 「続・羅生門」
ようやく、この門に着いた。
思えば、あの老婆にまた会えたのも、偶然であった。
天が、引き合わせてくれたのであろう。
我が屋敷の入り口で、老婆は力尽き、息絶えていた。きっと、抱えていた荷物を屋敷に売るつもりであったのだ。老婆が他所へ売りに行く前、荷物を金に換えられる前に見つけられたのは幸運だった。
屋敷の主――我は一人、考える。
老婆は、変わり果てていたが、あの娘の下女をしていたころから知っていた。恭しく仕えてはいるものの、時に下卑た目で娘を見ることのある、怪しげな老婆であった。
だからこそ、印象にも残っていた。死体を見て気付くこともできたのだ。
老婆は、娘の着物をもっていた。髪の束も持っていたから、娘のものであったかもしれぬ。娘が死んで堕ちたのか、娘を手にかけて堕ちたのか。今となっては知る由もない。だが、娘を冒涜したことだけは間違いない。
――あるとすれば、ここのはずなのだ。
我は一人、羅生門の楼に上った。
死体を片端から確かめた。
そして、ついに見つけた。
愛しき娘の亡骸を。
娘は髪を抜かれ、着物も盗られていた。なので、その亡骸を娘と認めることは簡単ではなかった。
しかし、娘は生来、足が悪かった。我は亡骸の足を、一体一体念入りに確かめた。
そしてついにあの娘の足……その、歩くには少し不自由な、しかし愛しき足の亡骸を見つけたのだ。
――やはり、ここにいたのか。
せめて最期はそばに、いてやりたかった。
我は泣いた。
娘を一人でいかせてしまったことに。
娘を朽ちるにまかせたこの門。
多くの人々の勝手と、悪意、死体が詰め込まれた、この門。
――この場こそ、この門こそ忌むべき場所だ。悪そのものだ。
死体を棄てた者、着物を剥いだ者、毛を抜いた者、住み着いた者、生者を騙した者、死者を餌食とした者……悪が悪をよび、下らぬ悪に染まった者が増え、また悪の種をばらまく。
だから、こうせねばならぬ。
油をまき、たいまつを掲げた。
門の3倍も、4倍もある巨大な火柱が闇を染め上げた。
我の顔にも熱風が吹き付けてくる。
「これで全て灰になり、下らぬ悪も燃え尽きる……これで、よい」
門の内に、己を燃やし、我もまた焼け落ちる。
我はこれから先も尚、娘とともにある。