表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】辰巳センセイの文学教室【ネトコン受賞】  作者: 瀬川雅峰
二章 羅生門の時間_2017年4月編
40/118

18 創作 「続・羅生門」

 ようやく、この門に着いた。

 

 思えば、あの老婆にまた会えたのも、偶然であった。

 天が、引き合わせてくれたのであろう。

 我が屋敷の入り口で、老婆は力尽き、息絶えていた。きっと、抱えていた荷物を屋敷に売るつもりであったのだ。老婆が他所へ売りに行く前、荷物を金に換えられる前に見つけられたのは幸運だった。


 屋敷の主――我は一人、考える。


 老婆は、変わり果てていたが、あの娘の下女をしていたころから知っていた。恭しく仕えてはいるものの、時に下卑た目で娘を見ることのある、怪しげな老婆であった。

 だからこそ、印象にも残っていた。死体を見て気付くこともできたのだ。


 老婆は、娘の着物をもっていた。髪の束も持っていたから、娘のものであったかもしれぬ。娘が死んで堕ちたのか、娘を手にかけて堕ちたのか。今となっては知る由もない。だが、娘を冒涜したことだけは間違いない。


――あるとすれば、ここのはずなのだ。

 我は一人、羅生門の楼に上った。


 死体を片端から確かめた。

 そして、ついに見つけた。


 愛しき娘の亡骸を。


 娘は髪を抜かれ、着物も盗られていた。なので、その亡骸を娘と認めることは簡単ではなかった。

 しかし、娘は生来、足が悪かった。我は亡骸の足を、一体一体念入りに確かめた。

 そしてついにあの娘の足……その、歩くには少し不自由な、しかし愛しき足の亡骸を見つけたのだ。


――やはり、ここにいたのか。


 せめて最期はそばに、いてやりたかった。

 我は泣いた。

 娘を一人でいかせてしまったことに。


 娘を朽ちるにまかせたこの門。

 多くの人々の勝手と、悪意、死体が詰め込まれた、この門。


――この場こそ、この門こそ忌むべき場所だ。悪そのものだ。


死体を棄てた者、着物を剥いだ者、毛を抜いた者、住み着いた者、生者を騙した者、死者を餌食とした者……悪が悪をよび、下らぬ悪に染まった者が増え、また悪の種をばらまく。


 だから、こうせねばならぬ。


 油をまき、たいまつを掲げた。

 

 門の3倍も、4倍もある巨大な火柱が闇を染め上げた。

 我の顔にも熱風が吹き付けてくる。


「これで全て灰になり、下らぬ悪も燃え尽きる……これで、よい」


 門の内に、己を燃やし、我もまた焼け落ちる。

 我はこれから先も尚、娘とともにある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓いただいたファンアート、サイドストーリーなどを陳列中です。
i360194
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ