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【書籍化】辰巳センセイの文学教室【ネトコン受賞】  作者: 瀬川雅峰
二章 羅生門の時間_2017年4月編
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3 部活紹介デー 見る方も大変です

4月11日(火)


 入学式のあと、在校生――2、3年生の始業式を挟んで、生徒たちの登校が本格的に始まる。カレンダー上では5日が経っているが、週末を挟んでいるので、新入生にとっては3回目の登校ということになる。


 各クラスのホームルームで初日に簡単な自己紹介は済ませているはずだが、まだまだお互いに緊張している。友達作りに出遅れたくない、とまごつきながら周囲に話しかける生徒たちの姿は恒例行事だ。


 今日は午後の授業をカットして、午後から放課後にかけて部活紹介イベントがある。約30におよぶ体育系、文化系の部活動、および同好会が、新入生の前でパフォーマンスをして、新入部員獲得へのアピールをする。


 1年生の生徒を整列させ、見守るのが担任の役目だ。


 生活指導担当として、あえて列の前、生徒会役員と、その担当の先生がいるそばに立つ。気疲れはするが、こういうイベントの時に前から表情を見るようにすると、発見が多い。学年主任の日向先生から教わったことだ。


  ◇


イベントが始まって、早40分。ここまでに14団体が紹介を終えた。

 今年の生徒会の段取りはなかなか優秀、といっていい。30近くも部活があるのだ。仕切りがコケるとこの手の行事はダラダラになる。


 運営がダレると、被害に遭うのは1年生だ。入学したばかりで、生徒会を中心とした先輩が仕切りのイベントに付き合わされているわけで、当然、退屈した、という態度を表に出すのははばかられる。


 酷い運営でも、授業を聞いていて眠くなったときなどより、よほど「義務感で頑張ってしまう」ので、見ているこっちまで痛々しくなるのだ。

 そう考えると、今年の生徒会は一団体あたり3分の持ち時間をオーバーする団体もほぼなし。よい感じだ。


  ◇


 ドリブルから、ディフェンスの生徒を器用にかわしてゴール下に踏み込む。右肩に乗せるようにシュート体制に入り、ダンクまではいかないものの、リングすぐ下の高さから、するりとゴールに入れる。


 ホイッスルが鳴る。

 鮮やかさに、一年生から拍手が起きる。


 バスケットボール部が体育館のステージ上にゴールを持ち込み、3on3を実演中だ。守備役の生徒はほどよく手を抜き、攻撃側の生徒がシュートをスムーズに決められるように調節している。


 1ゴールが決まったところで、攻守交代。なるほど、それぞれのチームが新入生前で格好いいところを見せたい、ということか。


――反対チームのゴール下からのシュートが鮮やかに決まる。また攻守交代。


 次は攻撃側が狙い澄ました3ポイントを決めて、1年生にアピール。男子バスケ部の外見、プレイ内容ともに看板選手である3年生の福井(ふくい)真吾(しんご)だ。


 校内の女子からの人気は相当なものと聞く。なんでも一部の中学生からもチェックされているとか。プレイの質、容姿で目立つ生徒ではあるが、本人と話すと意外に落ち着いた性格でほっとする。

もてる割に異性関係で問題を起こすこともないので、主に女性教員からの受けも良い。


  ◇


 前から見ていた1年生の列の中に、円城咲耶の姿が見えた。彼女の容姿は前から見ると、どうしても目立つ。そして、隣にいる女子。


 女子同士が隣り合っている、ということは列が乱れている、ということだ。普段の集会なら固いことも言うが、今日は楽しい雰囲気優先。仕切りも生徒がやっている。ま、しっかり見ているなら、ある程度は大目に見よう。


 円城の隣の女子が目立ったのは、その表情のせいだ。目を見開いて前を見ている。口元を手で覆い、何かに驚いている様子だ。

 円城の隣――円城の出席番号が五十音順で4組5番だったから、6番の生徒だろう。


 ジャケットの裏、ポケットに入れた教務手帳をそっと取り出す。この時期、生徒の名前を印象のあった子からでも頭に入れておきたい。

 手帳に貼り付けた名簿をチェックする。1年4組、5番 円城咲耶、6番――尾上(おがみ)千絵(ちえ)。この子か……ん?


 尾上の名前に、既視感を感じた。この名前、確か……あとで、職員室で確認しておこう。

 忘れないよう、名簿を貼ったページに折り目を付けて、胸にしまった。

 

 この子も隣にいるのが円城じゃなければ、十分に男子からの視線を集めそうなタイプだ。健康的なエネルギーと華やかさを感じさせる円城とは異なり、優しい目が印象的で、おっとり、家庭的なタイプに見える。


 バスケの演技……いや、目で追っているのは福井真吾個人、だろうか。彼の出ているデモンストレーションの間中、彼女は大きく見開いた瞳で、じっと姿を追い続けていた。


  ◇


「以上、バスケットボール部のデモンストレーションと紹介でした。入部希望者、見学希望者の方は、火曜日を除く放課後、体育館まで来てください。マネージャーも歓迎します」

 福井がマイクをもって、締めくくっている。


 やがて、爽やかな笑顔を残して、バスケ部退場。2年生部員が素早くゴールをひきずっていった。


 尾上は、まだまだ興奮醒めやらず……なのか、ねぇねぇ!と興奮した様子で円城に話しかけている。

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