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【書籍化】辰巳センセイの文学教室【ネトコン受賞】  作者: 瀬川雅峰
二章 羅生門の時間_2017年4月編
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1 私は、その女の写真を三葉、見たことがある

2017年 6月26日(月) 一学期末考査7日前


 テーブルの上に、3枚の写真が載っている。

 正確には、写真を学校のプリンタで打ち出したものだ。


  ◇


 1枚目の写真には、高校の制服姿の男女が写っていた。一人はなかなか見ないレベルの美少女。もう一人もかなりの、学校にいたら後輩の女子やらがそれなりにファンにつくくらいのハンサム。


 どこかの公園だろうか。ベンチに座り、肩を寄せ合い、手に持ったソフトリームをなめている。女子は横を向いているが、男子の方はちょうどカメラの方を向いている。ある高校生デートの一コマ、といった風情だ。


  ◇


 視線をテーブルの真ん中――左方向に20センチずらす。

 2枚目の写真を見る。やはり、高校生の男女が写っている。


 私服だ。女の子はゆったりした薄いピンクのシャツに、ふわりとしたホワイトのスカートを合わせていて、柔らかな雰囲気。男子はTシャツにジーンズという夏の定番だが、良く引き締まった足がすらりと伸びている。


 ベンチに座った男子の太ももの上に、女の子は斜めに座っている。そうなると、上半身の位置が俗にいう「お姫様だっこ」の位置になる。二人とも、ピースを右目に当てて、そのまま左目をつむってウインク。男子がグリップを握った自撮り棒の先につけたスマホに向けてポーズをとっている。


 こちらのカメラには、気付いていないようだ。周囲にコインを入れて乗るぬいぐるみ型の乗り物が写り込んでいるところを見ると、遊園地デートの一コマなのだろう。


  ◇


 同じように視線をさらに左方向にずらすと、3枚目の高校生カップルの写真がある。


 背景にあるのは夜店。女子は軽めの生地でできた水色のワンピースを着ている。アクセントのホワイトが涼しげだ。男子は、リラックスした印象を受けるゆったりしたストライプの白シャツと、ベージュのパンツを合わせている。二人とも指に夜店のヨーヨーをひっかけ、肩を並べてリンゴ飴をかじっているところを、左横、少し離れた位置から撮影している。


 ちょっと早めの縁日が6月中旬に高校近くの神社でやっていた。きっとそのときに撮影したのだろう。


  ◇


 3枚それぞれを見る分には、ちょっと隠し撮りっぽいところこそ気になるものの、ごく普通のデート写真と言っていいだろう。


 問題は―――


  3枚とも女の子が同じ、というところだ。


  ◇


 生徒指導室へ、女の子を呼んだ。

 期末考査前、ということもあって、授業後さっさと帰った生徒が多い。


 今校内に残っているのは、大会前で特別活動届けを出しているごく一部の運動部員と、図書館で勉強したり読書したり、の常連連中。携帯ゲーム機やスマホを持ち寄って、教室で部活のない開放感に浸っている連中…あとで担任が追い出す――くらいだ。全部足しても、せいぜい数十人だろう。


 少女が入室してくる。

「失礼します」

 凜とした声。

 ドアを開けて、ぴしっとお辞儀をする。


俺は奥側の椅子に座っている。机を挟んで声をかけた。

「1年4組、円城咲耶さん」

「はい」

「少し、話をしたくて呼びました。座ってください」

「失礼します」

 互いにパイプ椅子に座り、まっすぐに向き合う。


 俺は机の上に閉じて置いたプラスチック製のファイルを開き、中にしまっておいた3枚のプリントアウトされた写真を出した。


 テーブルの上に、等間隔で並べた。

 円城は写真を順繰りに見やり、無表情のまま、視線を前に戻した。


「このデートの写真、3枚とも、君の写真であってるかな」

 どう見ても、3枚とも円城なのだが、一応本人に確認しておく。

「……はい」


 俺は辰巳祐司、1年3組の担任教師である。学年の生徒指導担当もやっている。

 今、校内はこの3枚の写真の噂で持ちきりだ。

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