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【書籍化】辰巳センセイの文学教室【ネトコン受賞】  作者: 瀬川雅峰
一章 舞姫の時間_2018年6月編
14/118

14 須藤奈々の核心

 午前中、4コマの授業を終えて、昼休み。


 職員室に来るよう、須藤を呼んでおいた。昼食を食べる時間がこうして潰れていく……が仕方がない。家庭訪問までに、もう少し情報を集めておきたい。


 放送で名前を呼ぶと、他の生徒から勘ぐられる。

 なので、担任を通じて、こっそり手紙で呼び出す。2学年担任の俺が1年4組の須藤を呼ぶ――少し不自然なので、担任には「神田先生がお休み中の、部活運営のことで話がある」とぼかした。美術部と創作部はそもそも兼部してる部員もいて関係が密なので、こういう形がスムーズだ。


 今回については、他の先生方にできるだけ秘密のままにしておくのがベターと思われた。本来、職員間の秘密は良くない。しかし、今回の件は、周囲にバレると問題が無駄に大きくなる可能性が高い。


 昼休みに入ってすぐ、須藤奈々が来た。

 人目につかないよう、職員室奥の印刷ブースへ入れる。


「昨日はありがとう。お昼も食べなきゃだろうから、手短に済まそう。神田先生と君、というか君のご実家も含めての関係はわかったから、今日はその続きを聞きたい」

「続き……ですか?」

 須藤はきょとん、としている。


「君が、最後に神田先生に会ったのは、いつだった?」

「……月曜に、会いましたけど」

「それは、授業中に?」

「いえ、放課後に……少し」

 少しだが、目に力が入って警戒を強めたように見える。


「具体的に、君がひどく苛立ってる『原因』について聞きたいんだ――神田先生と最後に会ったその月曜日、何をしたか?何を見たか?」

 昨日の須藤の説明を考えれば、婚約者なのだから、お休みの続く神田先生の体調なりを心配するのはわかる。だが……『苛立つ』のはそれだけではおかしい。

「それは……」

 きゅ、と須藤が口をつぐんだ。


「今まで、君が話に出していない人も、関係してるね?」

 今度は、顔に、ぎくり、と動揺が文字になって貼り付いた。隠し事は下手らしい。


「君を責めようというつもりはないよ。このままじゃ、誰にとってもいいことがないんだ。あったことを、そのまま話してほしい」

 まっすぐ、静かに瞳を見る。脅すような真似はしたくない。


「えと、あの……ちょっと、恥ずかしいので。先生だけの……ここだけの秘密にしてもらえませんか……」

「別に……犯罪の告白でも、自殺の計画でもないでしょ?」

 昨日のネタに触れて、空気を和ませてみる。

「……」

 こわばった彼女の頬が、少し緩んだ。


「えと、あの日、私、先生……神田先生、と……あの……」

言いにくそうだが、待つ。

「美術室で……その、キス…………しました……」

びっくりするほど顔が真っ赤になった。


――やはり、そういうことだったか。


「そのとき、美術室に誰か、こなかった?」

「はい……来ました。というより、ドアのところに人がいるのに、神田先生が気づいて……私はちらっと見えただけですけど……結城先輩、だと、思います」


 結城は、見るべきではないもの、に遭遇した。だから――


「手に何かもってた?」

「スマホを、もってたと、思います。そして、神田先生が結城先輩の方へ行って、結城先輩が逃げて……そのまま二人とも、美術室を出てっちゃって……」


「君は、二人の後を追おうとは思わなかった?」

「はい……正直、入学したときから結城先輩、なんか怖くて……部でも実力は凄いですけど、私にばっかり冷たいんですよ。話しかけても、仲良くしてくれないし……私、なんかしたのかなって……だから、美術室で先生を待ってました」


 結局、この子は美術室に取り残され、その後の事情はわからずじまいになった。

 だから、苛立った――結城はその後しばらくして救急車で運ばれ、神田先生も帰ってこなかった。

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