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【書籍化】辰巳センセイの文学教室【ネトコン受賞】  作者: 瀬川雅峰
一章 舞姫の時間_2018年6月編
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13 家庭訪問のススメ

6月14日(木)


 結城琴美は、まだ学校に来ない。11日の月曜日に、頭に怪我をした彼女は、目覚めた病院で精密検査を受けた。

 翌日一日は入院し、異常がないか確かめた、と聞いたが、特に問題なく水曜朝には退院した。頭の裂傷も、出血の割には大したことなかったとのこと。後遺症もなく、元気に歩いて自宅に帰ったと聞く。


 昨日一日は休養、というのはまあわかるが、今日来てないのはどうしたものだろう。

 担任の飛田先生に様子を聞いた。

「朝、母親から電話あったんですけど、まだ痛みが残ってるので……とのことでした。ただ、母親からの質問というか、逆に訊かれたことがあったんです」


 ……ピンときた。

「訊かれたって……神田先生に関連してませんか?」

 単刀直入に確かめてみる。


「……なんでわかったんですか」

「いや、ちょっと今回のことで、結城と指導上のすれ違いがあったんじゃないかと」

「お母さんが言うには、本人が気にしてる様子だそうで。

 入院してからずいぶん静かになってしまって、ほとんど会話はないそうなんですが……ちらっと神田先生の名前が出て、気にしてるように見えたと。なので神田先生のことを聞きたい、と言われたんですよ。出勤してるのか、とか。今週はお休みしてる、とだけ伝えておきましたけど」


 欠席続きは神田先生も同様だ。月曜は授業が終わってからいなくなったわけだが、その後3日連続休暇はなかなかあることではない。普通なら、伝染病にでもかかったか、本格的に身体を壊したか、を疑いはじめるタイミングだ。


 たぶん、普通ではないのだ。


 2学年で担任をもつ辰巳センセイとして、どうしたものか、と思う。

 このまま学年の生徒が、下手すると先生まで不登校になってしまっても、誰も幸せにならない。

 ここまでの材料から、一つの考えがまとまりつつあったが、その考えが正しいとすると、二人を放っておくことは得策ではない、と思った。


「飛田先生、今日あたり、放課後、結城のところへお見舞いに行ってみませんか」

「辰巳先生、私と一緒に行っていただけるんですか?」

 いつも元気な2組担任、飛田先生。

 家庭訪問――やってみると結構時間と体力をとられる――に前向きなのはありがたい。


「ええ、ちょっと結城に立ち入ったことで聞きたいことがあるので、同席いただけないかと」

「あー。担任が一緒にいない家庭訪問……不自然ですもんね。そうですよね。必要ですよね……ええ、もちろん……同席させていただきます」

 なんか、飛田先生のトーンが微妙に落ちた気がするが、まあ、いい。


「主任の日向先生には、放課後、飛田先生と家庭訪問にいくと伝えておきます。」

 ホームルームが終わったらタイミングを見て、二人で結城家に乗り込むとしよう。


 朝のSHRから、木曜は4コマ立て続けに授業が入っている。8時30分のチャイムから先の半日は息つく暇がない。

 テストも近い。まずは、日々の授業をきっちりこなしておかないといけない。


 買い物カゴに、4クラス分――学年違いの授業もあるので、授業準備としては2種類――の用意をする。160人分の小テストに、プリント。板書案の資料に教科書一式。

 紙束と本が大量に突っ込まれた買い物カゴの重さは10kg近い。プラスチックでできた取っ手がたわむ

「さぁて、今日もいっちょ授業からいってきましょう」

 職員室を出て、早足で階段を上る。

 だんだん4階の教室が恨めしく感じるようになってきたのは、たぶん歳のせいだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ずっと読みたくてやっと訪れることができました。 とても引き込まれて、手に汗握るで読み進んでいます。 高校時代もっと国語の先生と絡めばよかったと今さらながら思います。 「おまえは好きな本読ん…
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