27 エピローグ それぞれの門出に
3月14日(土) 卒業式
仰げば尊し、の歌声が、今年は一際心に響く。
生徒それぞれに、思いのこもった歌声、と感じてしまうゆえか。
結城、尾上、円城……一人一人が卒業証書を受け取っていく。
式の締めくくり、答辞を読み上げたのは、首席……円城咲耶だった。
「……多くの出会いがありました。人と出会って、支え合うことで、勇気をもって前に進めると学びました。本当に……大切なことを沢山学んだ三年間でした」
胸を張って、堂々と答辞を読み上げる。
今日は入学式と違って、白紙じゃない原稿だ。
……でも、今日なら、きっと原稿なしでも、できただろうね。
生徒として送り出す、という気持ちでは見られなくなってしまった。
俺にとっても、二度とない特別な卒業式だ。
周りには秘密だが、今夜、咲耶の家で夕食に呼ばれている。
咲耶に聞いた話では、鉄治氏が「さっさとつれてきなさい」と聞かないらしい……咲耶は不安がっているが、少し楽しみに感じている自分がいる。
◇
「シャーロット先生、ずいぶん、感動されてます?」
目の前の席にいる山脇先生が、隣のシャーロットがぽろぽろと涙を流しているのを気にして、小声で訊いた。
普段、野球部の指導もあって、運動しやすい格好をしていることが多い山脇先生も、今日は担任としてびしっと礼服だ……恰幅よく見えて、どことなく熊っぽい。
「……私、自分の高校は、飛び級で卒業式に出られなかったから……咲耶が、なんだか、自分と重なって……」
……ああ、と納得顔をした山脇先生が、ふと思い出した様子で、ポケットに手を入れた。
「卒業生の付けてる造花の余りです――先生にも、ひとつ」
シャーロットは、そっと受け取って、大切そうに両手で握りしめた。