表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】辰巳センセイの文学教室【ネトコン受賞】  作者: 瀬川雅峰
終章 こころの時間_2020年3月編
114/118

24 丘の上の空

「……円城。なぜ、ここが」


 私は、まず手にもった線香を供えて、続いて花束を置いた。 

 黙ったまま、しゃがんでそっと手を合わせる。


 ――初めまして、恵里さん。やっとお会いできました。


 心の中で、恵里さんに一つ、お願いをした。

 目を開けて、センセイの方へ振り向いた。


 センセイは少しだけ後ずさって、私との距離を離している。


「この場所は……美幸さんにお聞きしました。彼女はもうセンセイの前には現れないそうです」


「美幸が……君にここを教えた……」


「はい」


 遠く、海の香りがする。


 寒々しく、しかし真っ青に晴れた空。

 私は、大きく、静かに息を吸った。冷えた、でも爽やかな空気が胸いっぱいに満ちる。

 張り詰めたものが……自分の中から溢れそう。



 ――意を、決した。



「センセイから卒業なんて、私はイヤです。これからは先生と生徒でなくなるというなら、隣で一緒に歩かせてください」


 びゅうぅっと強い風が吹き抜ける。

 風に声を消されないように。全てを届けられるように。


「センセイの過去も、罪も、美幸さんから伺いました。苦しいなら、なおさら一人なんてダメです。センセイがみんなを支えてきた。私も、琴美も、麻衣も、ロッテも……みんなセンセイに助けてもらった」


 この三年間でセンセイと繋がったから、背中を押してもらえた。私も、みんなも。


「前を向くことを教えてくれたのはセンセイでした。隣にいれば支えにもなれるのに、どうして一人になろうとするんですか?……私のこと、お嫌いですか?」


 センセイは、私をまっすぐに見つめている。

 視線が、今までと違った。

 ……今日は、私を生徒扱いしないで。一人の女性として見てほしい。


「……俺の罪は、俺のものだから。円城にはなんの責任もない。俺が君のことを嫌いなはずが、ない。結城にも言われたよ、俺は君が好きだと。もう、自分でもわかってる……でも……だから、なおさら付き合わせるわけには……」


 センセイの、バカ。

 ……そういうのを、子供扱いって言うんです。


「私はセンセイと、同じところを一緒に歩きたいんです。そんな遠慮、最初からいらないって、されるだけ迷惑だって、わかりませんか?」


 涙が出てきた。でも、途中でやめたりしない。

 全部届けるんだ。


「辛かったら、泣いてください。泣き止むまで、手をつなぎます。一緒に泣いてあげます。痛いところがあったら撫でてあげます。それだけしかできなくたって、一人で泣くより……きっと少しは、楽です」


 センセイが苦しそうな顔をする。そんなに辛いのに、どうして――。


「俺は恵里に二度と会えないし、謝れない……だから、ずっとこうして、命日に通っている……君まで……」


「……センセイを一生縛り付けようなんて、誰も、美幸さんも、恵里さんだって思ってないんです。センセイ、気付いてたんじゃないんですか?美幸さんの本当の気持ちに……」


「……」


「ここの場所を美幸さんに聞いたとき、いろんな話をしました。彼女の本当の気持ちも。私が気付いたきっかけは……クリスマスの日、最後に美幸さんが見せた微笑み。そして」


 あの日の……。


「センセイのしてくださった……最後の『こころ』の授業です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓いただいたファンアート、サイドストーリーなどを陳列中です。
i360194
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ