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【書籍化】辰巳センセイの文学教室【ネトコン受賞】  作者: 瀬川雅峰
終章 こころの時間_2020年3月編
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17 パーティーへようこそ

12月24日(火) 終業式後 午後2時30分


 そろそろ、いかないと。

 職員室で仕事を切り上げ、大会議室へ。


 今年のクリスマスパーティーは、ひと味違う、と橘麻衣に言われていた。


 そもそも、昨年ウェンディ先生の突然の離任をきっかけに、創作部が開いたミニパーティーだったわけだが、誰からともなく、今年もやろう、という流れになっていた。


 で、やるからには……といつもの創作部のノリで話は盛り上がり、ケーキ食べよう、お茶飲もう、どうせなら他の文化部も誘ってみよう、ステージパフォーマンスやって盛り上がろう、先生特別教室じゃ狭いんで大会議室貸してください……と話が大きくなっていった。


「……相変わらず、創作部は元気ですねぇ」


 他部の顧問の先生方から、感心半分、あきれ半分の反応をもらう……前向きなことはいいことなのだが。



 会場に着くと、既にパーティーはたけなわだった。部屋が薄暗くなっていて、はっきり見えないが、相当な人数が集まっている。

 受付に円城がいる。去年も引退した3年生が受付をしてくれたっけ。


「センセイ、来てくださってありがとうございます……あの」

 円城の顔が、微妙にうかない。


「どうした。なんかあったか」

「……いえ」


 何か言いたそうにも見えるのだが……ドリンクをもらって、部屋の中へ進む。


「先生、ひさしぶりです」

「もうすぐ、本当に卒業ですね」

 2年生までの部員に加え、今日だけ参加しにきている3年生の結城や尾上とも挨拶を交わす。みんな手にプレゼント交換用の品を提げ、ほころんだ表情だ。


 簡易ステージでは橘麻衣が一つ目の余興、高速ドローイングを披露していた。


 こちらに気付いて、メリークリスマス!と挨拶してくる生徒たちに挨拶を返しながら、ステージから見て正面、壁際に落ち着く。


「次のステージは、軽音楽部のアコースティック演奏です」

 ドローイングを終えたばかりの麻衣が、司会に戻ってアナウンス。まだ息が少し上がっている。


……普段あまり関わりはないが、軽音楽部と聞くと2年前を思い出す。横山が体育祭でギターを弾いて、円城とのトラブルを水に流してくれて。彼らから数えて、3学年も下……現2年生が演奏している。


 軽音楽部の演奏についでは、落語研究会の高座……人情噺の「芝浜」。


 酒で仕事に身が入らない魚屋の旦那が大金を拾って有頂天になる。が、妻は大金を夢だと思い込ませて仕事に打ち込ませる。三年後、すっかり立ち直った旦那に、妻はすまなかった、と涙ながらに事情を告白。思い切り飲んでください、と酒を用意する……。


――やめとこうか。また夢になっちゃいけねぇ。


 温かい笑い。

 クリスマス用の出し物として、なかなかの見応えだ。


 酒を飲んで夢にできるなら……ほんの少し、皮肉な思いがかすめた。



「それでは、余興は一休み。しばらくご歓談をお楽しみください……と、その前に、特別ゲストからご挨拶があります」


 創作部部長、麻衣が言った。


 壇上の姿に、目を疑う。


「突然お邪魔させていただきました。鷹取美幸と申します」

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