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プロローグ

「調査ですと?」



「うん。君が少し前に転生させた魂の様子が、少しおかしくてね。転生先の世界に行って確認してきてよ。君は『転生神』だろう?」



 目の前でソファに座っている金髪イケメン―名前をソルと言う―が儂に面倒臭そうにそう言った。奴は隣に座っている、これまた金髪の美人の肩に手をかけて、さっさと二人でイチャイチャしたいという雰囲気をビンビンに漂わせている。



 くそう、羨ましい。儂は元人間だったが、寿命で死んだ後、そのまま老人の姿で『転生神』になった。儂だってこんなよぼよぼのじいさんの格好でなけりゃ、女の十人や二十人余裕で侍らせられるというのに……

 燃えたぎる嫉妬の炎を表情に出さず、質問する。



「承知しました。その魂の特徴は?」



「それについては、君が見たらすぐに分かるだろう。向こうでは臨機応変に頼むよ」


 

「はぁ……」



 ずいぶんとざっくりした指示である。ソルは儂の上司なので、命令には基本的に従わなければいけない。



「それじゃ、お願いね。さぁ、ルナ、僕の部屋に行こうか」

 


「はい、ソル様」



 ルナと呼ばれた女とソルが部屋から出ていく。それを尻目に、儂は強烈な劣等感に苛まれていた。今に感じたことではない。一人寂しい儂と比べて、日頃から奴は、見せつけるようにいつでもどこでも女と戯れていやがる。しかも、不特定多数の女と。

 

 

 ぎぎぎ、こうなったら儂もハーレムをつくってやる。この調査は好機であると言えよう。なに、少しくらいサボってもばれはしない。

 

 

 『転生神』のままではその世界に干渉できないので、調査の為には転生する必要がある。『転生神』である儂にとって、転生時の顔つきや能力、家柄をある程度指定して転生することは容易いのだ。



「顔つきは金髪碧眼のイケメンで、戦闘能力は最大レベルだな。家は貴族がいいだろう……。よし、転生開始!」



 ふふ、これで女に受けること間違いなし。

 高らかに宣言して間もなく、儂の意識は闇に包まれた。





◇◆◇



 


 転生後の儂の名前はルージュ·アルフベルグ。貴族であるアルフベルグ家の四男であり、現在の年齢は十五歳である。

 儂の住んでいる国はラドー王国という。また、この世界には魔法が存在し、人間たちの生活に欠かせないものとなっている。



 転生前に決めた見た目通り、儂は金髪碧眼の端正な顔つきをしている。両親や兄弟、同世代の男と比較しても、頭ひとつ抜けているといっても過言ではない。背丈もそこそこで、何度か参加したパーティーでも、儂の周りに人だかりができるほどだった。



 ハーレム形成に必要な前提条件としての見た目は問題ない。ならば他に何が必要なのか。武力? 知恵? 度胸? 話術? 運命的な出会い?

 武力は十分にある。それ以外は経験を積むしかないな。出会いに関してはほとんどが運によるものだろう。

 


 しかし、貴族の四男とはどのくらい女を囲えるのだろうか? 適当な家に婿入りして、そこで終わりな気がしなくもない。もう少し厳密に転生先を指定すべきだったか。



 自分の部屋でそんな事を考えていると、扉の外から使用人の声がかかった。



「ルージュ様、お食事の用意が整いました」



「うむ、今行く」




 

◇◆◇





 儂が大広間に向かうと、すでに父上と母上は席についていた。ちなみに他の兄弟は皆この家を出ており、住んでいるのは家族三人と使用人が何人か、という具合である。

 


「遅くなって申し訳ありません」


 

「構わんよ。ではルージュも来たことだし、食事を楽しもうか」



「えぇ、そうね」



 いつものように食事が始まる。しかし、儂はかすかな違和感を感じていた。今日のメニューはすべて儂の好物である。それだけなら問題はないが、父上と母上の態度が妙によそよそしい。話しかけても上の空といった感じだ。何かあったのだろうか。



 それでもそのまま食事を続けていると、強烈な眠気におそわれた。手に持っているナイフとフォークを思わず落としてしまう。がしゃんと耳障りな音が響くが、頭はまったく冴えてくれない。



「あ……?」



 意識が遠のく中、微かに父上の声が聞こえた気がした。





◇◆◇





「ルルさん、三番テーブルに指名はいったよ!」



「はい、今行きます!」



 父上に睡眠薬を盛られた日から約一週間後、儂は女性向け風俗店の従業員、いわゆるホストとして働いていた。『ルル』という源氏名で。



 いや、どうしてこうなった。

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