王と話し合い
宴は、宴もたけなわな内に終わりを告げた。
というよりは、単純にエルフ達が盛り上がりすぎてそろそろ制止させることが出来なくなりそうだったので、強制的に終了させられた、とも言うが。
まあ、宴が盛り上がるのはいいことだし、アレン達に何か被害が生じたわけでもないので問題はないだろう。
ただ、一人の犠牲を許容できれば、の話ではあるが。
「ノ、ノエル、大丈夫ですか……?」
「……これが大丈夫に見えるのならば、リーズの目はもう駄目でしょうね」
「まあ、ずっとエルフの人達の相手をしてたわけだしね。お疲れ様」
「……ていうか、少しは助けなさいよ」
「むしろアンリエットは手伝ってた方だと思うですよ? まあ何故かあいつらがアンリエットの方にちょくちょくやってきた、ってだけではあるですが……」
「……それを言ったら、ミレーヌ達も多少は手伝ってた?」
「というか、そもそも主賓に話しかけに行くのは当然だし、それを邪魔するわけにはいかないしね」
そう言って肩をすくめるアレンの前で、ソファーにぐったりと横になりながら、ノエルが恨みがましい目で睨んできていた。
だが今も言ったように、それは仕方なく、どうしようもなかったことだ。
まあ、要するにノエルは、エルフ達と話し疲れてしまったというわけで、彼女がこうなってしまったことだけが被害と言えるかもしれない唯一のこと、というわけであった。
「と言いますか、辛かったのならばそう言えばよかったのではありませんか? さすがに本気で嫌がれば彼らも止めてくれたと思いますが……」
「……あの人達が本気で喜んでることぐらい、あたしにも分かるもの。そこに水を差すほど無粋じゃないわよ」
どことなく不機嫌そうにそんなことをノエルが口にした瞬間、アレン達は思わず顔を見合わせあっていた。
それを目にしたノエルがさらに不機嫌そうに顔を歪めるものの、仕方のないことだろう。
「……ノエル、風邪引いた?」
「……どういう意味よ」
「そういう意味だと思うよ? 僕も正直同感だしね」
「まあ、アンリエットですら、らしくねえと思ったぐらいですしね」
口々に好き勝手言っていると、リーズが唐突にノエルへと近づき、その手をノエルの額へと伸ばした。
それと同時に、もう片方の手を自らの額に乗せ――
「えっと……熱はないみたいですね」
「あなたの行動が何気に一番失礼なのだけれど?」
まあ、無言で熱を測るという行動は、一番心配している風ではあるものの、一番失礼であるのは間違いない。
ただ、リーズがそうするのも仕方ないだろうなと思うぐらいには意外だったのも事実だ。
「やっぱりと言うか、同胞意識とかってあったりするの?」
「さあ……どうなのかしらね? ただ……戸惑いはあったけれど、嫌悪感がなかったのは事実ね」
「そうですか……その、ノエルはやはりエルフの王になって、ここに残るんですか?」
「やはりって、何でよ」
「……ここのが好き勝手出来そうだから?」
「ああ……確かにここならいつまでも好きに寝てたところで何も言われなそうだよね」
「あなた達があたしのことを普段からどう思っているのか、よく分かったわ」
そう言ってジト目を向けてくるものの、相変わらずその状態から動こうとしないのは、何だかんだで疲れているのは本当だからだろう。
実際に何かをやっての疲れではなく、気疲れ的なものなのだろうが、普段はそういったこととは無縁の生活をしているノエルだ。
そのせいもあって余計に疲れたに違いない。
「まあ冗談はここら辺にしておくとして、実際のところ本当にどうなの? どうするか既に決めてたりするの? 別に王になったところでここに住まなくて問題はないみたいなことは言ってたけど」
「え、そうなんですか?」
「ああ、そういえばその話はしてなかったでしたっけ? エルフの種族特性の話は既にしたですよね? あれはあくまでも概念的な話であって、本当に王がそこにいる必要はねえんです」
「はぐれになったエルフの成長が止まったりすることがないのがその証拠とか言われたね」
「……確かに? はぐれのエルフは珍しいけど、だからそんなことがあったら間違いなく噂になってるはず」
「いくら長命種とはいえ、まったく成長しなかったらさすがに分かるだろうからね。あああと、実務系はあの代行の人がやるってさ」
「王になったからといって、すぐにそんなことが出来るわけじゃねえですからね。つーか、無理にやろうとしても邪魔になるだけだと思うです」
「……なるほど。そういうことなのでしたら、エルフの種としての存亡がかかっているのですから、受けて問題ないのでは……と言いたいところですが、ノエルの性格を考えればそのまま後は任せてしまう、などということは出来ませんよね」
アレンと同じ結論に達したリーズの言葉に、つい苦笑を漏らす。
見ればミレーヌも頷いているあたり、同感のようだ。
気が合うと言うべきか、それだけノエルが分かりやすいと言うべきか。
さて、どちらになるのだろうか。
「そういえば、色々と話をしてたみたいだけど、一体何の話してたの?」
「別に大したことは話してないわよ? あたしは普段何をしているかとか、そんなことを話していただけだもの」
「他にはなかったんですか? それだけですと、わたしが話していたのとほとんど同じということになるのですが」
「……こっちも似たようなことを聞かれた。あまり話せなかったけど」
「以下同じく。んー……向こうからは何かなかったの? 王になって欲しいっていうんだから、そういう話をしそうなものだけど」
「押し付けがましくなるとか言って、そういったことはあんま口に出そうとしなかったんじゃねえですかね? 贔屓目とかじゃなく、あいつらなら言いそうですが」
「……実際そう言われたわよ。あまりにも言われないものだからこっちから何か言いたいことはないのかって聞いてみたんだけど……」
そこでノエルが溜息を吐き出したのは、言ってくれればもう少し話は早かったのに、とか思っているに違いない。
頼まれれば、その頼み方なども判断材料の一つになる。
だが全て任せたと言われてしまったら、自身の良心こそが最大の判断材料となるのだ。
それはやりづらかろう。
「まあ実際のところ、好きにすりゃいいと思うですよ。あいつらは本当に王の血筋がまだ生きててくれたことが嬉しかったから歓迎しただけで、それ以上の他意はねえでしょうからね」
「だからそういうのが一番やりづらいっていうのに。素直に助けを求められた方がまだマシだわ」
「まあそうすっと、今まで自分達のやってきたことを自分達で否定するようなもんですからね。そういう意味でも助けは求められなかったんじゃねえかと思うですよ。ま、個人的には断ってくれた方がいいんじゃねえかと思ってたりもするですが」
「王がいなくても成長する事が出来るようにって試行錯誤してる最中だから?」
「そんなことをしていたんですか? ……いえ、種の存亡の危機となれば、当然ではありますか」
「……街でよくエルフの姿を見かけたのも、その一つ?」
「そんなとこですね。ただ、どっちかっつーと、アンリエットが言ったのは種族特性的な意味で、ですがね」
その言葉に首を傾げたのは、言ってる意味がよく分からなかったからだ。
エルフの種族特性とは王がいなければ成長出来ないということであり……つまり、成長しない方がいいという意味だろうか?
「んー……アンリエット、いくら何でも自分の趣味のために他人が成長しないことを願うなんて、アレすぎると思うよ?」
「オメエはアンリエットのことを何だと思ってやがんです? 全然違うですよ。エルフは王がいなければ成長出来ねえですが、その成長の仕方は王に似るんです」
「似る、ですか……? それは……成長の仕方が、ということでしょうか?」
「その認識で合ってるです。要するに、王の趣味次第でエルフ全体の方向性が決まるってわけですね。で、エルフが魔法に秀でてるって言われてる理由も実はそこにあるです」
「……今までの王は、魔法が得意だった?」
「ってわけです。で、そこでノエルが王になったらどうなると思うです?」
「あー……鍛冶を得意とする方向に変わるってことかぁ……」
今までが今までであった分、そこにはかなりの戸惑いも発生しそうだ。
それは確かに、いっそノエルは王にならないで今のまま成長出来ないかを模索し続けた方がいいのかもしれない。
「……そう言われると、何故か王になってもいいかもしれないとか思ってしまうのだから不思議なものよね」
「変なところで天邪鬼ぶりを発揮しないでください」
まあ結局どうするのかは、ノエル本人の意思と、エルフ達次第だ。
ここに無理して残る必要がない以上は、外野がとやかく言うことではあるまい。
「まあ、そもそもすぐに決めなくてもいいって言われてるんでしょ?」
「十年単位で待つって言われてるわ。その程度ならば成長しなくとも大差ないだろうから、って」
「……さすがは長命種?」
「無理に結論を急がせてもいいことにはならない、ということをよく知っているんでしょうね。それでも十年単位というのは、さすがですが」
とりあえず急ぐ必要はなく、ノエルは本当に疲れているようなので、このまま解散し寝る、という運びとなった。
気前がいいのか王のためだからなのか、アレン達に丸ごと一軒家が貸し与えられている。
別にすぐにアンリエットの屋敷に戻ることは出来るため、本当は必要ないのだが……折角ということで、世話になることにしたのだ。
まあ、エルフの森で寝泊りするなど、そうそう出来る事ではない。
アンリエットの屋敷に戻らなければならない理由もないのだから、むしろここは損というものだろう。
たとえそれで、何がどうなるわけでもなかったとしても、だ。
ともあれそういうわけで、割り振られた寝室へと向かうべく、アレン達はその場を後にする。
――その間際、アレンは一度だけアンリエットへと目配せをすると、そのまま皆の後に続くのであった。




