懐かしの夢
4/20 今更ながらに若干サブタイが被ってたことに気付いたために変更。中身は変わっていないため読み直す必要はありません。
――よくある話と言ってしまえば、よくある話ではあった。
力を持ちすぎた者の末路。
英雄の最期。
怪物を討ち果たした先にあったのが人々から向けられる恐怖と排斥であったなど、古今東西に有り触れている話だ。
そう、本当に、よくある話でしかなかった。
「ですが……だからといって、オメエはそれを望んでいたわけじゃねえはずです」
当然の言葉に、肩をすくめる。
マゾでもあるまいし、命を賭けて戦った報酬に人々から嫌われることを望むわけがないだろう。
「ですよね。……すまねえです」
何故謝られるのかが分からず、首を傾げる。
今の言葉がただの確認ためのものであることなどは言われずとも分かっていることだ。
謝られるような理由はないはずであった。
「あるですよ。ワタシ達は……ワタシは、オメエにそんな思いをさせるためにオメエのことを英雄にしたわけじゃねえんですから。……まあ、勝手な言い分なのは分かってるですが」
そんなことはない。
確かに他に道がなかったことは事実ではあるが、別に逃げられなかったというわけではないのだ。
そうしなかったのは、結局のところ自分の意思に他ならない。
それはここに至るまでの全てに言える事だ。
ほんの少しでも戸惑えば、躊躇えば、きっとこうして逃げ出すことなんてなかっただろうに。
「ですが、その代わりにきっと失われなくて済むはずだった誰かが失われて、泣かずに済むはずだった誰かが泣いていたはずです。オメエはそれを嫌ったからこそ、全てを一人でやり遂げたんでしょう? ……そしてそれは、ワタシの望んだ英雄像そのものでもあったです」
そんな大それたものではなかった。
ただ、やれるだけの力を与えられ、やらなければ寝覚めの悪くなりそうな状況があっただけのことだ。
誰かのためを思ってのことというよりかは、単に自分のために他ならない。
きっと他に相応しい誰かがいてくれれば、喜んでその役を譲ったはずだった。
「でもオメエはやってくれたです。それが事実で、それだけがあれば十分です。だからオメエはやっぱり英雄と呼ぶに相応しくて……だけど、そんなオメエをこの世界は受け入れなかった。ならやっぱり、ワタシはオメエに謝らなければならねえです。オメエを英雄なんかにしちまった罪人の一人として……何よりも、オメエのような存在を心の底から望んじまった一人として」
そんなことを真っ直ぐな目をして言われても、背中がかゆくなるだけだ。
感謝してることも、申し訳なく思っていることも十分分かったから、それならさっさとこちらの願いを叶えて欲しいものである。
「それは構わねえですが……本当にいいんですか? オメエはそれで――」
視線で制し、その先は言わせなかった。
もう決めたことなのだ。
「……分かったです。オメエの意思を尊重するですよ。じゃあ、元気で……と言うと、少しおかしいですかね?」
確かに、これから死のうとする人物にかける言葉としては適切ではないような気もする。
だが間違っているわけでもないのだから、問題はないだろう。
「そうですか? なら、そう言わせてもらうです。じゃあ、元気でやるですよ――ワタシ達の英雄さん」
そんな言葉と共に、最後に目に映ったのは、今にも泣き出しそうな笑顔で――。
――そんな夢を見た。
「……また随分と懐かしい夢を見たもんだなぁ」
見慣れた天井を眺めながら、アレンはつい苦笑を浮かべながら呟く。
今更こんな夢を見るとは、思ってもいなかったからだ。
何せ未だに鮮明に思い出す事が出来るとはいえ、あれはもう十五……いや、そろそろ十六年も前になろうかという出来事なのである。
本当に色々な意味で、今更過ぎる話だ。
「……ま、あくまでも僕の主観では、の話だけど」
端的に言ってしまうのであれば、たった今見た夢はアレンの前世の夢であった。
しかも最期も最期、アレンが死ぬ本当にその間際のものである。
あの直後に、アレンは死ぬことになるのだ。
まあ厳密に言うならばその言い方は正しくないのだろうが……直後に転生したということを考えれば間違ってもいまい。
「さて、そんなことより、と」
懐かしいのは間違いないし、思うところがないと言えば嘘になる。
だが結局は、昔の、今とは世界すら異なる場所での話なのだ。
もっと昔、それこそ十年ほど前であればもう少し懐かしがったかもしれないが、今更過ぎることである。
本当にどうして今更夢になど見たのやら、などと思いはすれども、それだけ。
すぐに気分を切り替えると、起き上がった。
まだ朝早い時間なれども、今日はのんびりしている余裕はないのだ。
素早く身支度を整えると、そのまま自室を後にした。
――早いもので、王都での一件があってからそろそろ半年が経とうとしていた。
王都の方は色々と大変なようで、アレンの耳にもちらほらとそういった話が聞こえてはくるものの、遠く離れた辺境の地にいるアレンには関係のないことだ。
精々が心の中で応援するぐらいであり、アレンは今日も平穏な日常を探し求めている。
そう、アレンは未だに平穏な日常を手に入れることが出来ていないのであった。
とはいえ、半年前のようなことがまた起こっている、というわけではない。
リーズ達の手伝いなどをすることはなく、確かに当時から比べれば今は十分平和ではあるのだろう。
しかしアレンが望んでいるのは、縁側で日向ぼっこをしながら茶でも飲むような、そんな文字通りの意味で何もない日々だ。
それから考えれば、今の日々はそれからは程遠い。
つまらない?
爺臭い?
結構だし、褒め言葉だ。
アレンと同い年ぐらいの少年ならば、冒険などに身を焦がす者も珍しくはないのだろうが……あんなものはクソ食らえである。
一度も面白いと感じた事がないと言ってしまったら嘘になるだろうが、その果てに待っているのがあんなものでは――
「っと……うーん、どうもあんな夢をみたせいか、引っ張られてる感があるなぁ」
切り替えたつもりが、完全には切り替わってはいなかったようだ。
前世のことは前提として存在してはいるものの、今は今なのである。
あまり引っ張られすぎてはいけない。
もっとも、平穏を求めているという時点では今更と言えば今更ではあるのだが。
ともあれ。
「ま、それはそれとして、今の生活はさすがにちょっとアレだしね……」
確かに、半年前のようなことはない。
だが代わりとばかりに、ちょっとしたことならばちょくちょく起こっているのだ。
やれ強大な魔物が出ただ、やれ無駄に強大な力を持った人物が暴れているだ、そんなことが日常茶飯事……とまでは言わないまでも、確実に三日に一度は起こっているだろう。
平和な日常からは程遠いということに変わりはない。
しかもそのたびアレンが何故か狩り出されるのだ。
まあ、何故かも何も明らかにギルドに目を付けられてしまったからだが……放っておけば自分にも火の粉が降りかかりそうだということが分かってしまうために放っておくことも出来ない。
さらにはこの街から外に出たところで、それは変わらなかった。
何度も平穏な日常を送れそうな村はないかと探しにいったことはあるのだが、行く先行く先でどうしてかトラブルに巻き込まれるのだ。
……いや、知らないフリはやめておこう。
それもある意味ではギルドが原因だ。
とはいえそれは悪気があってのことではない。
辺境の地は、土地だけは広大であれども、ある意味では閉ざされた場所だ。
そのため、重要だと思われるような情報はしっかりと伝わっているらしく……どうやらその一つにアレンのことがあるようなのである。
具体的には、それなりに腕が立ち、困った事があったら頼ればたちどころに解決してくれる、といったようにだ。
そんなわけで行く先行く先で色々と頼まれてしまい、結果的にトラブルに巻き込まれることになっていた、というわけである。
もちろん、断ることは出来ただろう。
しかしアレンはいわば移住先を探しに行っていたのである。
だというのにどうして自ら村八分になりにいくようなまねが出来ようか。
それを構わないと言えるようならば、最初から山奥などに隠居しているという話だ。
アレンはあくまでも平穏に過ごしたいだけで、人と関わりたくないというわけではないのである。
だがそういったこともあって、アレンはここ最近は外に移住先を求めに行く、ということをしなくなっていた。
トラブルへと自ら首を突っ込みに行くようなものなのだから、当然だ。
しかしここはここで辺境の地最大の街ということもあって、頻繁にトラブルが発生する。
先に述べたように平穏とは程遠い生活をすることしか出来ず……ゆえに。
アレンはついに、この国から出て行くことを決めたのであった。
予定通り更新再開します。
更新間隔は大体四日に一度程度になる予定です。
また、プロット作っていたら辺境から出て行くことになってしまったためタイトル若干変更しました。
まあ、辺境で、という言葉を削っただけですが。




