表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/180

元英雄は平穏に暮らしたい

 その日は随分と慌しい一日となったと、後の記録には残されている。

 何せ王都に悪魔が現れたばかりではなく、そのことに王城側は誰一人として気付けなかったのだ。

 気付いたのは全てが終わった後のことで、関係者は血の気が引く思いがしたという。


 それでも最低限取り繕うことが出来たのは、第一王女がその場に居合わせ、第一騎士団が悪魔と遭遇していたからだ。

 気付くのに時間がかかったとはいえ、即座に対応に移る事が出来たのはそのためである。


 何よりも、王女がいたおかげで混乱しそうになる民衆が比較的落ち着いていたというのが大きい。

 そこで大きな混乱となっていたら、他国が付け入る隙ともなっていただろう。

 その後の王国が変わらぬ平穏を維持できたのは、間違いなくその要因が大きかった。


 一方で大きな混乱に見舞われることとなったのは、やはりヴェストフェルト公爵領である。

 当主及び次期当主が悪魔と手を組んで国家反逆をしでかしたのだ。

 公爵家であり多大な貢献があるとはいえ、お取り潰しとなるのは避けようがなかった。


 しかしそうなると、残された領地が問題となる。

 領民達には罪がない上、国防の観点から言っても非常に重要な土地だ。


 そして他の家に任せようにも、任せられる家がないときている。

 厳密には受けようとする家がない、ではあるが、同じことだろう。


 そこで王家が考えたことは、今回のことで多大な貢献を上げた者に爵位と共にその領土を与える、というものであった。

 これは間違いなく異例のことである。

 何せその者は、身分すらも(・・・・・)定かではなかった(・・・・・・・・)のだ。


 しかも、与えられることとなった爵位は、公爵位。

 王家の正気を疑われたところで不思議はなかっただろう。


 だが何故か(・・・)それに対し反対する者はいなかったという。

 反対したところでその領地を受け取る事は出来ないからだの、王女達と共に首謀者達を捕まえることに尽力したことを評価されただの、様々な推測はあるものの真相は不明である。

 民達の噂の中には、実は追放された王族だった、などというものも存在していたが、それは有り得まい。

 それを事実とする資料は何一つとして確認できていないからである。


 ともあれ、それで全ては解決した――かと思いきや、そうはならなかった。

 どうしてそんなことになったのかは未だ不明のままだが……何にせよ、そう(・・)なったということだけは事実である。








 未だ慌しさを残す城内。

 しかしそんな中にあって、そこだけは他と違った空気に包まれていた。


 それは張り詰めていながらも、どことなく安堵に似たものだ。

 入り口より最も遠く、またその場の誰よりも高き場所に座っているのは、この国の王である。

 謁見の間であった。


 そして王の視線の先にいるのは、一人の少年だ。

 身元不詳――ということに(・・・・・・)なっている(・・・・・)少年であるが、今回の件での多大な貢献を評価され、異例中の異例ながら公爵としてこれから叙勲されようという者である。


 長々とした口上が述べられ、これからようやく実際の叙勲に移るとなった段階になり、それを見守っていた貴族達の間から、思わずといった感じで息が漏れた。

 それは安堵である。

 突然公爵に叙勲されるとあっては内心面白くない者も多いだろうし、嫉妬の一つもあっても不思議ではないが、それがないのは表に出さないようにしているからではなく、本当に安堵の方が大きいからだ。


 何せ、悪魔と渡り合ってきたと思われていた家の者がその実悪魔と通じていたのである。

 しかもその事実は既に民達の間に広まってしまっていた。


 その当主達は取調べを入念に行った後で既に処分されているものの、それで解決される問題でもない。

 しかもその取調べにより、真偽を見分けるギフトに、本人が真実だと思っていたり、思わされていた場合には有効ではなくなる場合もあるなどの問題が発見されたり、他にも多くの問題が発生していたのだ。

 一刻も早くヴェストフェルト家の代わりを探すと共にその穴を埋める必要があった。


 だがこれで一先ず最も大きな懸念が解決することとなる。

 そのことに皆は安堵していたのであり――


「――そして汝による多大な貢献を評価し、ここに公爵の地位を授けることとする」

「――謹んでお断りいたします」


 ――瞬間、その場の空気が凍った。


 比喩抜きで全員が呼吸を忘れて少年のことを見つめ、呆然とした顔を晒している。

 まさかこの期に及んでそんな返答がなされるなど、誰一人として――いや、ただ一人を除いて、予想すらしていなかったのだ。


 そんなこと出来るわけがなく……しかしそんな空気など知ったことかとばかりに少年は今まで俯けていた顔を上げると口を開きだした。


「お言葉ですが、このようなどこの馬の骨とも分からぬ輩に公爵位を与えた挙句、この国にとって最も重要である土地すらも与えるなど暴挙にも等しいかと。この国のことをこそ思えば受けるべきではなく、故に辞退させていただきます」


 そんな言葉を告げると、少年は返答は受け付けないとばかりに立ち上がり、さっさとその場から歩き出してしまった。

 暴挙というならばそれこそが暴挙であり、この場に斬り捨てられても文句などは言えなかっただろう。


 そうならなかったのは、あまりにもその行動が予想外すぎたのと……それが無理だという事が分かっていたからだ。

 話によればこの少年は、この国で最強と謳われた第一騎士団の団長と勇者を相手にして圧倒してみせた()ヴェストフェルト公爵家当主を倒したというのである。

 この場にいた全員が取り押さえにかかったところで返り討ちにあうだけだろう。


 それに何より――


「……よろしかったのですか?」

「なに、構わんよ。予想出来ていたことだからな」


 その場で唯一少年の言動に驚かなかった者――王は、そう言いながら少年が姿を消した扉へと視線を向けていた。

 そう、誰も動こうとしなかったのは、少年が背を向けた直後に王が構わぬから手出し無用ということを示したからでもあったのだ。


 そしてその言葉の通り、王は少年の言動を予め予想していた。

 少なからずあの少年のことは知っていたし、何よりも聞かされていた(・・・・・・・)からだ。


「しかし、これではあの地の穴埋めが……」

「それも問題はない。実は既に穴埋めは終わっているからな」

「……え? そうなのですか?」

「うむ、だからこれは断られることを前提としていた茶番だったということだ。まあ、彼には伝えてはいなかったため、互いに無礼を晒した、ということになるがな。正直受けられてしまったらそれはそれで困った……いや、その時はその時で問題はなかったか。あの娘(・・・)もどことなくそれを望んでいた節もあったからな」


 そう言って、王は口元に笑みを浮かべながら、目を細めた。

 それはどことなく楽しげではあったが、獲物を狙う狩人のものでもある。

 これは予想通りのことではあったものの、彼のことを諦めたわけではないのだ。


 なるほど彼は確かに、我々の常識からすれば無能で出来損ないとなるのかもしれない。

 だがそれは要するに、こちらが未熟だというだけの話だ。


 彼は既に自身の有用性を示した。

 示してしまった。


 ならばこの国の王として、逃がすわけにはいくまい。


「……ただその場合、一つだけ懸念があるのが問題だがな。さて、出来ればあの娘(・・・)に嫌われることなく全てを上手く回したいのだが……どうしたものかな」


 そんなことを呟きながら、その瞳の中にこの場にはいない誰かの姿を捉え、この国の王は苦笑を浮かべるのであった。












 後ろを振り返りながら、アレンはふと首を傾げた。

 正直なところ、あまりにもあっさりしていたからだ。


 もう少し何かあるのが自然だと思うが……前方に向き直ると、まあいいかと思い直した。

 厄介事がないのであれば、それに越したことはないからである。


 それに、アレンにはまだやらねばならないことがあるのだ。

 それについて思いを巡らせると、さてと呟き――











 男は自室の椅子に寄りかかりながら、一つ息を吐き出した。

 その脳裏を過るのはつい先日のことであり、思わずもう一度息を吐き出す。


 そうしながら、楽な仕事であったはずなのにとんだ貧乏くじを引かされたものだと、心底思う。

 アレから数日が経ったというのに、未だ落ち着かないのだ。

 本当にあの時は随分と肝が冷えたものであった。


「だがこれでもう安心のはずだ。皆にはしっかりと説明した以上、再びあそこへと手を出そうとする愚か者はいまい。時間が経てば分からんが……その時はもう自己責任だろう」


 さすがにアレ(・・)と事を構えるのはリスクが大きすぎる。

 目的を達成することは重要だが、それで死んでは元も子もないのだ。


 せめて次へと繋げるための死ならば話は別だが……アレと事を構えるのは、どう考えてもただの無駄死にである。


「まあ、今回のことは大きな痛手ではあったが、成果も十分にあった。あとは早々にここを引き払い、本国に戻るだけだな」


 そう呟くと共に、男はその準備をするために立ち上がろうとし――


「ふーん、そっか。じゃあ、ナイスタイミングだった、かな? さすがに必要以上に引っ掻き回すつもりはなかったしね」

「――っ!?」


 瞬間、聞こえるはずの声がない声が聞こえ、男は素早く声の聞こえた方へと視線を向けた。

 そしてそこには確かにいるはずのない少年の姿があり……驚きと恐怖に男の顔が歪む。


「ば、馬鹿な、何故ここに……いや、どうやって……!?」

「さて、懇切丁寧に説明してあげる義理はないんだけど……でも、何故、とは随分じゃないかな? 人の元実家を滅茶苦茶にしておきながら、その報いを受けずに済むとでも?」

「ばっ、なっ……!?」


 その言葉に、男は戦慄する。


 少年が何処の誰なのかということを、男は知らなかった。

 そんなことを調べている余裕はなく……だが、そういえば、確かにあの家にはもう一人子供がいたはずだ。

 あまりにも出来損ないで使えないとのことで会うことはなく、しかも追放したとのことだったはずだが……まさか……!?


「まっ、待て……! アレは確かに俺達のせいでもあるが、元はといえば向こうから接触してきたことだ……! 俺達には――」

「何の責任もない、と? それが通じるかどうかなんて、言うまでもないよね?」

「っ……!」


 全てを見通すような目で見られ、男は心の底から震え上がった。

 先ほどから逃げようとはしているのだが、まるで逃げ切れる気がしない。


 あの場では形勢が不利になったと悟った時点で即座に逃げを打ったから何とかなったものの……いや、この調子だとそれも疑わしかった。

 もしかしたらあの場では敢えて見過ごされていたのではないかという気にすらなってくる。

 この時この状況を、迎えさせるために。


「まあでも実際のところ、大半の責任は確かにあの二人にあるんだろうけどね。それをどうこう言うつもりはさすがにないよ。あの二人は、自分で望んであんなことをした。それは確かだ。ついでに言うならば、最終的に滅茶苦茶にしたのは僕でもある。――けれど」


 その瞬間、男は悟っていた。


 それは自分の死であり……何よりも。

 どうやら自分達は、神々などよりも遥かに触れてはならないものに触れてしまったようだ、と。










 ――その日その時、悪魔が根城としていた一角が、突如消滅した。

 痕跡も何も残っておらず、どうしてそんなことが起こったのかは、未だに不明のままである。











 後始末を全て終えたアレンは、王都の外れにまでやってくると、そこで待っていた人影に向けて手を上げた。


「や、ごめん、お待たせ」

「別にそれほど待ってはいないのだけれど……本当に来たのね」

「ん? どういうこと?」

「……叙勲式をすっぽかしたこと?」

「ああ……いや、別にすっぽかしてはいないよ? ちゃんとその場で断ったしね」

「むしろその方がよりタチが悪いわよ……まあ、あたし達には関係がないことだから構わないけれど」

「……好きにしたらいい?」


 そんなことを言うノエルとミレーヌに苦笑を浮かべながら肩をすくめると、アレンは二人にその場から移動するよう促した。

 全ての用件が終わった以上は、もうここにいる意味はないのである。


「ま、とりあえずあの街に戻るとしようか。僕は戻るでいいのか分からないけど」

「結局はしばらくはあそこに留まることにしたのでしょう? ならいいんじゃないかしら?」

「まあ何だかんだであそこは便利だしね。周辺の村とかの情報が集まるまではいる予定かな」

「……その後は移動する?」

「さて……それはその時になってみないと分からないかな」


 結構あそこはあそこで居心地がいいのだ。

 余計なトラブルさえ起こらないのであれば、あそこに住むというのもありではあるだろう。


 まあそのためには、まずは冒険者ギルドを何とかする必要がありそうだが。


「あ、そうそう、忘れるところだったけど、二人とも今回はありがとうね。おかげで助かったよ」

「……ほとんどあんたが一人でやってた気がするけれど、まあ、別に構わないわよ。少し気は晴れたし」

「……問題ない?」

「そっか……そう言ってくれると助かるよ」


 二人がここにいるのは、当然と言うべきかアレンが連れてきたからであった。


 あの時、将軍が王都に現れたという話を聞いた瞬間、アレンは大体の展開が読めていたのだ。

 その迅速な解決には二人の力が必要だと思い、連れてきたわけだが、その甲斐はあったと言っていいだろう。

 二人がいなければもう少し面倒なことになっていたに違いない。


 さすがのアレンでも、何でもかんでも一人で出来るわけではないのだ。


「あんただったら結局一人だったとしても何とか出来てたような気がするけれど……まあいいわ。ところで、ここから歩いていくの?」


 ノエルがそう尋ねてきたのは、来る時の手段は違ったからだろう。

 来る時には理の権能を使って空間を渡ったのだが――


「んー、さすがに色々あったからこれでも結構疲れててね。アレって結構疲れるんだよね。もう急ぐ必要もないんだし、のんびり戻りたいかな、と思って。まあ、すぐ戻りたいっていうんなら別だけど」

「そう……まあ、特に急ぐ用件もないし、そういうことならあたしはそれで構わないけれど……」

「……ミレーヌも構わない?」

「じゃあ、そういうことで」

「ところで、それはいいのだけれど……あの娘には何か言っていかなくてもいいの? それとも、既に言った後なのかしら?」

「ああ、うん、一応言ってはあるし、それに今は色々と忙しいだろうからね」


 あの娘とは、リーズのことで間違いないだろう。


 だがリーズは今や時の人だ。

 悪魔の手による王国の危機を守った聖女ということになっている。

 どうやら聖女の噂もこの際上手く使うことにしたようだ。


 しかしそういったわけで今や彼女はとても忙しいはずである。

 どこの馬の骨とも分からないような相手と会う暇はないだろう。


「馬の骨は馬の骨でも、この国を救った馬の骨でしょう?」

「その名誉を辞退した以上はただの馬の骨になっちゃったからね」

「……残念?」

「リーズに別れの挨拶を出来なくて、って意味では確かにそうだけど、かといってそのために面倒なことを背負い込んで平穏から遠ざかるのも嫌だしね。ようやく本来の目的に戻れるっていうのに」


 まあ、きっともう二度と会うことはないのだろうが、それが互いのためだ。

 次リーズと会うようなことがあれば、その時はおそらくまた何か厄介事があった時だろうからである。

 そんなことはない方がいいに決まっていた。


「さ、というか話は歩きながらでも出来るんだし、とりあえず――」

「――あっ、ようやく見つけました……!」


 行こうか、と口にしたようした瞬間、聞こえるはずのない声が耳に届いた。

 まさか、と思いながら視線を向けるも、視界に映ったのは見間違えるはずもない、銀色の少女であった。


「リーズ……? 何でここに……」

「何でって、アレン君達はあの街に戻るんですよね? わたしも連れてってもらおうかと思いまして」

「は……? いや、何で……? もう役目は終わったんだよね?」

「確かに役目は終わりましたが……自分の領地(・・・・・)に戻るのが、そんなに変ですか?」

「はい……?」


 今何か、よく分からない言葉が聞こえたような気がした。


 いや、実はその言葉が聞こえた瞬間に、まさか、という思考が過りはしたのだが――


「あ、そうそう、実はわたし少しだけ名前変わったんですよ? リーズ・ヴェストフェルト(・・・・・・・・)っていうのですが」

「――」


 その瞬間、アレンは思わず空を仰ぎ見ていた。

 まさかと思ったことそのままだったからだ。


 つまりこういうことだろう。

 ()ヴェストフェルト公爵領は、そっくりそのまま()ヴェストフェルト公爵領として扱われるということだ。

 これは最も混乱が少ないだろう措置であり、きっとアレンが爵位を授かることとなった場合も同様のことが起こっていたと思われる。


 それでも、アレン以外がそこの座に着くのは色々と問題が生じていたはずだが、リーズならば問題はない。

 今回のことで功績という名の建前としては十分だろうし、王位継承権を破棄した上でのことなら尚更である。


 しかもきっとリーズは名ばかりの当主であり、実権は別の人物に丸投げすることになるはずだ。

 実務的な問題も、何一つなくなるのである。


 ただ、気になる事があるとすれば、それは一つ。


「……それって、リーズがやる利点ってあるの?」

「ありますよ? 自分で言うのも何ですが、元々わたしって王女にあまり向いていませんでしたし。それに……わたしの友人(・・)は変わっている人ばかりですから。こうでもしないと気軽に会えませんからね」

「……本来は辺境の地は公爵家当主が気軽に来ていい場所じゃないと思うけどね」

「そうですか? 辺境の地と呼ばれていようとも自分の領地であることに変わりはないんですから、自分の目で確かめるのは必要だと思いますが」


 そもそも本来領地を自分の目で確かめるようなことを公爵家の当主はすることはないのだが、それはきっと言っても無駄だろう。

 そんなのは当主によると返されてしまえば終わりだからだ。


 それに……この問答は多分、ただの建前でしかなかった。

 全ての問題が潰れてしまった時に、ならば仕方ないと言うためだけのものだ。


 それが自分で分かったからこそ、アレンは溜息を吐き出すと肩をすくめたのである。


「……ま、決まった以上は仕方ない、か」

「はい、仕方ありませんね」

「あ、答えが最初から決まりきっていた問答は終わったかしら? それじゃ、さっさと帰りましょう?」

「……早くしないと、日が暮れる?」

「何か含んでるところがありそうだけど……確かにそれはその通りだね。それじゃあ、って、あれ? そういえばリーズ、ベアトリスさんは?」

「ベアトリスは元々近衛ですからね。わたしが王族ではなくなったのでその任も解かれましたから。まあ今はわたしについてくるために色々と手を回している最中らしいですが」

「そっか……え、ということは、リーズ一人ってこと? 今度は極秘の任務ってわけでもないってのに、それでいいの?」


 王族ではなくなったかもしれないが、仮とはいえ公爵家の当主になり、この国にとっての最重要人物の一人なのだ。

 さすがに一人で移動するというのは、まずいだろう。


 しかし。


「いいのと言われましても……アレン君がいるのに、他の人は必要なんですか?」


 真っ直ぐに目を見つめて言われてしまい、つい言葉に詰まった。

 自分で言うのも何だが、確かにそれは不要である。


 だがそれは――


「まあ確かに、不要よね」

「……下手すると邪魔になるだけ?」

「と、言うことです」


 満面の笑顔で言われてしまえば、それ以上反論することは出来なかった。

 言いかけた言葉を飲み込み、苦笑を浮かべる。


 まあ、そういうことならば……仕方があるまい。


「それじゃあまあ、改めて行くとしようか」

「はい、行きましょう」


 そうしてアレン達は、王都の城門を潜ると、そのまま外へと歩き出した。


 向かうは辺境の地。

 目的は……一応は、平穏を求めて。

 それが叶うかは、神のみぞ知るというところだが。


 ふと、アレンは空を見上げた。

 視線の先に広がっているのは、絶好の旅日和とでも言わんばかりの晴天だ。


 それを眺めながら、さて、どうなることやらと、口元を緩めつつ、アレンは皆と共に歩を進めるのであった。

 というわけで一区切りということになります。

 ここまでお読みいただきありがとうございました。


 さて、実のところこの話は本来ここで畳む予定でした。

 元々のコンセプトの一つがラノベ一冊分で話を書ききる、というものだったので。

 まあ文字数を見てもお分かりの通り見事に失敗しているわけですが。

 しかしなので、もう気にする必要はないかなということと、思っていた以上に応援していただけていますので、このまま続けようかと思います。


 が、そういう事情のため、ここから先のプロットがありません。

 そのため、ここからしばらくはプロット作りに専念しようかと思います。

 再開は一週間後あたりを考えていますが、おそらくはこれまでと同じような更新速度は維持できないかと思います。

 申し訳ありませんが、引き続き応援していただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
●TOブックス様より書籍版第五巻が2020年2月10日に発売予定です。
 加筆修正を行い、書き下ろしもありますので、是非お手に取っていただけましたら幸いです。
 また、ニコニコ静画でコミカライズが連載中です。
 コミックの二巻も2020年2月25日に発売予定となっていますので、こちらも是非お手に取っていただけましたら幸いです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ