策略
悪魔の女性のことを眺めながら、教皇は不思議そうに首を傾げた。
どうやら本当にどんな用件なのかを理解していないようだ。
いや、あるいは、用件そのものには見当が付いていても、何故そんなことをしようとするのか、ということの方が分かっていないのかもしれないが。
「用件がある、というのは構わないのですけれど……その前に一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、勿論ですわ。教皇猊下のお時間を取らせるのですもの。その程度のことは当然の義務でしょう」
「ではお尋ねしますけれど……貴女はどうやってここに来たのでしょうか? 先ほどの一件が貴女の仕業だということは見当が付いています。そんな貴女を抑えるために、皆が向かったと思うのですけれど……」
「そんなことは簡単ですわ。貴方とお会いしようというのに、わたくし一人だけでここに来たとお思いですの? 今頃そちらはわたくしの協力者が抑えてくれていると思いますわ」
「協力者、ですか……? 今ここに来ている悪魔は貴女だけのはずですけれど……」
悪魔以外の協力者、という言葉を聞き、反射的にリーズの頭にはとある人物の姿が思い浮かんだ。
ノエルも同じだったのか、思わず顔を見合わせ……何となく、口元に笑みを浮かべてしまう。
勿論そうだという保証はないのだけれど……何故か確信を持って、そうだと断言する事が出来た。
しかしそうしている間も、悪魔の女性と教皇との睨み合いは続いている。
実際には両者共笑みを浮かべているのだが、そうとしか見えなかった。
「うふふ、まあ、頭の固い貴方方には分からないのでしょうね。そしてその頭の固さが、貴方を破滅に追いやるのですわ」
「……破滅、ですか。なるほど、やはり貴女は私を……」
「ええ……今まで幾千幾万という者達へと破滅を与えてきた貴方の番が、ついにやってきたのですわ。ですがそれも、当然のこと。数多の人々へと強いておきながら、貴方だけは例外だということは道理が通りませんもの。こういうのを、因果応報、というのですわよね」
「まさか、悪魔である貴女に人の道理を説かれるとは思いませんでした」
「そうかしら? 不思議でもないと思うのだけれど? 貴方達が、世界がどうわたくし達のことを見て、判断しようとも、わたくし達もまた人であることに違いはありませんもの」
「……戯言を」
その言葉の意味するところは分からなかったが、どうやら教皇にとっては聞き逃せないものであったようだ。
教皇の顔から笑みが消え、冷たい光がその目に宿る。
「……いいでしょう。確かに貴女の言葉にも一理はあります。もっとも、私にはまだまだやらなければならないことが沢山あります。私が滅するのは、その全てをやり終えた時であって、今ではありません。破滅の時を迎えるのは、貴女です」
「あら、よく言いますわね。人の恩恵を奪い、人の生を奪いながら、醜くもこの世にしがみ付いている簒奪者如きが。貴方にわたくしが殺せるとでも?」
「そっくりそのまま返します。確かに貴女のスキルは有用ですけれど、私には通用しません。そのことは貴女もよく知っていると思いましたけれど……どうやって私を滅する、と?」
「嫌ですわね、わたくしが何の策もなく貴方と向かい合うとでもお思いですの? それは少しわたくしを過大評価し過ぎですし、過小評価もし過ぎですわ。――それに、古来から決まっていますでしょう? 人類に巣食う邪悪を滅ぼす役目を担うのは、一人だけですわ」
「――偉そうに言ってるが、要するに他人に丸投げってだけじゃねえか」
言葉と同時、その場に稲妻が走った。
蒼い雷は教皇と悪魔の女性を襲い、教皇は悠然とその場に佇んだまま、雷はその身体へと届く前に霧散し、悪魔の女性は慌ててその場から飛び退くことでかわす。
悪魔の女性が上空へと顔を向けると、眦を吊り上げながら叫んだ。
「ちょっとっ、わたくしまで巻き込まれかけたのですけれど……!?」
「あぁ? 悪魔が一緒にいるってんだから、纏めてぶっ潰そうとすんのは当然のことだろ?」
「もうっ、そういうことは先に言っといてくださいませんと、わたくしも受けて立つことができないではありませんか……!?」
「って、そっちなのかよ……」
嫌そうな顔をしながらその場に降り立ったのは、見知った少女であった。
黒髪黒瞳を持ち、肩に担いだ剣からは、蒼い雷が迸っている。
何処からどう見ても、アキラであった。
「アキラさん……? どうしてここに……」
「うん? ああ、まー……オレとしても乗るのは癪だったんだが、招待されちまってな。で、ついでに色々と聞かされた結果、乗らざるを得なくなっちまったってわけだ。まあオレも……自分のことを殺そうとしてるやつの面は見ておきたかったしな」
「……勇者? これは意外ですね……悪魔の貴女が勇者に協力を願ったのも、勇者がそれを受けたのも。そもそも、どうやってここに呼び寄せたのですか?」
「あら、嫌ですわ……ギフトホルダーをここに連れて来るようわたくしに告げたのは猊下ではありませんの。猊下の許可があれば、ここに直接転移させるのは難しいことではありませんわ」
「……なるほど、迂闊なことを口にしてしまっていたようですね。予想していなかった事態ですから仕方がありませんけれど……次からは気をつけましょう」
「次なんてねえから心配すんな。つーか、誰が協力してるだと? これは利用してるっつーんだよ。気に入らないやつらを纏めてぶっ潰すために、な」
「うふふ、わたくしとも戦ってくれる、というのは嬉しいけれど……余所見をしている暇はないわよ? だってアレ、完全に化け物だもの」
「……ちっ、分かってんよ。本当に癪だがな……アレが化け物だってのは、見りゃ分かる」
そう言ってアキラは、険しい表情で教皇のことを睨む。
化け物、と言われても正直リーズはいまいちピンと来ないのだが……ノエルへと視線を向けてみれば、ノエルも同じようだ。
眉をひそめて教皇のことを見つめているも、首を捻っている。
だがアキラの様子を見る限り、冗談などを言っているようには見えない。
つまりは、自分達では認識出来ない領域での話ということだ。
ここから話し合いが行われる雰囲気では当然あるまいし、大人しく引き下がっておいた方がよさそうである。
ノエルも同じことを考えたのか、悔しげな表情を浮かべながらも、一歩下がった。
そしてその代わりとばかりに、アキラが一歩前に進み出る。
「さて……余計な問答は必要ねえよな?」
「そうですね……それに少し驚きましたけれど、これは好都合とも言えるでしょう。処分すべき存在を二つも同時に処分出来、同時に私の力をリーズ様達にお見せ出来ます。私の力をご覧になれば神々の威光を感じ取り、きっと快くお力添えをしてくださることでしょう」
「自分に都合の良い未来を思い描いてるところ申し訳ないけれど、そんな未来が訪れることはないわ。貴方はここで滅びるのですもの」
「私はいつだって、神々の御心に従うだけです。それが神々の指し示す未来であるならば従いますけれど……そうなることはないでしょう」
「はっ……ならその指し示す未来とやら、自分の身体で存分に確かめんだな……!」
アキラの叫びと共に雷光が迸り、アキラが担いでいた剣を地面に叩き付けた瞬間、蒼い雷が教皇へと向かって走る。
直後、アキラと悪魔の女性がほぼ同時に地を蹴ると、教皇へと一斉に飛び掛った。
リーズは多少の心得こそあるものの、基本的には護身術の域を出ていない。
その理由は必要がないというのもあるが、一番の理由は単純に才能がないからである。
武術を極められるほどの才能がないからこそ、護身術以上のものは習わなかったし、身に付くこともなかったのだ。
だがそんなリーズでも理解出来るほどの光景が、眼前では展開されていた。
三者が三者共、規格外と呼べるほどの戦闘能力を有しているということが、である。
「……まったくやめて欲しいわね。これでもそれなりに腕に自信あったんだけど、自信なくなってくるわ。あそこに足を踏み入れたら、一瞬で消し炭になりそうだもの」
「そうならない人の方が少ないと思いますよ? それにノエルは鍛冶の腕があるんですから、いいじゃないですか」
「それはそれ、これはこれ、なのよ」
そんなことを言っているリーズ達の視線の先では、天変地異もかくやとばかりの現象が起こっていた。
地面は割れ、爆ぜ、稲妻が吹き荒れては、凄まじい轟音が響いている。
アキラが剣を振り、悪魔の女性が蹴りを放つごとに、教皇の立っている地面の周囲はまるでそこだけ戦争が起こった後のような状況になり、さらには止まずに続いているのだ。
あんなところに割って入って無事でいられるようなものなど、本当に極々一部しかいまい。
しかしだからこそ、教皇の異常さもまた浮き彫りになっていた。
「ちっ……野郎、余裕のつもりか、そりゃあ……!」
「いえ、そんなことはありませんよ? 正直なところ、驚いています。凄まじい戦闘能力です。私が攻撃に転ぜられないとは、やはり迅速に処分すべきだと判断した私の考えは正しかったようです」
「よく言いますわ。完璧に防いでいる上に周囲を気遣う余裕もありますというのに……これは予想以上に硬いですわね」
「言ってる暇があったらもっとやる気出しやがれ……! やる気あんのか悪魔……!」
「失礼ですわね、それなりにはありますわよ? ただ、相手が相手ですから正直そこまで乗る気にはなれないのですけれど……これは、言っている場合ではありませんわね」
言葉だけを見れば、アキラ達にも余裕はありそうだが、実際にはそんなものないだろう。
顔を見れば分かるし、何よりもその場の状況を見れば一目瞭然だ。
教皇は最初の位置から一歩も動いておらず、また傷を負っていないどころか服に汚れ一つすらもついてはいないからである。
アキラ達の攻撃は、全てが寸前で防がれ続けているのだ。
おそらくは周囲に結界のようなものを張っているのだろうが、だからといってあの攻撃を防ぎ続けるのはどう考えても異常である。
しかも、それだけではない。
アキラ達の攻撃は威力が大きすぎるため、周囲へと与える影響が凄まじく大きいのだ。
先に述べたように、教皇そのものは無傷でも、その周囲は戦争が起こったかの如くなっており、そのままでは地面だけではなく建物にも影響するのは間違いない。
罅割れるどころか崩壊してしまうだろうことが容易に想像出来……だが、リーズはその心配をまるでしていなかった。
必要がないからだ。
教皇の周囲の地面が割れ、爆ぜ、砕けるごとに、すぐに元通りになってしまうからである。
「本当に厄介ですわねえ……何が厄介って、これはつまり、わたくし達の攻撃が万が一にも届くことがあったとしても、すぐに元通りになってしまう可能性が高いということですわ」
「万が一とか言ってんじゃねえよ……! まあ、確かにそう考えると、どうしたもんかって感じではあるけどよ……!」
「ああ、いえ、その点は心配なく。私が復元出来るのは、物だけですから。生物に対して影響を与えることは出来ません。だからこそ、リーズ様には是非とも協力して欲しいのですけれど」
「言ってろ。ここで終わるお前にゃ関係ねえって……いや、ちょっと待てよ? 復元、って言ったな? ってことは……もしかしてお前、悪魔の拠点にまで力貸してやがったのか……?」
「拠点、ですか? 悪魔の拠点と言われても沢山ありますから、どれのことだか分からないのですけれど……」
「……アドアステラ王国の南に作った拠点のことなら、確かにコレの力を借りていますわね。もっとも、直接力を借りたわけではないはずですけれど」
「なるほど、あそこのことでしたら、少しだけ力を貸しましたね。アドアステラ王国は、少し安穏と過ごしすぎましたから。そろそろ人は闘争の中でこそ成長するのだということを思い出していただくために、便宜も図りました」
「そうか……分かっちゃいたが、色々とろくでもねえことやっていやがったってことだな。やっぱお前はここで終わりやがれ……!」
何かがアキラの逆鱗に触れたのか、さらなる猛攻が繰り広げられるが……結果はやはり、変わらない。
全てが教皇に届かずに、霧散していくだけだ。
無論のこと、ずっとそんなことが続くとは思わない。
結界だろうと似た何かであろうとも、力を防ぐには相応の対価が必要のはずである。
さらにはそれだけではなく、周囲の地面までも元通りにしているのだ。
いつかは確実に力尽きるに違いない。
ただ、問題はそれよりも先にアキラ達の方が力尽きてしまう可能性の方が高いということである。
悪魔の女性の方は分からないが、アキラはあれほどまでに蒼雷を放っているのだ。
かなり消耗が激しいはずであり、実際アキラの顔には焦燥が浮かんでいる。
対する教皇の顔は、汗一つかいてはいない。
まったく疲れていないということはないだろうが、少なくとも先に力尽きると考えるのは楽観的とかそれ以前の問題だ。
それに今は防御しかしていないものの、攻撃ができないわけがない。
このままではジリ貧となってしまうのは目に見えていた。
しかしそんなことはリーズに言われるまでもなく、アキラ達は分かっているだろう。
それでもどうにか出来るのであればとうにどうにかしており……一瞬、アキラは苦悩の顔を見せた。
だがそれは本当に一瞬のことで、直後、悪魔の女性へと視線を向ける。
目配せ、ということにリーズが気付いたのだから、当然のように悪魔の女性も気付いたはずだ。
その証拠のように悪魔の女性の攻撃の勢いが増し――瞬間、アキラが後方へと跳んだ。
それと共に、剣を天井を指すように持ち上げ――
「――堕ちろ、雷帝。貫け天の雷……!」
直後、頭上で轟音が響いた。
アキラが放った魔法によって、天井を砕きながら雷が落ちてきたのだ。
そしてその魔法は、リーズも見たことのあるものであった。
以前アレンとの手合わせの時に使ったものに間違いなく、ただしあれは確か相手に直接叩き込むものだったはずだ。
確かに距離を取ったのでアキラが影響を受けることはないだろうが、教皇を抑えるべく悪魔の女性が猛攻を繰り広げているところである。
本当に悪魔の女性ごと攻撃するつもりかと思い、しかしそれは杞憂であった。
雷が落ちた先は、持ち上げられたアキラの剣だったからだ。
勿論のこと、自爆ではない。
落ちた雷は剣に帯電し、そのままアキラが腕を水平に構える。
引き絞られた弓のように上半身を捻り――次の瞬間、全力で地を蹴った。
「――退きやがれ……!」
叫びに、悪魔の女性は完璧な形に応えた。
ギリギリまで猛攻を続け、教皇をその場に縫い止めると、あわや、というところで飛び退いたのだ。
その真横を、放たれた矢の如き勢いで、落ちてきた雷と蒼い雷の二種の雷を纏ったアキラが突っ込み――甲高い音が響いた。
ビシリと、ガラスの割れるような音と共に、教皇の眼前にあった空間がひび割れ……だが、あと一歩が届かない。
今までで最も教皇の身体へと近付いた剣は、教皇の頬に一筋の傷を作っただけで、終わってしまったのだ。
「……これは本気で驚きましたね。まさか私の身体に傷をつけるとは。ええ、誇るといいですよ? 私が教皇になってから、私の身体に傷を付けたのは、貴女が初めてですから。もっとも、私を滅すには、足りていませんでしたけれど」
言葉と同時、向かった以上の速度でアキラの身体が吹き飛ばされると、轟音と共に壁に激突した。
果たしてどれほどの衝撃だったのか、アキラの口から大量の血が吐き出される。
「――かはっ……!?」
その光景を目にした悪魔の女性が、僅かに、それでもはっきりと分かるほどに頬を引き攣らせた。
傍から見ているだけのリーズにも焦りが手に取るように分かるようだ。
「っ……これは、まずいですわね。本当に、予想以上ですわ。まさかここまで圧倒的だとは……猊下、どうやら貴方は正真正銘の化け物だったようですわね」
「化け物……なるほど、確かに人を超えたモノ、という意味ではそうかもしれませんね。人から見れば、神も化け物も同じでしょうから」
「っ……はっ、なんだ、そりゃ……? つまり、自分は神とでも、言うつもりかよ?」
「おや……これはまた驚きましたね。身体が原型を留めているどころか、まだ話す元気がおありとは。さすがは勇者ですね」
その言葉は、心底からの称賛であるようであった。
しかしそれはつまり、アキラのことを下に見ているということだ。
でなければ、そんな言葉が出てくるわけがない。
だが同時に、それが事実であるのも確かだ。
アキラもそのことを理解しているのか、あるいは単純に痛みからか顔を歪めた。
「ちっ……偉そうにしやがって。まだオレは死んじゃいねえぜ……?」
「まだやるつもりなのですか? あまり苦しめるというのは本意ではないので、そろそろ死を受け入れて欲しいのですけれど。心配する必要はありません。これは神々の御心によるもの。貴女の死は、必ず後の人の世のためになることでしょう」
「はっ……後の世だ? オレの死んだ後のことなんか知るかっつーの」
「そうですか……それは残念です。しかし、貴女が気にせずとも、貴女の力は後世の礎となります。ですから、安心なさってください」
「うるせえよ、知らねえっつってんだろ! っていうか、だから何様のつもりなんだっつーの」
「……まったくですわね。貴方の神にでもなったようなその態度が、何よりもわたくしは気に入らないのですわ」
「そうは言われましても、私が神々の意思を代行する存在だということは、この結末を見ても分かる通りです。私の言っている事が偽りであれば、私はとうに滅されているはずですから。私がこうしていることこそが、神々の意思が私と共にある証拠でしょう」
「オレには力を持った狂人の戯言にしか聞こえねえけどな。……とはいえまあ、オレの言ってることは所詮、負け犬の遠吠えでもあるか。何言ったところで、負けちゃ意味ねえんだからな」
「……諦めるんですの? わたくしはまだ諦めるつもりなどないのですけれど?」
「んなこと言ったところで、どうしようもねえだろ?」
そう言ったアキラの顔には、諦めが浮かんでいた。
まだまだ戦うことは出来るように見えるが、もしかしたら見た目以上に大変なことになっているのかもしれない。
それとも、彼我の絶対的な実力差というものを、感じてしまったのか。
何にせよ、アキラの顔に諦めがあるのは事実で……しかし、同時にその口元には、笑みも浮かんでいた。
「……ま、分かってたことだって言えば、分かってたことではあるんだけどな。勇者とか言われたところで、オレにはまだそんな器はねえんだよ。オレが主役になるには、まだまだ器不足だ。今のオレに出来んのは、精々前座がいいとこだろうよ」
「……? 貴女は、一体何を……?」
アキラの様子がおかしいということにようやく気付いたのか、教皇が訝しげな視線をアキラへと向ける。
だがそんな教皇の様子がおかしいとばかりに、はっきりとした笑みをアキラは浮かべると、告げた。
「何を、だと……? はっ……決まってんだろうが。――時間稼ぎは終わったっつーことだよ……! さっきので場所も分かっただろうしな!」
瞬間、壁が消し飛んだ。
アキラがめり込んでいる壁とは逆側の壁が、跡形もなく消失したのである。
そしてその先から現れたのは、一人の少年だ。
よく見知った、少年であった。
「確かに、おかげさまでよく分かったよ。正直何処に行ったものか迷ってたから、助かった」
そんなことを嘯きつつ、肩をすくめたいつも通りのアレンの姿に、リーズは思わず口元を緩めるのであった。




