元英雄、龍を退治する
轟音を立て地面に墜落した龍を眺めながら、アレンは息を一つ吐き出した。
そこには幾つかの意味が込められていたが、一先ずやるべきことは一つだ。
地面に倒れ伏したままのアキラとそのすぐ近くにいる子供を横目に、後方へと声を投げる。
「ごめんリーズ、アキラ達のことお願い。ベアトリスも」
「分かっているさ。さすがにアレを目にして挑もうとするほど私は愚かではない。そもそもそれが私の役目だからな」
「…………分かりました。それで、アレン君は……って、聞くまでもありませんか」
「まあ、僕はちょっとアレの相手しないといけないだろうからね」
自惚れでも何でもなく、アレの相手はアレンでなければ務まるまい。
というか、アレンでも気を抜こうものなら一瞬でやられかねない存在だ。
随分なクソ野郎なようだが、能力は高いらしい。
あるいは、だからこそなのかもしれないが。
「さて、と……それで、いつまで死んだフリをしてるつもりかな? まさかそんな大根芝居でこっちの隙を突こうとしたわけじゃないよね?」
『……ふんっ、ただ自分の愚かさを悔いていただけのことよ。まさか虫けらに傷つけられるとはな……どうやらさすがに遊びが過ぎたようだ』
ゆっくりと立ち上がった龍が、そんな言葉と共にこちらを射殺さんばかりに睨みつけてくる。
それは本心からのものであるのだろうし、実際のところ正しくもある。
龍が攻撃を食らったのも、それによって地面へと落下したのも、間違いなく龍自身の油断から起こったことだからだ。
龍は随分と余裕ぶっていたものの、アレンの見た限りではアキラの攻撃が防がれたのは紙一重というところであった。
あとほんの少しでもアキラの力が上回っていたら、あの一撃は龍の鱗を貫きその身へと届いていたことだろう。
だから龍は焦り、危険と見なしたアキラを確実に殺すことにしたのだ。
あの時放とうとしていたのはおそらくブレスだろうが、明らかに他のことへの意識に欠けていた。
そんな有様であるから、アレンが放った何の変哲もない剣閃に翼を斬り落とされたし、そこで動揺してしまったのである。
墜落したのもそのせいだ。
龍は別に翼で以て空に浮いているわけではない。
これほどの巨体をあの程度の翼で支えられるわけがなく、魔法的な手段を使っているはずだ。
つまり翼を斬られたところで空から落ちるわけがないのに、実際に龍は堕ちた。
それはそれだけ動揺していたという証だ。
ゆえに確かに龍がこうしているのは、その身から出た錆であり――
「ま、事実であるとは言っても、正直負け惜しみ言ってるようにしか見えないよね。というか、油断してなかったらこうなってなかったとか、実際完全に負け惜しみでしかないんだけど」
『……貴様、それはつまり、実力で我を地に這わせることが出来る、と言っているのか? 図に乗るなよ下等生物如きが……!』
龍が吼えた瞬間、凄まじい衝撃がアレンの全身を貫いた。
それは錯覚ではあるが、怒気を顕にしている龍ならば、実際瞬時に実現可能なことだろう。
腕を振るうでも尻尾を振るうでも、何なら息を吐き出すだけでも、龍がその気になればそれは立派な攻撃となる。
龍がこれだけ居丈高なのは、虚勢でも何でもなく、それだけの実力を有しているからなのだ。
そのことは、レベルやステータスを見れば明らかである。
この世界は、神々と精霊に愛された世界だ。
そう、『人』ではなく、『世界』なのである。
だから人だけではなく、魔物にも龍にも、レベルやステータスというものは存在しているのだ。
その基準等も同等であり、つまりはレベルやステータスでの比較が可能だということである。
どれだけ体格差があろうとも、『力』の値が上ならば人類が力比べで勝るということだ。
まあ厳密にはそれが可能だからこそ値が上になるのではあるが。
尚、アキラのレベルは13である。
凡人の限界が5と言われ、人類の限界も15と言われていることを考えれば、間違いなく人類の中でも最高峰だ。
勇者であることを差し引いても、未だ十五歳だというのだから末恐ろしいものである。
順調に成長していくことが出来るのならば、人類の限界すらも突き破ることが可能かもしれない。
しかしそんなアキラに圧勝していることからも分かる通り、この龍のレベルはそれよりも遥かに上だ。
――52。
それがこの龍のレベルであり、ステータスは軒並み四十を超え、『力』などは五十を超えている。
言うだけはあるということだ。
この世界において、レベルやステータスは絶対である。
一面を見るならばそれは事実であり、真実であり、通常の手段では覆すことの出来ない根源法則の一つだ。
誰もそこから逃れることは出来ず、この世界の一員として生まれ暮らしている以上はアレンも例外ではない。
ゆえに龍の言っていることは、確かに正しいのだ。
龍が油断することなく本来の力を出し切れば、レベル1でステータスが全て5しかないアレンに勝ち目はない。
そしてレベルやステータスはあくまでも可視化されたものでしかなく、相応の実力者であればそれを見る方法がなくとも肌で感じる事が出来るだろう。
龍の発言もその上でのものであるに違いない。
だが。
「さーて……本当に図に乗ってる身の程知らずは、果たして誰なんだろうね? 試してみる?」
『――』
その言葉に果たして龍は何を思ったのか、最早龍は何も言うことはなかった。
ただ、無造作に腕が振り抜かれ――それで十分であった。
アレンの立っていた場所を中心に半径十メートルほどが、何の前触れもなく消し飛んだのだ。
ただし。
アレンの立っていた場所を除いて、ではあるが。
――剣の権能:斬魔の太刀。
まるでそこだけを避けたように綺麗な円の形に地面が残り、直後に龍の腕より鮮血が噴き出した。
『っ……貴様……!?』
「ん? どうかした? 早速身の程でも実感出来たのかな?」
『――っ!?』
龍の表情などアレンには分からないが、怒気に関してならばさすがに分かる。
だからおそらくそれは憤怒の表情であり、だがアレンは目を細めると、見せ付けるように溜息を吐き出した。
「はぁ……自分が強いって勘違いしてたことに気付いたからって、逆ギレするのは情けないんじゃないかな?」
瞬間アレンが剣を振るったのと、眼前の空気が爆ぜたのは同時だ。
先に述べたように、龍はその気になれば吐息すらも攻撃に変える事が出来るのであり、それはおそらく咆哮である。
その先にある対象は、先ほどの龍の一撃に勝るとも劣らない威力を叩き込まれることだろう。
もっとも。
――剣の権能:斬魔の太刀。
届けばの話ではあるが。
不可視のそれをアレンの剣閃は紛うことなく斬り裂き、そればかりか龍の顔にも一筋の斬撃痕を残した。
血が吹き出、龍の口から苦悶とも怒声ともつかない音が漏れる。
『ぐっ、おっ……馬鹿な……何故だ……!? 我の攻撃を防がれるのはまだいい……だが、何故我の身体に傷を付けることが出来る……!? しかもそんなナマクラで……!』
「いや、さすがにナマクラは失礼じゃないかな? 確かに名のある名剣とかじゃないけど、これでも愛用の剣なんだけど?」
とはいえ、龍の言葉は正しいと言えば正しい。
アレンの使っているこの剣は、あの屋敷から持ち出した唯一の品だ。
一つだけと言われパッと思い付いたのがこれというか、これぐらいしか持ち出せるのがなかったとも言うが、五歳の時から使っているのでそれなりに愛着があるのも事実である。
ただ、逆に言うならばそれだけだ。
神童と呼ばれていた当時に作ってもらったものなので、それなりの金はかかっているはずだが、基本的に優先したのは頑丈さである。
剣としてみるならば、アキラの使っていた剣どころか、名剣と呼ばれる品にすら及ぶまい。
だがそれは要するに――
「まあ、君が自慢げにしてた力が、僕よりも下だったってだけでしょ?」
『っ……我は最も神に近しいとまで呼ばれた龍だぞ……!? その我が、人間なぞに……!』
「そんなことを言ってるから、足元をすくわれるんだよ」
まあ、こちらは神に近しいどころか神の力そのものを振るっているので、この結果は当然でもあるのだが。
そう、アレンの剣の一撃がアキラでも不可能だった龍の鱗を斬り裂けるのは、アレンが前世で与えられた力の一つ、『剣の権能』のおかげであった。
これの効能は名前の通りであり、剣と名の付くものであればどんなものでも限界以上の力を引き出せ、思うがままに自分の身体を動かせるようになるというものだ。
極端な話、赤子ですらこの権能を持っていればどんな剣の達人にであろうと勝つ事が出来るだろう。
もっとも、この権能の本質はそこではない。
この権能の本質は、振るった剣の性能を十全に発揮させるということ……端的に言ってしまうのであれば、レベルやステータス、ギフトによる効果を完全に無視することが出来る、ということだ。
何故ならば、権能とは世界の法則そのものだからである。
ステータス等が効果を発揮するのが世界の法則ならば、こちらもまた同等だ。
そして異なる法則というものは、互いを阻害し得ない。
そうでなければ世界は成り立たないからだ。
そのため、『剣の権能』は他の法則を無効化するわけではない。
その法則がそこにありその効果を発揮するのを認めた上で、無視するだけなのだ。
あとは、純粋に剣で斬れるか否かだけの問題だ。
それは同時に、傷付くか否かの問題でもある。
傷が付くということは、手間と時間さえ惜しまないのであれば、いつかは斬れるということだからだ。
そして権能は法則であり、法則である以上は過程は無視して結果だけを引き寄せることが出来る。
故にアレンに斬ることの出来ないものはほとんどなく……それは、龍も例外ではなかった。
とはいえ、龍と戦った経験がない以上は、通用しない可能性も有り得たわけではあるが――
「ま、結果オーライってね。そっちにしてみれば悪夢かもしれないけど」
『認めん……認めんぞ……! 人間ごときが、我を……!』
「まあ僕としては別に認めてくれなくてもいいんだけどね。結果は変わらないし。それに……さすがに死ねば認めざるを得ないでしょ? あの世で自分の所業がどれだけ愚かだったか思い知ってくれれば、僕としては満足だし」
『ほざけ……!』
吼えた龍が腕を叩きつけ、だがそこから放たれる衝撃はアレンには届かない。
それまでと同じように斬り裂かれ、龍の身体に傷が増えるだけだ。
『……っ!?』
苛立った龍が猛攻を仕掛けてくるも、全ては変わらない。
アレンの身体には傷一つなく、代わりとばかりに龍が斬り裂かれる。
龍の赤い鱗の上を、赤黒い液体が流れ、塗り潰していく。
それはまるで、龍という存在が次第にアレンに塗り潰されていくかのような光景でもあった。
もっとも、アレンは大分余裕を持って見せてはいるが、実のところそこまでの余裕はない。
先ほど龍がアキラ相手にしたことと同じだ。
これは薄氷の上に立つような戦いであり、そこまで差があるわけではないのである。
アレンが龍を上回る事が出来るのは、あくまでも『剣の権能』のおかげだ。
素の能力で言えばレベル1と52という、絶望的なまでの差が横たわっている。
掠ればそれだけで命はないだろう攻撃を全て斬り裂いているからこそアレンは無事なのであり、傷一つないというよりは、傷一つ負う事が出来ないといった方が正しいのかもしれない。
だが同時にそれは、両者に絶対的な差があるということでもあった。
龍は攻撃を掠らせればそれで勝つ事が出来るのに、翻弄されるばかりなのだ。
龍もそれは理解している。
だからこそ龍の態度は崩れないのでもあり、しかし現実に広がっている光景は龍が一方的になぶられているが如きものだ。
一方的に勝てるはずなのに勝てないということは、それだけそこに存在している格差というものを示していた。
とはいえこれは、ある種当然のことでもある。
アレンが『剣の権能』を持っているから――ではない。
アキラのおかげで、じっくりと龍のことを『視る』ことが出来たからだ。
元々アキラの陽動には、そういう意味も含まれていた。
アキラは全てを承知の上で、死ぬ危険すらあっただろうに気楽に請け負ってくれたのであり……結果ああなった。
どれだけ感謝してもしきれないほどである。
だからアレンはそんなことをしてくれたアキラのためにもここで負けるわけにはいかないのだ。
振り下ろされた龍の爪を掻い潜り、踏み込むと同時に振り上げた剣が、龍の胴体に深くめり込む。
が。
「――ちっ」
そのまま腕を振り抜いていたら、あるいは龍の心臓にまで届いていたかもしれない。
そんな一撃ではあったが、アレンはあっさりとそれを放棄するとその場から飛び退いた。
直後、龍を中心にばら撒かれたのは、凄まじいまでの衝撃だ。
轟音と共に周囲を破壊し、広がっていく。
それは完全に無差別で見境のないものであり、そのことは龍自身までもが傷付いていることからも分かる通りだ。
だが、あのままあそこにいたら間違いなくアレンは巻き込まれていた死んでいただろうことを考えれば、悪い判断とは言えないだろう。
確かに危機を脱した代償として自身を傷つけてはいるものの、あのままならばあれ以上の深手を負わせていた自信がアレンにはあるからだ。
とはいえ、安い代償だったとも言えまい。
自身の攻撃によって新たに増えた傷と、アレンの付けた胴体の深い斬撃痕から鮮血が流れ落ち――不意に、龍が笑った。
「……っ」
その意味を瞬時に理解し、飛び掛かったが、それよりも龍の動きの方が速かった。
片翼を地面に叩き付けるようにしてはためかせると、そのまま後方へと跳んだのだ。
そしてその先にいたのは――
「――なっ!?」
「きゃあっ……!?」
リーズ達の驚愕と悲鳴の声が聞こえ、思わずアレンは舌を鳴らした。
押し潰されるようなことにはならなかったが、龍が陣取った位置はこちらから見てリーズ達のすぐ後ろだ。
戦闘を続けようと思えば、間違いなく彼女達が巻き込まれる。
位置取りには気をつけていたし、あの龍のプライドの高さからまさか人質を取るようなまねなどしないと思っていたのだが……どうやらそんなことはなかったようだ。
『ふんっ……光栄に思うがいい、人間よ。貴様を我の敵として認めてやろう。故に、ここから先は手段なぞ選ばん』
「やれやれ、クソ野郎だとは思ってたけど、予想以上だったかぁ……」
というか、無駄に挑発などを繰り返していたのも、こちらへと注視させ向こうに余計なちょっかいを出させないためだったのだが、それも無駄に終わってしまったようである。
「……ま、ある意味好都合ではあるんだけど」
『……なに?』
「アキラには既に協力してもらったし、リーズ達をあんま危険そうなことに巻き込むのはアレだったからやめといたんだけどね。まさかそっちからしてくれるとは思わなかったかな」
『……ふんっ、下手な強がりだな。コレらを不安にさせまいというのだろうが、無駄なことだ。どうせ貴様らは揃って今から死ぬのだからな……!』
「まあ、そう思ってくれるんなら、それでいいんだけどね」
肩をすくめてそう言うも、龍は取り合うことはなかった。
代わりとばかりに、その口が開かれる。
どうやらブレスで丸ごと焼き払うつもりのようだ。
基本的に龍は、基礎能力が高い故に技の種類は少ない。
大半は腕や尻尾で薙ぎ払ったり、爪で切り裂いたりするだけで事足りるからだ。
空を飛ぶことが出来ることからも分かる通り、魔法的なものも使えるはずだが、あまり使うことはないと聞く。
どんな龍でもそうらしいので、龍という種族のこだわりか何かなのかもしれない。
しかしそんな龍が、その身体以外でほぼ唯一攻撃のために使うのがブレスである。
所謂切り札であり、本気のブレスを叩き込まれれば同種であろうとも消し飛ぶという話だ。
間違いなく人間に向かって撃つものではない。
ある程度は威力の調整もきくらしいが、溜めの時間を考えれば、確実に本気のそれだろう。
余波だけで間違いなくアレンは死ぬし、かといって避けようとすれば構わず撃ってリーズ達を殺すつもりに違いない。
そしてリーズ達は今、動く事が出来ない。
リーズ達は……というよりもリーズは、アキラ達の治療をするためにそこにいるからである。
アキラはまだ動けるようになっていないだろうし……その傍には子供もいるのだ。
彼女達を見捨てることを、リーズ達はよしとはしまい。
ついでに言うならば、アレンもである。
それに、龍がすぐ傍に着地した時こそ動揺を見せた彼女達であったが、今はもうそんなことはなかった。
開かれた龍の口の奥では着々とブレスが放たれてる準備がなされているというのに、彼女の顔には微塵の揺らぎもない。
そんな彼女達の視線が、一瞬だけこちらを向いた。
すぐに戻されたが……瞳の中にあったものに気付き、アレンはつい苦笑を浮かべる。
それはきっと、信頼と呼べるものであった。
出来そこないと呼ばれるようになってからは、ほぼ向けられる事がなく、特にここ五年ほどは縁のなかったもの。
前世でよく向けられていたのとは少し異なるそれに、小さく息を吐き出す。
どうやら、是が非でもやってやらなければならなくなったようだ。
『――さて、これで貴様らは揃って死ぬわけだが、最後に何か言い残すことはあるか? 我はこう見えて慈悲深い、何か願い事の一つでもあれば叶えてやるかもしれんぞ? そう、たとえば……誰か一人を見逃す、とかな』
「慈悲深い、ねえ……どうせ聞くだけ聞いてやっぱり叶えないとか、ブレスでは殺さないけどその後で殺すとか、そんなのでしょ? バレバレだし……そもそも、遺言を言っとくべきなのはそっちじゃないの? 何かあれば聞くけど?」
『……よかろう。最早是非もなし。――死ね』
「――そっちがね」
瞬間、龍の口から灼熱のブレスが放たれ――
――剣の権能:極技・閃。
次の一瞬の後には、アレンは龍の真後ろにいた。
放たれたブレスごと、一直線に通過してきたのだ。
即ち。
『……………………馬鹿、な』
「……そっか。頭の中に直接話しかけてきてるっぽいから、発声器官が損傷しても関係ないんだね。これは新発見だ」
そんなことを嘯きながら後方を振り返れば、そこには真っ二つにされた龍の身体があった。
もちろんと言うべきか、誰一人としてブレスも食らってはおらず、無事だ。
『我が、滅ぶ、だと……? こんなこと、やつらから聞いては……! いや、有り得ぬ……こんなことは認めぬ認めぬ認めぬ……! 我は……!』
「さすがに往生際が悪すぎだっての。まったく――素直に、死んどけ」
――剣の権能:一刀両断。
二つに分かれていた身体から、さらに首を刎ね飛ばす。
宙を、二等分にされた頭部が舞い……それで思い出したかのように、ゆっくりと身体が両側へと倒れていく。
頭も重力に従い、落下し――
『我、は……!』
その言葉を最後に、ついには声も聞こえなくなった。
重い音を立てながら二つに分かれた龍の身体が地面に倒れ、少し遅れて頭も地面に転がる。
それらがピクリとも動かないのを確認すると、アレンは一つ大きな息を吐き出し――
「あー、うん……さすがに疲れたかな」
そのまま身体が要求してきたものに従い、その場へと仰向けに倒れこむのであった。




