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縦穴

 狭い洞穴を抜けた先にあったのは、広大な空間であった。


 天井までの高さは十メートルほどはあり、奥行きはその倍はあるだろう。

 だが最大の特徴は上でも横でもなく下で、底の見えないほどの縦穴が眼前には存在している。


 その穴の外周を描くように道が出来ており、アレン達が今いるのもそのうちの一角だ。

 幅は二メートルほどはあるため歩いても落ちる心配はなさそうだが、色々な意味で驚きの場所であった。


「この森にこんな地下空間があったんだねえ……」

「しかもさっきの場所と同じようにここも見た感じ自然に出来たもんっぽいですね。こんなとこをよく見つけたもんです」

「悪魔の拠点を探したら見つかったのは巨大な縦穴、か。ま、これもまたらしいっちゃらしいな。にしても、あいつらこんなとこに住んでやがんのか?」

「んー……どうだろうね? とりあえず今のところ人影みたいなのは見つからないけど……」


 そんなことを言いながら、アレンはその場を見渡す。


 広大な空間こそ広がってはいるが、その大半を占めているのは縦穴だ。

 当然のように生活出来るような場所ではなく、ここで暮らそうと思えば壁に穴でも開けて住居用の空間を確保する必要があるだろう。


 しかしむき出しの岩肌がのぞいている壁には、たった今アレン達がやってきた場所を除けばそういったものはないように見える。

 つまりは、少なくともこの周辺には誰も住んでいない可能性が高いということであり――


「……よく見たら、下にもここと同じような通路がある?」

「どっかに下に向かうためのもんがあるってことか……さすがに悪魔だろうとここから直接飛び降りようとはしねえだろ」

「だね。んー……おそらくは一番奥かな?」


 ここからは距離があるために見えないが、きっと一番奥にこの場をぐるりと回っている地面とは別に下へと繋がっている道があるのだろう。

 あるいは途中のどこかかもしれないが、少なくともこの周辺に下へと向かうための場所がないのは確実だ。


「まあとりあえずは歩いてみるしかねえですかね」

「身を隠す場所一つ見当たらない場所を歩くとか、普通なら見つけてくれって言ってるようなもんだが……本当にミレーヌのギフトってのは便利だな。ただ、この調子で最後までもつのか? ずっと発動しっぱなしってことは、消耗も激しいだろ?」

「……少なくとも、まだもつ」

「まあ状況次第では、どこかで休息を取ったり一度撤退することも検討に入れるべきかもね?」


 正直なところ、足音にまで気をつけなければならないためアレン達の進行速度は遅い。


 しかも予想外に悪魔どころか魔物の姿すらもないため、今のところここの情報はまったく得られていない状況だ。

 この縦穴もどこまで続いているのか分からないし、気配どころか物音一つ聞こえないことを考えれば、ここは通過点の一つでしかない可能性もある。


 もしもそうであったのならば、本当の拠点を発見次第一度引き、態勢を整えてから再度改めて拠点へと向かうことも考えるべきだ。


「あー……まあ、アンリエット達が捉えたのは、あくまでもあの悪魔がここに入っていくってことだけですしね」

「確かに、ここまであいつらの痕跡一つねえってことは、ここがまだ拠点じゃねえってことも考えるべきか」

「……ただ、少なくとも無関係ってことはなさそう?」

「僕達が視たってこと以上に、魔物の姿すらもないのは不自然だしね」


 森にいた魔物は巨体が多かったためにここまで入ってくることは出来ないだろうが、ならば洞窟の中をねぐらとすればいいだけだ。


 しかしその痕跡一つ見つからないということは、意図的にそうされている可能性が高いということである。

 そしてそんなことをするのが何者であるのかなどは今更言うまでもあるまい。


 そんな推論を裏付ける証言があれば助かるのだが……ちらりと視線を向けてみるも、相変わらずクロエは僅かに俯いたまま口を閉ざしている。

 まあ、このまま進んでいけば、話を聞くまでもなく分かることだ。

 敢えて無理に話を聞く必要はない。


「さて……とにかく行ってみるとしようか」


 ここで話をしていたところで、これ以上は推論の域を出ることはないだろう。

 周囲の警戒を続けながら、アレン達は奥へと足を向けた。








 幅が多少あるとはいえ、無理をして横に並ぶ理由はない。

 洞穴を抜けた時と同じようにアレンを先頭としながら、慎重にアレン達は先へと進んでいく。


 もっとも、見通しの良い場所であり、広間として考えればそれなりの大きさではあるも、歩行距離として考えたらそれほどでもない。

 慎重に歩いたと言ってもそれほどの時間がかかることはなく、見た目通りに何事もなくアレン達はそこへと辿り着いた。


「予想通り一番奥に下へと向かうために道があった、か……」

「道幅はこれまでと同じぐらいで、傾斜は緩やかですね。特に危険なこともなさそうです」

「薄暗いとはいえ、目が慣れてきたからそこそこ見えるしな。ただ……どうすんだ? まあこのまま進んでも問題はねえとは思うけどよ」


 アキラからの言葉に、即答することはなくアレンはその場を軽く見渡した。


 アレン達がやってきた側には何もなかったが、もう片側も同様だとは言い切れない。

 まあほぼそうだとは思うものの、万全を期すならばそちらも調べるべきではあるだろう。


 あるいは、そのついでに休息を取るのもありかもしれない。

 洞穴の近くにいれば万が一何かがあったとしてもすぐに気付く上に対応も容易だ。

 この先がどうなっているのかが分からないことを考えれば、割と悪くない選択である。


 だが、この中で最も休息を必要としているだろうミレーヌが首を横に振った。


「……少なくとも、休む必要はない」

「んー、ミレーヌが良いって言うんなら尊重するつもりではあるけど……無理はしないようにね?」

「……分かってる。いざという時に足を引っ張ったら意味ない」

「それが分かってんなら問題はねえだろ。あとはもう片側も調べるかどうかか?」

「個人的には必要ねえと思うですがね。はっきり見えてはいなかったとはいえ、何もなかったように見えたですし」


 アレンも同感ではあったが、念のためにミレーヌとアキラに視線を向けると、二人も頷きを返してきた。

 最後にクロエを見つめると、小さく、だがはっきりと頷いたので、決まりだ。

 そのまま奥の道へと足を進めた。


 先ほどアンリエットが言ったように、傾斜は緩やかなので歩きやすい。

 それほど時間をかけずにアレン達は坂道を歩ききり、再び通路へと降り立った。


 しかし視界に映るのは、先ほど歩いていた場所と大差ない光景だ。

 違いがあるとすれば五メートルほど上に先ほど歩いた場所が見えるというだけであり、ざっと眺めた限りではやはりここの壁にも穴などは開いていなそうである。


「ま、それは分かってたことか」

「ここに誰かが住んでやがったら、気配感じ取れたり物音聞こえたりするでしょうしね。まあどっちも抑えられてるって可能性もなくはねえですが……」

「その時はオレ達の侵入がバレてるってことだしな。ま、さすがにねえだろ」

「……やっぱりここはただの通過点?」

「それはまだ何とも言えないところかなぁ……」


 縦穴の奥を覗き込んでみるも、相変わらず底は見えない。

 ならばここのどこかに住んでいる可能性は否定出来ないし、だが敢えてこんなところに住む必要があるのかという疑問もある。


 とはいえ、結局は進んでみなければ分からないことだ。


「まあ、とりあえず引き続き――」


 歩いてみようかと、そう続けようとした時のことであった。

 僅かに、しかし確実に何らかの音を、アレンの耳が捉えたのだ。


 そしてそれは気のせいでなければ、この縦穴の奥から届いてきたものである。

 再び縦穴へと視線を向けると、その奥を見通すように、アレンは目を細めた。

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●TOブックス様より書籍版第五巻が2020年2月10日に発売予定です。
 加筆修正を行い、書き下ろしもありますので、是非お手に取っていただけましたら幸いです。
 また、ニコニコ静画でコミカライズが連載中です。
 コミックの二巻も2020年2月25日に発売予定となっていますので、こちらも是非お手に取っていただけましたら幸いです。

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