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逃走した先

 端的に結論を言ってしまうのであれば、あの拠点から新たな情報らしい情報を得ることは出来なかった。


 だがそれは想定内のことである。

 特に落胆することもなく、またその暇もなく、アレン達は一旦街へと戻ると次の目的地を探り当てるため地図を睨みつけていた。


「んー……アンリエットが掴んだ情報と僕が掴んだ情報。その二つが合致する場所ってなると、ここ、かな……?」


 そう言いながらアレンが指差したのは、アドアステラ王国の中でも南東の端に位置する場所であった。


 生い茂った森の広がる場所であり、辺境の地というわけではないが、他国との国境に面している割には監視の目が緩い場所でもある。

 その理由は単純で、ここは非常に危険な場所だからだ。


 レベルに直せば二十を軽く超えるような魔物がゴロゴロいるような場所であり、基本的に国境を接している全ての国が手出しを禁止している。

 単純に危険であることと、本格的に乗り込むほどの余力がないこと、何よりも危険ではあっても魔物達が森から出てくることがないために一先ず放置しておくことを選択したのだ。


 無論いざという時のために最低限の監視はされているし、ある程度の調査も定期的に行われてはいる。

 だが森の広さが小国ほどはあるために奥深くまでは調査の手が及んでいない上に、危険な森を突っ切ってやってくるような者がいるとは考えられていないため、監視の目は非常に緩い。

 悪魔が拠点を築くのに適した場所だと言えるだろう。


 というか、実のところ悪魔の拠点がある場所として有力とされているところの一つであったりする。

 見つからないということは、人の目に届かないような場所にあると考えるのが自然だろう。

 悪魔が魔物を使役している節があることも考えれば、人にとっては危険だが悪魔にとってはそうではない場所となる。

 繰り返すこととなるが、悪魔が拠点を築くのにとても適した場所なのだ。


 そのことが分かっていながらも調査の手が進んでいないのは、前述の理由に加えてそこの森から悪魔が何かをしている様子がないからだ。

 そこの森は四つの国境が交わる場所であるというのに、どこにも攻め入っていない。

 苛烈な悪魔達のことを考えれば、そんな絶好の場所にいるにもかかわらず何もしないとは考えにくいため、有力ではあるものの優先度は低いと考えられているのであった。


「まああいつら卑劣ではあるけど、世間で言われてるほど苛烈なわけじゃねえしな。いや、むしろ卑劣だからこそ苛烈なように見せてんのか?」

「それが正解だと思うです。その結果、こうして見事に拠点を隠しきれてたわけですからね」

「で、そのど真ん中もど真ん中にある、と。いやー、具体的な場所が分かるのは助かったね。さすがにここを全部調べるとなると大変だっただろうし」

「……アレン達がいれば魔物は大丈夫そうだけど、途中で接近してるのがバレそう?」

「んー、どうだろうね? 悲観する必要はないけど、楽観することも出来ない、かな?」


 森の奥の方は本当に手がまったく付けられてはいないのだ。

 どのような魔物がいるのかも分かっておらず、あのフェンリルという魔物のようなものや、それ以上の魔物がいても不思議はない。

 確実にどうにか出来るとは言い切れなかった。


「まあそれに、具体的な拠点の位置が分かったところで、どうやってそこに行くのか、って問題もあるしね」

「結局森の中を通ることに違いはないんだもんねー」

「途中で魔物とまったく遭遇しない、ってのはさすがに難しいだろうしな」

「……ノエルに手伝ってもらえれば可能?」

「あー……まあ、可能性は高くなるとは思うですが、あくまでもエルフは森の様子が把握できるってだけでもあるですしね。状況次第ではノエルでもどうにも出来ねえことも起こり得ると思うです」

「そもそもノエルは今仕事中だしね」


 言えば手を貸してくれるかもしれないが、向かう場所が場所である。

 危険なことに巻き込まれる可能性が高いとなれば、気軽に助けを求めるわけにはいくまい。


「ま、とりあえずノエル抜きで考えるとして……そういえば、クロエはここについて何か知ってたりしないの?」

「え? ア、アタシ?」

「ああ、確かに、捕まった直後にあの砂漠に連れてこられたわけじゃねえだろうしな。まずはここに連れてこられてた可能性があんのか」

「……覚えてること次第では手がかりになりそう?」

「ですねえ。どこからどんな風に歩いたのかとか、その時の周辺の様子とかが分かったりすると助かるんですが……」


 そんなことを言いながら、一斉にクロエに視線が集まる。

 突然のことに驚いたのか、僅かに身を仰け反らせながら、クロエはどことなく気まずげに口を開いた。


「あー、うん、ごめん。確かにあそこに行く前には別のところにいたんだけど……」

「……覚えてない?」

「まったく、ってわけじゃないけどね。当時は混乱もしてたし……色々とあったからか、正直よく覚えてないんだ。拠点の中なら、まだ多少は覚えてることもあるけど……」

「まあ、覚えてないってんならしゃーねーだろ。それにそもそもの話、覚えてないんじゃなくて最初から知らないだけって可能性もあるしな」

「確かに、拠点の中ならばともかく、外の情報が漏れちまったら大変ですからねえ。最初から外は見てねえだけで、混乱してたせいでそのこと自体を忘れてるって可能性はあるですね」

「ま、分からないっていうんなら、それを前提に考えるだけだしね。気にする必要はないよ」


 元より駄目で元々だ。

 何か情報が得られれば、そこから考えようとはしていたものの、ないならないで問題はない。


「んー、ただそうなると、結局は出たとこ勝負になるかな?」

「まあ、現地で情報を得ながら進むしかないでしょうしね」

「しかも悪魔達の警戒付き、か。面倒なことは考えずに突撃するのが手っ取り早いんだが、オレはそれやって失敗したばっかだしな。ま、任せるぜ」


 作ったばかりであったあの砂漠の拠点とは異なり、この森にある拠点は以前から存在していたものだろう。

 警戒はしっかりしていると考えるべきだろうし、あるいは迎撃のための仕掛けなどもあるかもしれない。


 そしてその上で、魔物の警戒もする必要があり、さらにそれはあくまでも前哨戦なのだ。

 本当に大切なのは拠点に無事侵入出来てからである。


 かといって拠点に侵入するまでを雑に処理してしまえば、アキラの時がそうであったように再び逃げられてしまう可能性もあり――


「ま、確かに面倒と言えば面倒ではあるよね。色々と考えなくちゃいけないことはあるし」

「……本当にごめんね、色々と」

「……好きでやってることだから、問題ない?」

「ですね。別にやめようと思えば今すぐにだってやめられるわけですし、クロエが気にすることじゃねえです」

「オレはどっちかっていや逃がしちまったあいつを今度こそぶちのめすためだしな」


 アキラの言葉は本音半分気遣い半分といったところなのだろうが……まあ、それぞれが好きでやっていることなのは事実である。


 とりあえずの脅威は取り除けたわけではあるし、そもそもここから先は本来ならば国に任せるべきことだ。

 そうしないのは、それでは時間がかかってしまうというのと、その場合アマゾネス達の安否が省みられない可能性が高いからである。

 数十人の命と悪魔を討てる可能性とを天秤に乗せた場合、生憎と命の方に傾く可能性は低い。


 しかも捕まっているのは自国民ではないのだ。

 尚更省みられる可能性は低いだろう。


 それを厭うから、というのは、結局のところそうしたいからしているということに他ならないのである。


「ま、ここで見捨てちゃったら寝覚め悪いしね。でもまだ大事なのはこれからなわけだし、とりあえず今考えるべきことは、どうやったら今度こそ成功させられるかってことかな」


 謝罪にしろ感謝にしろ、それらの言葉を受け取るのは全てが終わってからのことだ。


 そのためにも、アレンは地図に視線を向け直すと、さてどうしたものかとこれからのことを考えるのであった。

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●TOブックス様より書籍版第五巻が2020年2月10日に発売予定です。
 加筆修正を行い、書き下ろしもありますので、是非お手に取っていただけましたら幸いです。
 また、ニコニコ静画でコミカライズが連載中です。
 コミックの二巻も2020年2月25日に発売予定となっていますので、こちらも是非お手に取っていただけましたら幸いです。

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