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助けるために

 アレン達が何をやったのかと言えば、要するに逆探知だ。


 悪魔は捕らえられそうになると、煙の如く消え去る。

 そのことが事実だということを、アレンは知っていた。

 以前王都で起こった一件の際、捕らえたはずの悪魔がいつの間にか消えていたという話を聞いていたからだ。


 その話を聞いた時、アレンが想像したものは二つある。

 一つは、捕らえた悪魔は分身のようなものであったため、文字通りの意味で消えてしまったということ。

 もう一つが、緊急時に空間転移のようなものをするようになっているのではないか、ということだ。


 ただし、そのうち前者をすぐにないだろうと結論付けたのは、捕らえられた悪魔のことをアレンが一度視ていたからである。

 分身のようなものであるならば、その時に気付いたはずだ。

 つまりは後者、空間転移のようなもので逃げている可能性が高いということになる。


 そして何故空間転移と断言しないのかと言えば、空間転移で逃げても、煙のように、とはならないからだ。

 故に似て非なるものだと考えた、というわけである。


 だが違うものだとはいえ、現在位置から異なる位置へと瞬時に移動しているのだろうことは確かだろう。

 ということは、その場にいればアレン達ならば移動先を掴むことが出来る可能性が高い。


 そういうわけで、アレン達は見に徹し、見事退避先を把握することに成功した、というわけであった。


「ちっ……つまりはなんだ、結局またお前に良いとこ持ってかれたってことかよ……」

「いや、良いとことかそういうのじゃなくて、適材適所ってだけだよ」


 これは慰めとかではなく、ただの事実だ。

 悪魔がいつ消えるのかなど分からなかったのである。

 アキラが戦ってくれていなければ、移動先を捉えきれなかった可能性は十分にあった。


 もちろんそれでもアンリエットがいればある程度は把握できただろうが、それも完全ではない。

 大雑把な位置が把握出来たというだけであり、そこから実際の場所を探すには相応の時間がかかってしまっただろう。

 アマゾネスが現在どうなっているのか分からない以上は、救出に向かうのは出来るだけ早い方がよく、そのことを考えればやはりアキラが戦いアレン達が情報を得るという形が一番だったのである。


「ま、アキラの活躍はこれからだってことですよ」

「そうだね。むしろ本当に大変なのはこれからだろうし」


 相手の数が分からなければ、アマゾネス達がどんな状況なのかも分かってはいないのだ。

 かといってその辺のことを調べるのに時間をかけてしまえば、それこそどんなことになるか分かったものではない。

 移動してしまうかもしれないし、アマゾネス達が殺されてしまう可能性だってないわけではないのである。


 そんな中で悪魔達を倒し、アマゾネス達を救出するということがどれだけ大変かということは、改めて言うまでもあるまい。


「ちなみに、クロエ達のいた村ってどのくらいの人がいたの?」

「え? あ、うん、そうだなぁ……確か五十人ぐらいだっけ?」

「……正確には、五十二人?」

「ってことは、ここに二人いることを考えればちょうど五十人ってことか……そう多くはねえが、少人数で守りきれる数でもねえし、確かに大変そうだな」

「うーん……それなんだけど、もしかしたら、五十人はいないかも。アタシがここで見たことあるのは三十人ぐらいだったし。お年寄りや子供の姿を見かけなかったんだよね。単純にここには連れられてこなかった、ってだけならいいんだけど……」

「あの悪魔が逃げた先にもいなかった場合はちと面倒なことになるですね……」


 その場合は、どこか別の場所にいるということになる。

 その場所も見つけ、救出に行かなければならないのだから、手間は二倍だ。

 守らなければならない人数が少なくなるので一概にどちらが大変とは言えないが……その可能性があるということは頭に入れておく必要があるだろう。


 本当にそうである場合、悪魔達からその情報も得なければならないからだ。

 年寄りや子供……即ち、足手まといとなるような者達を悪魔が生かしておくかどうかは分からないが……それでも最初から駄目だと決め付けておくわけにはいくまい。


「まあそれはともかくとしてだな、で、結局あのやろうはどこに逃げやがったんだ?」

「そうですね……まあ、大雑把でいいなら教えてもいいんですが、後にした方がよくねえですか?」

「あ? 何でだよ?」

「下手に教えちゃったら気になって注意力散漫になりそうだからじゃないかな?」

「……ちっ」


 言われた言葉に、アキラは舌打ちすると顔を逸らした。

 自分でもそう思ったのだろう。


 地面を掘り進めた先とはいえ、悪魔が現れたのだ。

 悪魔の移動した先が分かるといっても、他にも情報があるに越したことはない。

 拠点の他の場所もやはりしっかりと調べてみようということになったのである。


 それにどちらにせよ、ここで詳細な場所を調べることは不可能だ。

 そのためには地図か何かが必要である。


 地下にある小屋を見つけた時にも言ったように、アンリエットが認識出来る対象というのは基本的に大雑把だ。

 大雑把な位置に認識対象がいるということは分かっても、誰かが明確な位置を指定してやらなければ具体的な位置は曖昧なままである。

 単純にアンリエットが基本としている基準が大きすぎるがゆえに起こる事であり、大は小を兼ねるとは言っても限度があるということだ。


 そこを補完するのがアレンの役目であり、悪魔が転移した際に大雑把な位置を逆探知したアンリエットに対し、アレンが調べたのは転移先の詳細な情報である。

 具体的な場所としなかったのは、その場合辿りきれない可能性があったからだ。


 基本転移は一瞬で行われるものなので、解析する時間も一瞬である。

 当然解析出来る情報にも限りがあり、中でも場所の座標を探るというのはそれなりにリスクの高い行為なのだ。

 自分一人であればそれでもそちらを調べることを選んだかもしれないが、大雑把な位置はアンリエットが把握してくれる。

 だからこそ、アレンは敢えて転移先の情報を得ることを選んだのだ。


 そして場所を特定するには、アレンの情報だけでもやはり足りない。

 アンリエットが指定した範囲から該当する場所を探す必要があるので、地図などが必要、というわけである。


「……地図は持ってきてないから、一度戻る必要がある?」

「だね。ま、それは転移で戻ればいい話ではあるんだけど」

「でもそれも結局は、全部一通り回ってからの話だよねー」

「あー、もー分かってるっつーの。まんまと逃がしちしまったあの野郎に借りを返したい気持ちはあるが、優先順位を取り違えるようなことをするつもりはねえよ」


 そう言いつつも、どことなく不満気な雰囲気を漂わせているアキラではあるが、その辺はさすがに仕方のないことではあるだろう。

 実際ミレーヌなどもいつも通りの無表情に見えるが、若干の焦りのようなものが見える。

 故郷の人達がどうなっているのか分からないとなれば当然のことであり、だがここで焦っても仕方ないということも分かっているのだ。


 今アレン達に必要なのは、より多くの情報である。

 一見遠回りのように思えても、後から考えれば、ということは十分に起こり得るのだ。


 無論、完全に無駄に終わってしまう可能性もまたあるが……それはもうどうしようもあるまい。

 どちらがいいかを検討して、結果調査を続行することを選んだのだ。

 一先ずここの調査を行ない、その後で一旦町へと戻った後で、改めて悪魔達のいるだろう場所へと向かう。

 それが今のところの予定だ。


 正直なところ、色々と気になるところはある。

 この小屋のこともそうだし、あの悪魔も妙にあっさりと倒されてすぎだったような気がするのだ。

 アキラの実力がどうという問題ではなく、まるである程度のとこで引くことを最初から想定していたような動きだったように思えたのである。


 まあ、気のせいと言われてしまえばそれまでのことではあるのだが。

 ともあれ。


「さて……じゃあとりあえず、一度上に出ようか。ここでやることはもうないしね」

「ですね。この小屋には結局手掛かりとなるようなものは何もなかったわけですし」

「……罠のためだけのものだった?」

「にしてはちとリスクが高すぎる気がするが……ま、考えたってどうしようもねえか」

「だねー。何も見つからなかった以上は、そう考えるしかないわけだし」


 そんなことを話しながら、一箇所に集まり、軽く手を繋ぐ。

 全員が手を繋いだのを確認すると、アレンは転移をするため意識を集中するのであった。

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●TOブックス様より書籍版第五巻が2020年2月10日に発売予定です。
 加筆修正を行い、書き下ろしもありますので、是非お手に取っていただけましたら幸いです。
 また、ニコニコ静画でコミカライズが連載中です。
 コミックの二巻も2020年2月25日に発売予定となっていますので、こちらも是非お手に取っていただけましたら幸いです。

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