捕まっている場所
集合場所というのは、比較的簡単に見つける事が出来た。
というか、そもそも帝城が見える位置――大通り沿いに宿は一つしかなかったのである。
全て同じ高さで等間隔に並んでいるということは、帝城が見えるのは大通り沿いの店しかないのだ。
すぐに分かると言われた時はどういうことかと思ったものの――
「これなら確かに、分かって当然ね」
「ですね。ただ、これならば敢えて遠回しな言い方をする必要はなかったようにも思えるのですが……」
「……何か理由がある?」
「ま、ともあれ中に入ってみようか」
納得半分不可解半分といった感じではあるが、そうしてアレン達は集合場所である宿へと入っていく。
ちなみにそこが宿だと分かったのは、そう書かれていた看板が立っていたからだ。
逆に言えば、看板がなければ宿だとは思えないぐらい、本当に周囲の建物との違いはない。
中はどうなっているのだろうかと、正直若干の不安にかられたが、幸いにもと言うべきか、扉を開けると宿屋らしい受付がそこにはあった。
しかし驚いたのは、そこでカーティスの名を告げた時のことだ。
連れが既に待っていると、そう言われたのである。
カーティスの名を告げたのは、待ち合わせの名として使うことを予め決めていたからであり、無論他と被るとは思えない。
だがアレン達も街に入って割とすぐにここに来たのだ。
大通りを一通り歩いたものの、それほど時間は経っていないはずである。
半信半疑ながらも案内されるままに歩き……しかし、その先の部屋には、確かにカーティスと護衛の姿があった。
護衛が小さく頭を下げ、カーティスは笑みを浮かべてこちらを出迎える。
「無事合流できて何よりです。それにしても、皆さん意外と早く着きましたね?」
「いや、それはこっちの台詞だと思うけど?」
「そうね……あたし達は寄り道とかは特にしていないはずなのだけれど?」
「まあ、こちらは馬車を使いましたからね。むしろ僕達の方が早く着くのは当然かと思います」
確かに、アレン達が歩いて街に向かったのに対し、カーティス達が馬車に乗っていったのは横目で確認してはいた。
ただ、そのまま明後日の方向に走って行ったので、てっきりああ言いながらもどこかに隠すのかと思っていたのだが……もしかするとあっちに隠し通路的なものがあった、ということなのかもしれない。
まあだが何にせよ、カーティスの言った通り、互いに無事であり、こうして合流出来たのであれば何よりだ。
無駄な時間を過ごさずにすむ。
「んー……まあいっか。今はそんなことよりもやるべきことがあるしね。あ、ただ気になってる事があるんだけど、言われた通りカーティスの名前出しちゃったけど大丈夫なの?」
「あ、それはわたしも気になっていました。まあ一介の宿屋に名を告げたからといってどうなるというわけでもないのかもしれませんが、事が事なわけですし」
「ああ、その辺は問題はありませんよ。この宿は場所柄よく待ち合わせなどに使われることも多いのですけれど、その理由の一つにここで見たもの聞いたことは一切口外しないというルールがあるからでもあります。そしてそれは皇帝から認められたことでもあるため、たとえ皇帝であろうともここに誰が訪れたのか、ということを聞き出すことは出来ませんし、教えることも有り得ないんです」
「へー、そんなのあるのね。っていうか、認めちゃうのね」
「……帝国は、独特?」
「かもしれませんね。様々な種族、国家を取り込み続けるため、そういったことはよくあるんです。……それを皆がどう思っているのかは、ともかくとして」
「カーティス……?」
「ああ、すみません。蛇足でした。っと、そんなことよりも、皆さんにお知らせする事があるんです」
そう言ったカーティスは、どことなく自信あり気な笑みを浮かべていた。
この状況でそんな顔をするということは――
「知らせること……アンリエットのいる場所が分かった、とか?」
「あれ? 分かりやすかったでしょうか……?」
「まあ、この状況で知らせることとか言ったら限られているものね」
「……それに、その顔」
「ああ、申し訳ありません。嬉しさを隠し切れなかったようで」
「嬉しい、ですか……?」
確かに、どこにいるのか分かったのはいいことではあるが、それが嬉しいことであるかは若干疑問ではある。
捕まっている以上は、嬉しいことではないはずだからだ。
「そうですね、普通ならば嬉しいという言葉は相応しくはないのでしょうけれど……姉さんがいる場所が場所なので」
「それはつまり……悪くない扱いをされてる、ってこと?」
「悪くないどころか、考えていた中では最も良いと言えるかと思います。何せ姉さんは今、帝城にいるらしいのですから」
「……帝城? って、あれ?」
あれ、と言いながらミレーヌが窓の外へと向けた視線の先には、先ほども目にしていた帝城の威容が存在している。
そしてカーティスはそれに、はっきりと頷いた。
「はい、あの帝城です」
「それって……帝城の地下牢にいる、とかいうことでは、勿論ないんですよね?」
「帝城には地下牢はありませんからね。本来皇帝がいる場所である以上は、隔離されているとしても近くに犯罪者を収容しておくわけにはいきませんから」
「それって今のアンリエットの状況と思いっきり矛盾してない?」
アンリエットは犯罪者としてここに連れて来られたはずである。
なのに犯罪者がいてはいけない場所にいるというのは、何ともおかしな話だ。
「いえ、これはそうおかしな話ではないんです。姉さんは確かに皇帝暗殺の主犯として連れて来られた可能性が高いですし、連れてきたのが黒狼騎士団である以上はほぼその罪は確定してしまっています。しかし、逆に言えばまだ罪が確定しているとは言えないのです。そして姉さんは実権がないとはいえ、事実上の侯爵家の当主ですから……」
「……地下牢とかには入れておけない?」
「そういうことなのでしょう。まあ、誰がそう判断したのは分からないのですけれど……」
「分からない……? 分からないってどういうことよ?」
「何せ事が事ですから、本来こういうことを決めるのは皇帝なのです。けれど……」
「なるほど、その皇帝がいないから」
「はい。現状変わりにその権利があるのは皇族の五人と各公爵家の当主になるのですけれど、誰が判断したのかまではさすがに……」
ただ、可能性として高いのは、公爵家の誰かであるらしい。
皇族にも権限はあるものの、実務経験に乏しく正しく判断出来るかは怪しいからだ。
そのため、皇帝の席が何らかの理由で空いてしまった場合、何かを決める際には全員の許諾が必要となり、そういった意見を出せるのは必然的に公爵家の誰かということになる、とのことである。
「まあ、別に誰が判断したんでもどうでもいいことではあるしね」
「そうですね。そのおかげで姉さんが辛い状況にないのですから、後でお礼を申し上げたいのですけれど……今は他にやるべきことがありますから。ともあれ、そういったわけで、姉さんは今帝城で軟禁状態にあるらしいです」
「軟禁か……ま、予想してた中ではかなり上等な扱いではありそう、かな?」
「はい。ただし、そのせいで僕達にとってはやりづらくなってしまいましたけれど」
「あー……まあ、確かにそうよね。それって帝城に忍び込む必要があるってことだものね……」
「……ちなみにですが、帝城の警備の方は……?」
「当然ですが、元々最高のものが敷かれていましたし、悪魔の仕業と判断されたのはそれも一因です。後にギフトの反応が出なかったことが決定打となりましたけれど……そのせいもあって、次の皇帝はまだ決まっていませんけれど、警備の方は二度と遅れを取らぬようさらに厳重になっているという話です」
「……無理?」
「まあ、大分厳しそうではあるねえ」
とはいえ、それは帝城全体の話でもある。
つまりは、皇帝がいるのならば、その周囲をさらにガチガチに固めておくだろうが、アンリエットにそこまでのことをするだろうかという話だ。
付け入る隙はありそうな気がする。
「……あそこのどこかにアンリエットが、か」
本当に少しずつではあるが、それでも確実に近付けつつもある。
そのことを実感しながら、アレンは目を細めると、帝城をジッと眺めるのであった。




