帝都
結論から言ってしまえば、あっさりと帝都の中には入れた。
あまりにあっさり入れすぎて逆に不安に思うほどであり、だがしばらくしてから全知で調べてみるも特に監視されているような様子はなし。
どうやら本当に何の問題もなく入れたようであった。
「んー……気になることはあるけど、まあ何事もなく進める事が出来るのならそれに越したことはない、か」
「そうですね。それにしても……」
と、呟きながらリーズが周囲を眺め、それに付き合うようにアレンも周囲へと視線を向ける。
丸っきりおのぼりさんではあるが、周りにはそういった者も多い。
むしろ下手に警戒している様子をみせるよりは、こうしていた方が目立つことはないだろう。
「話に聞いてはいましたが、随分と理路整然とした街ですね」
「道もそうだけど、建物もしっかりしているわね。……正直なところ、少し気味が悪いぐらいだわ」
「……確かに、特徴的?」
「まあ、こうするのが最も確実だって判断したんだろうね。実際道理に適ってはいるし」
普通どんな街であろうとも、ある程度は雑多になるものだ。
建物の大きさ、位置、建てられている幅。
道はある程度真っ直ぐに出来てはいても、途中途中の場所で好き好きに、ぐにゃぐにゃとした脇道が続くことも多い。
これは王都であろうと同様であり、その理由は基本的に、大半の街というものは元は小さな村であったからだ。
そこから拡張に拡張を重ねて町へと至るのであり、そのせいで統一性はない。
そうして結果的に雑多な感じになっていく、というわけだ。
国を興し、中心となる街を決めた場合、一から作り始めることもあるが、基本的にはこれも例外ではない。
最初から全ての家を計画立てて建てていくなどということはないからだ。
各人が好き好きに建て、必要となった時に道を追加していったりもするため、所々では統一性もあるが、全体で見るとやはり雑多となるのである。
しかし、この帝都だけは例外であった。
「帝国が版図を広げるたびに、帝都を作り直す。帝国の力を象徴するようなことだと言われてはいますが、こうして目の当たりにしてしまうと納得できてしまいますね」
「あたしとしては面倒だとしか思えないけれどね。それと、やり応えはなさそうだわ」
「……鍛冶師ならではの意見?」
「まあ普通出てこない発想ではあるよね。結構同感ではあるけど」
そう、帝国はどこかの国を攻め、取り込んだ場合、その度に新しく帝都を作り直すのだ。
帝都が帝国の中心に位置するというのも、わざわざその位置に作っているからなのである。
それは帝国の平等性を示すためであり、また力を誇示するためだとも言われてはいるが……実際にどうなのかは不明だ。
分かるのは、事実として帝国は他の国を取り込むたびに帝都を作り直しているということである。
そしてそれが、帝都がここまで理路整然とした作りになっていることの理由であった。
帝国は周辺国にバンバン戦争を仕掛ける国だ。
そうして勝ち進んでいるからこそ、今の帝国がある。
しかしそれは要するに、何度も何度も帝都は作り直されてきたということだ。
酷い時には年に一度作り直していたこともあったらしく……だが、当然のことながら街などというものはそんな簡単に出来るものではない。
しかも、ただの村ならばまだしも、帝都なのだ。
下手に手抜きも出来ない。
そこで考えられたのが、規格の統一化であった。
時間がかかってしまうのは、要するに各々のスペシャリストが、各々で最高の仕事をしようとするからである。
だから最高の物が出来上がるのではあるが、帝都に求められたのは何よりも速度であった。
肝心の帝都が出来上がらなければ、力の誇示どころか、逆効果にしかならないからである。
故に、常に同じ素材で同じ形状のものを作り、同じように作り上げるようにすることで、作業の高速化を図ったのだ。
さらにそれならば、分業が可能であり、多くの者が作業に参加出来るようになる。
それが結果的に帝国の技術力を押し上げる遠因になった、などとも言われているのだが……まあ、とりあえずそれは余談だろう。
ともあれ、同じものを同じように作るようにしたからこそ、それぞれの建物に違いはなく、等間隔に建ち、それによって脇道の幅や間隔も同じになり、真っ直ぐ伸びてもいる、というわけである。
「まあでも、やり応えはなさそうだけれど……腕がいいのは、確かみたいね」
「やはり目線が職人のものなのですが……まあ、言いたいことは分かります」
「基本的には急ごしらえで作ったものだっていうのに、随分しっかりしてるように見えるからね。あそこに最近出来た家よりも、質いいんじゃないかな?」
あそこ――辺境の地が王都と繋がりがあるというのは以前にも述べた通りだが、そのせいなのか何なのか、空き家はまだあるはずなのに、時折新しく家が建つ事がある。
最近も新しく作られたものがあるのだが……全体的に見るならばともかく、家としての完成度ならば、こちらの方が上のように見えた。
量産品でこれだというのだから、帝国の技術力の高さを改めて実感する思いだ。
「ま、でも何にせよ、今の僕達にとってはありがたいことだけどね」
「……道が分かり易い?」
そういうことだと頷く。
カーティスから集合場所は聞いているものの、土地勘はまったくないのである。
特徴を聞いたところで辿り着けるのかは若干不安ではあったが、この様子ならば問題はなさそうであった。
「いざとなれば道を一本一本通って確認していけばいいだけだものね。さすがにこれならば迷うこともないでしょうし」
「住民も一斉に移るという話でしたから、その辺のことも考慮されているのかもしれませんね」
「ああ、確かに。まったく同じならば、すぐに慣れることも出来るだろうしね」
「……皇帝、有能?」
「いやここでそういうことを言うのはどうかと思うんだけど?」
ただ、実際にどこまでが狙い通りだったのかは分からないが、皇帝が有能であったのは間違いないだろう。
でなければ帝国がここまで大きくなることはなかったはずだ。
しかしその皇帝も、暗殺されてしまった。
あるいは有能すぎたが故に身内から邪魔だと判断されてしまったのかもしれないが……それはアレンには関係のあることではない。
重要なのは、それが巡り巡ってアンリエットが捕らえられるという事態になってしまったということのみである。
そしてようやく、ここまで辿り着く事が出来た。
無論むしろ問題なのは、これからである。
アンリエットの現状は分からず、どこにいるのかも分からない。
あるいは、本当に助ける必要があるのかも。
だがとりあえず、ここに無事辿り着く事が出来たのは確かなのだ。
ならば。
「さて……ともあれ、一先ず集合場所に行くとしようか」
「そうですね、ここには観光に来たわけではないんですし。集合場所である宿は、確か街の中心に近い場所にある、ということでしたか?」
「だったわね。帝城が見える位置にある、とか言ってたけれど……」
言ってノエルが視線を向けたのに釣られるように、アレンもそちらを……大通りの先を見つめる。
真っ直ぐに伸びている道は何にも遮られてことなく続き、その先にある巨大な城へと繋がっていた。
「……帝城。あれも建て替えた?」
「そういえば、どうなんだろうね。帝都と一緒に移動させる、とは言ってたけど……」
帝都は帝国の中心であり、ならばこそ当然のように帝城も一緒だ。
しかしさすがに帝城は規格を一緒にしたところで帝城以外には応用が利かないだろうし、あるいは何らかの方法であれだけは運んでいるのかもしれない。
帝国の技術から考えれば、有り得ないとは言いきれなかった。
「ま、後でその辺のことを聞いてみるのもいいかもしれないね」
これからそんな話をするような余裕はないだろう。
だからすることがあるとすれば、それは全てが終わった後のことである。
アレンの言いたい事が分かったのか、リーズ達はアレンの方へと顔を向けると、真剣な表情で頷く。
それにアレンは口元を緩めながら、とりあえず集合場所へと向けて歩き出すのであった。




