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戦乙女 ヴァルキリー  作者: 饅頭
ダブルエピソード
9/21

2-2 喰らう者

 真赤な血が宙を舞う。

 「残り弾数0発」

 「ぐはっ!」

 大量の吐血とともに地面に高速で落下する。

 鈍い音ともに辺りに血が飛び散る。

 「はぁ、はぁ。コードネーム、01ぐふっ!はぁはぁ、アシストを発動、神装を解除。一時帰還を要求、する」

 [コードネーム01のアシスト機能を再発動。神装を解除します。一時帰還を受諾しました。次の出撃可能まで3分です]

 青い光が01を一瞬包んでその場から01の姿はなくなった。

 「勝った。でもなんであいつの死体がないの?もしかして」

 「ジャンプ」

 瞬時に都市の端に移動する。

 「くそっ!あいつがどれくらいで戻ってくるかわからないから今のうちに距離をできるだけ距離をとらないと」

 「ジャンプ」

 砂漠に瞬時に移動する。

 後ろを向くとかすかに都市が見える。

 「ジャンプ」

 「ジャンプ」

 「ジャンプ」

 「ジャンプ」

 数回移動すると蜃気楼ではに限り視界にかすかに高台が見える。

 「ジャンプ」

 高台の上に着地する。

 「まって、この先って。海」

 「陸がないとこでジャンプするのはかなり危ない。飛んでいくしかないか」

 つま先で地面を軽くたたくと体が重力から解放されてふっと浮き上がる。

 「くっ!魔力を使いすぎた。でもいけるとこまで言ってやる」

 残った魔力をフルに使って広大な海の上を飛び続ける。

 飛行可能時間はあと2分、01復活までの時間は2分を切った。

 現在の時刻は22時45分

 

 場所はうつりここは和風の城下町『暮酒』。

 静かで風流のあり最も美しい都市とされている。

 いや、最も美しい都市とされていた。

 数時間前、要塞都市『デモン』を捨てて出発した戦艦『百鬼夜行』によって一瞬にして更地へと変貌した。

 そこに暮らしていた人は苦しむ時間もなく、その目に巨大な空飛ぶ戦艦が見えていた時には死んでいた。

 「手遅れでしたね」

 「奴らももう次の街に行ったってことですか」

 「葵さんはまた当り前な事を聞きますね」

 「だめですか?当たり前な事でも声に出していってもいいでしょう。なんで真央さんは私に対してのあたりがつよいんですか」

 「葵さん。騒ぐと早死にするので静かにしてくださいね」

 「私が悪いんですか!?」

 「さて拠点に帰りますか」

 「無視ですか?ひどすぎますよ!ってそんな事より拠点に帰るとおっしゃいましたか?」

 「葵さんは耳が悪いんですか?」

 「いや、そうではなくこの状況を見てください」

 「・・・。開けた土地ですね」

 「いえ、だからですね。拠点もろとも『カーリー』たちに吹き飛ばされたんですよ」

 「ああ、あれですか。そもそも葵さんには毎回のように言わなかった・・・いえ言わなかったですから」

 「訂正するなら訂正してくださいよ。それに何ですか言わなかったことって」

 「私の地下研究室ですよ」

 「なんで?」

 「葵さん。何を当たり前な事を聞いているのですか?なんせ私は科学者ですよ。博士ですよ。マットでサイエンティストですよ」

 「それは元の世界での真央さんの肩書でしょうが」

 「葵さん」

 「何ですか」

 「そんな人生で楽しいですか」

 「・・・精神的に来るのものあります」

 「そんな事より奴らを追いかける準備をしますよ。次に奴らが襲撃する都市は助けられないので、その次の都市に先回りしますよ」

 「具体的な対策法は何ですか?」

 「まずはあの戦艦がどれほどの強度を誇っているかを検証してから次に自らの武器による攻撃は防げるのか、あとは最近作った武器の試射会といったとこですかね」

 「まるで遠足に行くようなのりですね」

 「その程度のものですからね」

 現在の時刻は23時14分

 

 「お腹すいて死にそう」

 現在奈央は無人の島にある洞窟に息をひそめている。

 海を移動中に魔力が切れて落下後、漂流して気が付くと無人島にいた。

 そのため自分でも現在の場所がどこか見当もつかない。

 戦乙女特有の能力として自分の脳と『ユグドラシル』の世界の記憶を一時的につなげて周辺の地形を知る事が出来る、そして自分が一度通ったことのある場所はより鮮明に知る事が出来る。

 しかし今奈央の魔力はほぼ空っぽ、神話度も微量しかなく、戦乙女の危機的状況の一つ空腹状態にある。

 いつ死んでもおかしくない状況といえる。

 「魚は捕れないし、食べれそうな気の実は見当たらないし。最悪」

 「茂みにうまいこと溶け込んで一日ぐらい寝れば体力も戻るし空腹もなくなるかな」

  現在の時刻は23時24分


 「なんて広さの海だ、全く彼女がどこへ逃げたのかわからない。目の前に戦乙女がいないと戦闘可能状態になれないのは厄介だな。おかげでこんな風に海底を歩いて移動するなんてね」

 アシスト機能というものにより世界の影響を受けない代わりに行動に制限がかかる。

 しかしアシスト機能がなければ簡単に死んでしまう。

 「さてどうしたものか」

 現在の時刻は23時31分


 「ほら、葵さん。なにぼさっとしているのですか、行きますよ」

 「もう少し待ってください。これと、これと」

 「準備出来ましたよ。さあ早く外に出ましょう」

 「いえ、外には出ませんよ」

 「ならどうやって移動すんですか?まさかこの空間事とか言いませんよね」

 「葵さん。アニメの見すぎでは?そんなことしませんし出来ません」

 「ならどうやって」

 「地下渓谷を歩いていきます」

 「掘ったとか言いませんよね」

 「渓谷なんて掘りませんよ。もとからあったのを利用しているだけです。さ、行きますよ」

 真央は本棚のまえに立ち一冊の本を軽く手前に引くとカチっという音とともにゆっくりと扉が開く。

 「真央さん。その機能必要ですか?」

 「葵さん、ロマンですよ」

 「すいませんよくわかりません」

 二人は渓谷を歩き始める。

 現在の時刻は23時47分

 

 「今夜は月が赤いです。何か起こりそうな」

 葵、真央の向かっている街の北にある森の中に一つの神社がある。

 そこには一人の戦乙女が住んでいて、町人からは『巫女さん』と呼ばれている。

 名は仙波原陽菜。

 外見は小柄で髪型はまっすぐ伸ばされたショートより少し長めで、髪色は白い、瞳は黒くその目は一言で言い表すなら深淵。

 そいて大きな特徴として遠くで何が起きているかを感じ取ることと、

 「にしても今日は騒がしい。遠く離れた地では都市が消えているようですね。地下の空洞、いえ渓谷から二人ほどこちらに向かっているようですね。最もここから近い都市に巨大な何かが向かっているようです。そして今日一番不可解なのは空から静かにゆっくりとそして着々となにかが降りてきます」

 「もうすぐ24時。その時刻に何かが起きます。」

 「よく見えてるね」

 「おや、まだ起きていたんですか」

 「今日は寝つきが悪くてね」

 二重人格ということだ。

 そしてその人格の名は仙波原里菜。

 陽菜と里菜は双子の存在、だが里菜は生まれる直前で死亡、陽菜は無事に出産され物心ついた時には陽菜には里菜の存在を知っていて普通に会話もしていた。

 そのため周りからは冷たい目で見られていた。

 それがきっかけで陽菜は今や人知を超えるほどに周囲の様子を見る事が出来る。

 「それで、陽菜。24時に何が起きるっていのさ」

 「正確には言えないのですが人?いえ戦乙女?すいません里菜。わかりません」

 「形すらとらえられないなんて珍しいじゃん」

 「なんといえばいいのでしょう。何か靄のようなものがかかっている感じでしょうかね」

 「地下から来てるって奴らは」

 「心臓の鼓動が静かに一定を保たれているので今のところ慢心は見られません」

 「なら地下より都市破壊している方を警戒しておいた方がいいか」

 「どちらにせよ地下と都市を破壊している方々より24時に怒る災厄に備えた方が特撮ですね」

 現在の時刻23時57分46秒


 それはまるで数時間、いや永遠と思われる時間が今『ユグドラシル』にいる大半の戦乙女たちが感じた。

 刻々と迫る時間、何かとははっきりとは答えられない何かが。

 現在の時刻23時59分29秒

 

 30・・・29・・・28・・・27・・・26・・・25・・・24・・・。


 5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・。

 

 夜の闇に包まれていた空が数秒間直視できないほどの光に包まれる。

 その光はやがて一点に集まり、人の形を構成していく。

 その姿は誰もが目を奪われるような天使。

 透き通るようなドレス(ショートライン)に身を包み、透き通るような水色のロングヘアーにすべてを見透かすような青い瞳、胸元にはブローチをつけている。

 「現在の時刻0時1分。任意コード実行、識別名殲滅する者2番。我『喰らう者』。魔装『ファング』」

 魔装、神装とは似て非なるもの。

 神装がプラスなら魔装はマイナス。

 白く光っていた体がまるで警告を促すような赤と黒のツートンに怪しく光りだす。

 ともに胸元のブローチはパソコンのファンのような音を立て始める。

 その姿は今までの天使とは一見して殺戮者悪魔の様な印象を与える。

 「生命反応感知。直ちに排除開始。武装『第4魔獣』」

 体のいたる場所から赤く光る眼が出現する。

 「捕食」

 『喰らう者』の右手が痙攣とともに肥大化し黒く染まるりやがてそれは獣のになる。

 その獣は無数の目で森の中にいる獲物をにらむと自らの意志でゴムのように伸びて獲物に喰らいつく。

 「敵の回避反応を確認。次の攻撃に移行する」

 獣は右手へと姿を戻して一気に収縮させて腕を元の長さに戻す。

 獣時に喰らったものは小動物ネズミの仲間、それを無慈悲にも握りつぶす。

 「獣化」

 自らを獣へと姿を変える。

 再び無数の目が獲物を捕らえる。

 すると獣の体中から獣の顔が出現する。

 その全てが我先にと獲物に向かって伸縮する。

 「まじかよ。なんなんだあいつ」

 無数の獣の顔から逃走しているのは最弱の戦乙女。

 神装発動条件は睡眠状態、天聖は通常状態は使用者の任意発動のために戦うすべが限られる。

 自らの意志では戦えないがゆえに最弱。

 その者の名をジェシカ・バートマン、髪型はベリーショート、髪色は黒、瞳も黒。

 この世界に体力という概念はあまりない、強いて言うなら元の世界での運動能力で多少の差は出る。

 ジェシカの場合元の世界ではFBIの一員だったため運動能力は飛躍的に高い。

 「くそ、振りきれない。こんな障害物だらけの場所じゃなかったらすぐ死んじゃうよ」

 「お手製のサバイバル型小型爆弾をお見舞いしてやるよ」

 爆弾の入った袋を袋ごと投げつける。

 無数の顔の一つがその袋を飲み込んでしまう。

 途端『喰らう者』の体が吹き飛ぶ。

 あたりには黒い血がこびりつく。

 「何とかなった」

 「‼」

 間一髪横に飛んで資格からの攻撃をよける。

 「銃?いや殺気を弾丸として飛ばしてきた」

 「捕食対象の基本戦闘能力を計算しました。次の攻撃に移ります」

 「ははは。悪い冗談だね。その状態で動いてしゃべるとか、人間じゃない」

 ジェシカの目の前には半分獣状態の『喰らう者』の頭だけがいた。

 「予期せぬエラー発生。人体の復元を図ります」

 「それは、うれしいエラーだ。今のうちに距離を置かせてもらうよ」

 尋常じゃない速さで森を駆け抜けていく。

 「捕食対象の逃走を確認。復元可能まで3、2、1」

 「能力部分開放Ⅲ」

 数秒で周囲に散らばっていった肉体が集まり再び人の形として復元される。

 「捕食対象を感知。直ちに攻撃を開始する」

 「頭牙獣」

 体全体が肥大化し巨大な獣の顔を生成する。

 爆風とともに目の前の木々を喰らいながらジェシカ向かって突進する。

 「まじ・・・」

 ジェシカが気づいた時には時すでに遅し。

 ボキ、グショ、メリ、バキ。

 擬音とともにジェシカは砕かれ、そして喰われた。

 やがてその大きな頭だけの獣は人の姿へと戻る。

 口元を真っ赤に染め、手にはまだ食べかけの腕を持っていた。

 「捕食完了。戦乙女ジェシカ・バートマンを排除。再びスリープモードへと移行する」

 胸元のブローチから発せられる音は小さくなりやがて消えると同時に『喰らう者』の体は白く光りだす。

 「帰還まで1分」

 「・・・5、4、3、2、1」

 再び直視できないほどの光を放ってその場から消え去る。


 真っ暗な夜は終わりを告げて次第に大地が明るくなる。

 「また、一人死んでしまわれたようです」

 「あの24時になった時にすっごく光って出てきたやつにか」

 「あれは、人間ではないといっていいでしょう。なんせ肉片が吹き飛ぼうと血がいくら出ようと頭だけになっても生きているのですから」

 「でも、そういうのと戦ってみたいな」

 「構いませせんが、里菜。これは私の体なので」

 「それじゃ思いっきりできないじゃん」

 「あきらめてくださいという事です」

  

 「真央さん、まだつかないんですか」

 「もう少しですが」

 「さっきからそればっかりじゃないですか」

 「いえ、こういうと相手のモチベーションをあげれると聞いているので」

 「いや、だからって限度ってものがあるでしょ」

 「そんなに言った覚えはないですが」

 「結構言ってると思いますけど、景色すら変わらないからどこまで来たか全くわからないです」

 「こればっかりは仕方ないです」

 「真央さんのその割り切りっぷり結構好きですよ」

 「女性に好きと言われてもうれしくないですよ」

 「知ってますよ私だって女は恋愛対象に入りませんから」

 「何言ってんですか。冗談に決まってるじゃないですか」

 「あなたの冗談は冗談に聞こえないんですよ」

 「それは心外というやつですね」

 「それにしてもこの地下渓谷は静かで景色も変わらないですね」

 「そうですか?私は周囲に埋まっている鉱石などを採取したくてうずうずしてますがね」

 「わたしにはすべて同じような医師にしか見えませんよ」

 「葵さん」

 「な、なんですか、その人を可哀そうみたいな目で見るのやめてもらってもいいですか」

 「葵さん、あと数分で地上に出れそうですよ」

 「あ、はいそうですか。じゃなくて、ああもういいです」

 しばし二人が歩いているとほのかに外の木々のにおいが香ってくる。

 「この匂い。そして少しばかり風を感じる」

 「外はまだ暗いようですね。朝になる前につけてよかったです」

 「私も一瞬でも早く外の空気を吸いたいです」

 

 「おや、どうやらこちらに到着したようです」

 「あの、地下からこっちに向かっている連中?」

 「はい。しかし彼女らにはこちらに対しての敵意がないようです」

 「てことは、その二人の目的って言うのはあの戦艦って事?」

 「その筋で間違いないでしょう」

 「こっちから出向くの?」

 「いえ、交戦時に必ず会うので向こうから来ない限りは出向かなくて大丈夫でしょう」

 「ねえ。素直にめんどくさいって言いなよ」

 「・・・」

 「あれ?図星かな?わかりやすいな陽菜」

 「別にいいです。里菜には隠し事はできないのは分かっていますから」

 「陽菜は素直だねー」

 「もうそれでいいので、明日に備えて私は寝させていただきます。何かあったら起こしてください」

 「ま、君が寝てるときは私が体の所有権が与えられるから大抵のことは私一人でやっておくよ」

 「死なない程度にしてください。ではおやすみなさい」

 今までの白くきれいに伸ばされた髪は赤く染まりばさばさになる。

 黒い瞳は赤く染まる。

 「さて、陽菜も寝たことだし何して遊ぼうかば」

 日の出まであと5時間。


・現在の戦乙女の数 111体

・死亡戦乙女の数    4体

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