ラトゥール家の夏休み
ラトゥール侯爵領地の温泉も、一段落して、
温泉の街が軌道に乗り、それぞれ本来の仕事に戻った頃。
シリウスは九歳、アルスは六歳、ルシアは四歳、カイルも一歳を過ぎ、洗礼も受けていた
私は、覚えている限りのお菓子を再現しようと努力して、パイやタルト類を作り、何故かタイミング良く現れるデリック導師に試食してもらっていた。お菓子センサーでもあるのかなあ。
マルノー領地では、牧畜も盛んになり、乳製品が多少手に入れやすくなったおかげで、ラトゥール家のお菓子のバリエーションが増えていく。
温泉宿で提供するお菓子も増えて、良い傾向になっている。
マルノー領地も、開発が更に進めば、温泉が出るんじゃないかと私は思っている。
嫁に出てしまったので、あまり関わり過ぎないように、たまに冒険者をするくらいにしている。
そんな感じで、平穏に過ごしていたら、王都の冒険者ギルド本部に、ある依頼が入り、ダリルさんと私も参加することになった。
王国の西の男爵領地の魔の森が溢れ始め、討伐依頼が出されたのだ。
ダリルさんが窮地に陥った、あの忘れもしない男爵領地だ。
ダリルさんの今の仕事は、冒険者ギルドの国としての監督なのに、私たちが討伐隊に参加するのは、別にリベンジしたいというわけではない。
まず、一月以上掛かる道程を、私なら男爵領地に転移できるから、そして、ダリルさんは調査をしたことがあり、適任だからというわけだ。
今回は、討伐隊を組む。男爵領地の宿屋や料理屋、居酒屋は利益が上がるだろう。
獲物が多過ぎることが予想できるので、領地に場所を借りて、仮設ギルドもできる。
討伐隊はギルド推薦の人たち。まあ、ほぼいつもの顔ぶれだけど。
ゲイルさんを、一度連れて行く。侯爵家の連絡のためだ。これで、私たちは、大義名分を得て堂々と趣味に…仕事に出かける。
狩りの支度を整え、王都ギルドから討伐隊を運ぶ。みんな準備万端だ。
仮設ギルドに顔を出したら、最初の目的地に飛ぶ。案の定、ダリルさん因縁の魔の森だった。森の魔力が強いのだろう。近辺の農地や草原は魔物に荒らされている。
すぐ、狩りを始める。もう狩り放題だ。
魔物たちも強い。手応え充分でみんな自然に連携を取りながら狩り続ける。
魔の森が、爆発的に溢れたなら、村や町が滅ぶこともある。この森は徹底的に狩る必要がありそうだ。
昼になり、一旦森から遠ざかり、昼食にする
久しぶりに冒険者らしい感じがする。
充分休憩したら、また森へ向かう。
溢れた魔物はかなり減ったので、森の外と中に分かれて、討伐を続ける。
この森の魔物は数も多く、群がるように襲いかかってくる。
魔力弾で撃ち、風の刃や氷の刃を使い蹴散らす。土木建築以外で思い切り魔法を使うのは久しぶりだ。魔力を惜しまず狩る。
夕方まで狩り続けて、町に戻り、仮設ギルドで獲物を買い取ってもらう。みんな相当な数だ。
宿屋に行き、部屋を取り、食堂で今日の感触を話し合う。あの森は明日も狩りをするべきだと意見が一致する。
初日は早く休み、翌日朝食後にまたあの魔の森へ飛ぶ。さすがに昨日の今日で、魔物は溢れてはいない。
森の中で狩りをする。また魔法を惜しまず使い続けて、狩り尽くす勢いで魔物を間引く。
魔力の強い森なので、ギルド支部ができれば良い狩り場になるはずだ。
昼まで狩り、昼食休憩をしたら、次の目的地を目指す。
私がダリルさんを探した時に、行ったことのある魔の森に、転移する。
また溢れた魔物を狩る。最初の森と比べるとそう酷くはないが、丁寧に狩り続ける。
森の中も勿論、間引く。
そんな風に、依頼の出た六ケ所の森を狩り、念のため他の魔の森も見て回り。十日間で依頼を終えた。
ギルドも支部を開設するそうで、私たちもまあ、リベンジになった。ただ、あの男爵領地は交通が不便なので、冒険者がすぐ集まるわけではないだろう。
魔力の強い森は、良い薬の材料になる植物や珍しい木の実や果実も沢山あった。
旅回りをする冒険者なら、暫く腰を据えて狩りや採取をしてくれるかも知れない。
少しだけ、気にしていた何かが、終わったように思えた。
そして、また夏がやってきた。
ラトゥール温泉は満員御礼。私たちも久しぶりに海水浴に行きたい。
ラトゥール領地屋敷から海に行けるが、マルノー領地のビーチも懐かしい。
最近忙しくて、あまり連絡していなかった父様に、通信してみる。
そうしたら、ルシウスとエリックの結婚相手が決まりそうだという話で、遊んでいる場合じゃなさそう。お気楽でごめんなさい。
結局、ラトゥール領地屋敷に滞在して、海に行こうということになる。
子供たちは大喜び。勉強もお休みだしね。
来年の夏が終わると、シリウスは貴族学校に入学するから、今のうちに遊ばせよう。時の経つのは早いものだな。
領地屋敷の人たちは、子供たちが来るのを楽しみにしてくれている。
お菓子やジュースで歓迎され、ほとんど冒険者スタイルのダリル父さん。
子供たちにはどれも嬉しい。
夕食を賑やかに食べ、私たち夫婦もバカンス気分。
翌日は、朝早くから、ご飯を炊いておにぎりを作る。はしゃぐ子供たちと一緒に、水着にシャツを羽織っただけで、ビーチに転移。
マルノー家のプライベートビーチとは違い、海水浴客で賑わっている。
テントを一つだけ張り、早速海へ。
シリウスとアルスは父さんに泳ぎを習う。ルシアとカイルは浮き輪。
そういえば、浮き輪は珍しい。というか、見たことの無い物だろう。注目を浴びる。
泳ぎ疲れたら、テントで休憩。飲み物や甘いものを出す。
家族の休日って感じだね。
夢中で砂遊びをして、みんな砂まみれになる
洗浄で砂を払って、昼食にする。
魔法の袋があるから、おにぎりは出来立てだし、肉の唐揚げやサラダも出来立て。
フルーツにお菓子も沢山。
適当に食べて、適当にお昼寝をする。
昼寝から起きたら、カイルは私と砂遊び。
ダリル父さんにビーチボールを渡して、シリウスたちとボール遊びをしてもらう。
これも、注目を浴びた。
興味がありそうな、近くにいる人たちも誘って、ビーチボール遊びを続ける。
開放的な、夏の海。みんな笑顔だ。
ラトゥール領地が平和な証拠みたいで、嬉しい。
プライベートビーチもいいけど、こんな感じの海は、遠い記憶を少し思い出しそうな、楽しくて、ちょっと切ない気分。
カイルは遊び疲れて、砂を握ったまま眠りそうになっている。
砂を払って、抱き上げる。
お茶を飲ませて、寝かせる。可愛いなあ。
はい、親バカです。でも、悪いことしたら、ちゃんと叱るからね。
夕方まで遊んで、テントを片付けたら、みんなに洗浄をかけて、屋敷に転移。
お風呂に入って、夕食を食べたら子供たちはすぐにお休みなさい。
幸せな時間だ。
領地屋敷は少し、王都屋敷より緩やかな空気が流れている。
私も気軽に片付けを手伝い、ダリルさんは家臣たちと話して笑っている。
翌日も、海に行く。
またみんなで泳ぐ。シリウスとアルスはまあまあ泳げるようになった。
広いビーチの一画が、特に賑わっている。
よく見ると、なんと、ベルナール侯爵家の方たちがいた。
「デリック導師!」
「おお!ライラたちも来てたのか。ラトゥール家直営の宿で世話になっているぞ」
「それは、ありがとうございます。私たちは屋敷ですけどね」
「そうか。で、あれ持っているか?」
「はい、アレですね」
ビーチバレーの一式、予備で持ってた。
棒を立て、網を張る。
知らない人たちは、何が始まるのか見物に集まって来た。
ダリルさんとデリック導師とベルナール侯爵家の皆さんが、チーム分けをして、ビーチバレーが始まる。
こんな所でも、大人気ない大人たちが繰り広げるビーチバレー。
見物する人たちも楽しそうだ。
参加希望者を、気安く仲間にして、遊びの輪が広がる。
ラトゥール温泉の海にも、ビーチバレーが定着するんだろうか。
まあ、娯楽の少ない世界だから、むしろもっと何か考えてもいいかな。
ベルナール侯爵家の天幕の横に、テントを張って、子供たちと遊びながら、思う。
娯楽が少ないけど、今までそれなりに、楽しいことはあった。
ダリルさんがいて、子供たちがいる。
友達も、ライラの家族たちも…
昼食を、デリック導師たちと一緒に食べる。
おにぎりや、お菓子を出す。
沢山あるから、みんなで食べて、デリック導師は、やっぱりお菓子に喜ぶ。
デリック導師って、お菓子好きだけど、太らない。世の女性の敵かも…
ルシアとカイルはお昼寝タイム。
シリウスとアルスは、ベルナール家の人と泳いでいる。
勿論、ビーチバレー再開。
周りの人たちも一緒に、笑ったり、悔しがったり、大人から子供まで、大はしゃぎ。
夕方まで遊んで、ビーチバレー一式は、デリック導師に進呈して、みんな笑顔で解散。
領地屋敷に帰ったらもう子供たちは眠い。
急いで夕食にして、お風呂に入ったら、みんな心地よく疲れて、眠る。
ラトゥール侯爵家の夏休みは、楽しかった。