温泉計画
ラトゥール侯爵領地の、温泉計画を色々考えるうちに、時が過ぎ、シリウスは七歳、アルスも四歳、ルシアも二歳になっていた。
侯爵家の日々は相変わらずで、ダリルさんは仕事に忙しく、私は領地の開発をしながら、二人共冒険者もする。そんな感じだった
王都も領地も、屋敷の人たちに馴染み、順調に回っている。
なかなか良い感じのなか、また私はオメデタになり、開発も冒険者もお預けになった。
子供も四人目になる。
結構丈夫な身体みたいで、何よりだ。
しかし、屋敷で大人しくするのはつまらない
子供たちと遊ぶのも、あまり動き回るわけにいかないので、やんちゃ坊主とやんちゃ娘の相手には不足らしい。
書斎で、温泉の計画を練る。
自分で作った地図を見ながら、上手く温泉を通す方法を考える。
木の樋か竹の樋を考えていたけど、壊れやすいだろう。その辺をむき出しで、通すのは無謀過ぎる。
いっそ石を使って何か…
水道橋みたいな物?石の建造物を作ったらどうだろう。
地図を見て、温泉街予定地まで、建造物の予想図を書いてみる。最終的に、温泉街を囲む城壁の一部になるように。
なかなか良いんじゃないかな?
絵も描いてみた。あのよくある、完成予想図予想図ですので、実際と異なる場合がございます…だよ。
温泉街の予想図まで書いて、ひとりで盛り上がる。
暫くは、そんな感じで、大人しく過ごす。
勿論、必要な仕事はしてますよ。
マルノー領地で採れるカカオを使った、チョコレートが市場に出回っていたので、買ってみた。そこそこ美味しいけど、今ひとつ。
材料を買って研究した。私の舌に合う味なので、日本風かも知れない。
ガトーショコラも作ってみた。
パン屋があり、屋敷にもパン焼き窯があるくらいだから、オーブンのような魔道具もやっと手に入れた。
こういう時は、デリック導師だ。
時々訪ねて来るから、ザッハトルテや、フォンダンショコラ、チョコレートムースにチョコレートクッキーを、調子に乗って作る。
暫くして訪ねて来た、デリック導師に食べてもらう。
お菓子好きの導師が美味しいと太鼓判を押したので、侯爵家のお茶菓子が増えた。
チョコレートは、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレートを加え、レシピを出入りの商人に教えて、ラトゥール侯爵家印のチョコレートが販売されるようになった。
ちゃんと仕事してるでしょ。
温泉の方も、安定期になってから、大きな本屋に出かけ、古代魔法文明の建築や、建造物温泉について書かれた本がないか、探す。
古代魔法文明についての本は、魔術学院にも沢山あったけど、魔術関係を主に読んでいたから、建造物や、魔道具に関する本は馴染みが薄い。
今後、役に立ちそうなので、結構大人買いする。
私が大人しいので、ダリルさんは、また何かに熱中しているだろうと、お察しだ。
温泉街は、宿屋と言うか、ホテル規模のものを想定している。大きなものから、小さなものまで、十数建の構想で、働く人たちの住む場所から、商店や料理屋、飛行船発着場まで勝手に計画中だ。
かなり大規模の計画になる。
胎教にはどうなんだろうな。
私が楽しんでいるから大丈夫かな。
子供が生まれるまでは、紙の資料を作成して生まれて落ち着いたら、本格的にみんなの意見を聞き、実現可能か話し合うことになる。
侯爵夫人としては、こんなことをするのは、どうかと思うが、当主がダリルさんだしなんとかなるかな。
夏が過ぎ、アルスの誕生日を祝い、五歳になったアルスも、棒切れは卒業。
剣の稽古が始まる。
秋になり、四人目の子供が生まれる。
準備はみんな慣れたものだ。
あとは、健康に生まれるのを願うばかり。
王都屋敷は子供が増える期待に満ちている。
側室の話を受け付けないダリルさんも、子供は多い方が良いとは言いながら、私の身体を心配してくれているようだ。
その日がきて、屋敷は慌ただしくなる。
ダリルさんは、やっぱり落ち着かなくて、うろついたらしい。
四人目は、男の子だった。
ダリルさんが、名付けの本を見て悩んだ末、
カイルと名づけられた。
この世界で、無事に四人の子供に恵まれた。
本当に祝福されているのかも知れない。
産後も順調に回復したし、恒例になった父様たちの来訪と、抱っこ合戦もあり、新作のお菓子を食べてもらえた。
そういえば、弟のエリックも、貴族学校を卒業して、今のところは忙しいマルノー家の仕事を手伝っているそうだ。
ルシウスは、そろそろ結婚を考える年頃なので、父様たちも、本人に聞きながら、お相手を探し始めている。
マルノー子爵家は、まだまだ発展する余地のある家だ。跡継ぎの結婚は気軽には決められないだろうな。
貴族の家に生まれて、自由に生きてきた私でも、侯爵夫人だもんね。
シリウスたちも、あまり自由には生きられないのかも知れない。
まあ、どの世界でも、与えられた環境の中で自分らしく生きるという事は、人生の最も大きな命題だよね。
生まれたカイルは、赤ちゃん用の部屋。
シリウス、アルス、ルシアはそれぞれの部屋がある。私には自分用の書斎がある。
子供たちには、小さなうちは、世話係がいるし、侯爵家としては普通かも知れないけど結構贅沢な環境だ。
そんな贅沢を甘受しながら、私はまた、領地に行っては、温泉計画を練る。
飛翔して地図を詳しく書き直し、温泉街の予定地の広さや区画割りの予定図を書く。
ダリルさんの書類責めが終わったら、まずダリルさんに話してみた。勿論長期計画になることも分かっていると言った。
「ははあ、大人しくしてるから、何を考えてるかと思ったら、また大きな計画だな」
「大体バレてると思ってたけど」
「まあ、悪くないんじゃないか」
「実現できると思う?」
「宿屋の経営の希望者を、募集する必要があるな」
「そうだね。温泉を知ってもらう必要もね」
「細かい計画は家臣と一緒にしよう。宿屋の数や規模を決めてから募集して…」
「経営者候補をミヤビ王国の温泉体験旅行にご招待するとか?」
「大きく出たな」
「温泉を知ってもらうのはそれしかないでしょう」
「確かに…温泉ないからな」
「ただの宿屋じゃないことを知ってもらわないと意味がないよ」
「しかし、飛行船発着場まで作るか」
「時間が掛かるのは、分かってるよ」
「ライラらしいな。面白い」
「じゃあ、実行するの?」
「温泉があるんだしな。何もしないのは勿体無いだろう」
「やったあ。海の見える温泉計画決まりね」
温泉の洞窟から、山の麓まで穴を掘るのは、ほぼ完成した。
山の麓の穴に繋げるように、石で塔を作る。
高さは、山の麓からなだらかに下り、温泉街の城壁に繋がるように、かなり高い建造物になる。
ここは私の出番だ。石材を浮かせて運び、組み上げていく。
領地に来るのは週に二〜三日なので、ひと月ほどで、塔を完成させた。
次は、塔から橋を作るように、温泉を通す石の水路を繋げて作る。
温泉街の城壁を目指して、少しずつ延長する
なかなか楽しい。何か作るのは成果が見えるから、やり甲斐がある。
子育てしながら、仕事もするし、冒険者もするよ。充実した毎日だ。
やっぱり私は欲張りなのかもね。
温泉計画には、私財を注ぎ込む。完成しても利益が上がるまでには時間が掛かるだろう。
最初はラトゥール家に直接負担をかけたくない。
そのあたりは、法律が細かくないし、領地のことは、領地の収益に対する国への税率くらいしか決まりはない。
建築物も、あからさまな戦争用とかでなければ、申請も簡単だ。
街の設計は、専門家も交えて、東の海に向けて、オーシャンビューになるように、なだらかに下る街を考えてもらう。
南側の城壁に温泉水路を組み込み、それに沿うように、温泉ホテルを建設する。
ホテルの屋上に、石造りの貯水槽を設けて、屋上の残りは露天風呂。
各階層にお湯を通しながら、一階部分にも露天風呂を作る。
排水される温泉の水路も予め計画的に作る。
みんなで考えるうちに、水路の橋は完成して城壁を作り始めた。
じゃあ、一軒作って、ラトゥール家直営にして、それをお披露目したらということになる
西側の、街の入り口になる城壁も建設を始めて、私は大喜びで、手伝う。
遊びじゃないよ。楽しいけど。
直営温泉なら、気合いも入る。建物は石造りで、この世界で言うなら、高級な宿屋。部屋はベッド二つを基本に、上の階層程広くて高級に。最上階は露天風呂付き貴賓室。
普通の宿屋と違うのは、各部屋のお風呂が広くて、いつでも入れる源泉掛け流し温泉。勿論シャワーもある。
窓から海が見えるし、バルコニーがあり、そこにも石造りの浴槽。
満室でも賄える食堂や、酒場。通い以外の従業員が寝泊まりする区画。
フロントやロビーも、高級に。
残念なのは、魔導エレベーターがないこと。
何階建てまで作れるのか、色々相談したら、理論上は何階でもだけど、エレベーターがないから、六階建てに落ち着いた。
酒場は地下。一階にはフロント、ロビー、大浴場。小さめの食堂。
二階に大きな食堂と、従業員区画。
客室は三階から。
現代のホテルの知識で、各階層にも、掃除道具置き場やリネン室を。
従業員食堂も考えた。
建物と内装ができたら、洞窟から温泉を通す
夢中で計画を進めて、つい他の仕事が溜まり大変になる。
ルシアは、棒切れを振り回す相手がいなくてつまらないらしい。
五歳になったら剣を教えてもらおうとするかも知れない。
冬が過ぎ、シリウスは八歳、アルスは五歳、ルシアは三歳になり、カイルもしっかりしてきた。
子供たちの服などを作り替えながら、こんな私が母親でも、子供たちは成長していくものだと、感慨深い。
ラトゥール家直営温泉の、建物は、順調に作られていた。作業は、私も手伝う。
石材を高い所に運び上げるのは、私がやれば早いし、向きの調節も簡単だ。
夏までに建物は完成した。内装は専門家に任せて、細かい物の準備を手配する。
温泉宿経営者向けのプレオープンに向け、家具や寝具、食堂の食器、酒場のコップに至るまで、吟味する。
侯爵家再興の時と、変わらない部分もあるので、物品の手配は難しくはない。
人を集めるのが大変なのだ。
宿屋は、大抵家族経営で、雇う人は少ない。
ホテル並みになれば、貴族家のように、雇う人が多く、それぞれの役割も違う。
そのあたりは、ダリルさんの人脈で、何とかなりそうだと言われ、ホッとする。
ラトゥール家直営だから、領地屋敷で人の訓練もできる。直営というか、別荘みたいな感じになってきた。別荘を一般開放するような感覚。
ダリルさんは、それで良いんじゃないかと言う。ラトゥール家直営だから、ラトゥール家らしいおもてなしをするのは、当たり前で、むしろ、貴族家の雰囲気を売りにすると言う、商売っ気があるのかも知れない。
歳が明けて、暖かくなる前までには、ラトゥール侯爵家直営温泉宿が、宿屋経営者向けと、親しい人たちにプレオープンすることが決定した。




