友達と海水浴
一月経った。
「あのね、来週は狩りに行けないの。
メリエル姉さんの結婚式だから」
「そっかぁ〜そろそろだって言ってたもんね、仕方ないよ」
「じゃあさ、お金も少し貯まったし」
「買い物だな。うちの工房で武器とか
多分安くしてくれるぞ」
「僕も武具。欲しいです」
4人だとデートみたいだなぁ
生暖かい目で見てしまう
リーゼはフェリクスがお気に入りみたいだし
メリッサも大人しいルートの世話をする
のが楽しそうだ。
私は少し憂鬱な週末だ
朝早くに屋敷に転移して朝食を摂り
着替えさせられる
子爵令嬢なりのドレスに
髪は結い上げられ靴は歩きにくい
アクセサリーもつけられ
例の勲章もね
ドレスに勲章とか似合わないよね
可愛らしいバッグを持たされ
アリティア姉さんとイリス姉さんと一緒に
メリエル姉さんの部屋へ行く
この世界でもやはり
花嫁は純白のドレスにヴェール
とても綺麗だ
早い昼食代わりに簡単につまめるものを食べる。
子爵家の馬車で教会へ向かう
もちろん父様を転移で連れて来ていた
この世界の結婚式は初めてだったけど
とりたてて変わったこともなく
神の前で誓いを交わす
式のあとは花婿の伯爵家で
披露パーティーになる
父様とセシリア母様は貴族の方々と
ご挨拶に忙しく
姉さんたちは普段気軽に会えない
貴族の友人とおしゃべりに
壁のシミになっていた私に
「久しぶりだなぁライラ」
「デリック導師!」
「この伯爵家のお抱え魔術師が弟子でね」
「ああ、それで」
「学校はどうだい?」
「楽しんでます」
「そうか。楽しんでいるのは良いな」
暫し歓談。豪勢な料理を頂いたり
飲み物も種類が豊富でジュースを
何種類か飲む
結局お開きになるまで壁のシミ時々
飲食で通していた。
メリエル姉さんはお嫁に行った
慣れない格好をしたせいで
翌日は屋敷でゴロゴロして
夕食を摂ってから、学校に転移した。
入学してから半年、冬のような季節
王都は王国の北に位置するので
領地と比べかなり寒い
たまに雪が降ることもある
この世界で、雪は初めてだ。
そんななか、いつもの5人で
冬にしか咲かない花の採取に
草原から続く普通の森に入っていた
薬や香水に使われる花でたくさん
とれることはあまりないらしい
獣を狩りながら花を探す。採取は
リーゼとメリッサの得意分野なので
すでに5株採れている
探知で獣を探し狩るか避けるかして
進む
ふいに探知の枠のなかに大きな反応があった
こちらに向かって来る
みんなに警戒を呼びかける
この森は危険度の低い初心者向けの
はずだと聞いていたが
みんなを後に下げリーゼとメリッサに
障壁をお願いする。獲物は
大きな虎のような獣だった
確か獣のランクではBランク
こんな森にいるのは冗談みたいなものだ
逃げることはできない
素早い獣だしこんなもの放っておいたら危険だ
土の槍で足止め
一撃で仕留めないとマズい気がする
急いで手に魔力を溜めて
弾丸のようなイメージをする
末っ子が、よく見せてくれた動画にあった
射撃、弾速は速く
銃弾の口径は30口径、7•62ミリくらいの
ライフル弾
末っ子がよく、話していたおすすめの
弾丸をイメージ
両目の間を狙い、はなつ
これで駄目だったら
咆哮をあげた獣は
ゆっくりと倒れた。良かった
障壁を出したまま近づく
動かない。念のため首の後ろの急所
にも弾丸魔法を撃ち込んだ
魔法の袋に獣を入れて
冒険者ギルドに転移した
受付のお姉さんに事情を話したら
買い取りカウンターではなく、
解体場があるらしい裏の部屋へ
連れて行かれる
上司のような人も呼ばれて
袋から獣を出した
やはりあの森にはいないはずの獣
だったようでギルドの調査が入る
そうだ
採取した花も一緒に買い取って貰う…
採取の依頼を報告受付でおこない
カードリーダーのような、不思議
魔道具に5人のカードが読み込みされ
みんなFからEランクになった
季節は少しずつ暖かい方へ向かい
私たちは順調に稼いでいた
マルノー家は、アリティア姉さんの
結婚式の準備で相変わらず忙しいが
そんななか、初めて友達を屋敷に
招くことにする
セシリア母様や姉さんたちは
友達ができたならぜひ連れて来なさい
と言ってくれていた
忙しそうだから私が遠慮していただけだ
週末1日目はいつも通り狩りに。
翌朝ギルド前で待ち合わせて、
みんなで屋敷に転移
ルートは貴族だから貴族街を知っている
他の3人は初めてだが
普段の私を知っているので
あまり緊張はしてない
門番に挨拶して庭を抜け屋敷へ
ルートは少し複雑そうな顔をしている
扉を開け執事の案内で応接室へ
セシリア母様と姉さんたちが待っていた
「初めまして。セシリア•フォン•マルノーよ。皆さんのことはライラからよく聞いていますから、ゆっくりしていってね」
「私はアリティアよライラのお友達なら
楽しい話が聞けそうね」
「私はイリスよ。冒険者の話が楽しみね」
「リーゼですアーガス商会の長女です」
「メリッサといいますレガロ商店の次女です」
「フェリクスですデレス鍛冶工房の4男です」
「僕は、ルート•フォン•トーレスですトーレス男爵家の3男です」
「セシリア母様私たちみんなで冒険者をやって色々教えてもらってます」
姉さんたちは早く話を聞きたそうにして
いるけど
まずはお茶とお菓子が出されて
リーゼたちはさっそく私の日頃の所業を
ひとしきり話したら
私の部屋へ案内する
リーゼやメリッサの部屋ほど広くないけど
調度はそれなり
ソファーや椅子やベッドにと
それぞれ腰掛けて
「ライラ、確かライラのお母さんって」
「セシリア母様じゃないよ」
ルート君ため息をつく
「姉さんたちはセシリア母様の娘だけど」
「なんか、すごく自然で」
「うん、セシリア母様が私の、アメリア母様に自然に接してるからね」
「貴族家って、もっと厳格な感じかと」
「普段のライラを知ってるから遊びに来たけど、もうちょっと大変かな?って思ってたよね」
「僕のトーレス家じゃあり得ない雰囲気だよ」
「うん。私は本当に恵まれてると思うよ」
重たい話はそこまでにして
デリック導師のお菓子好きの話題などを、
披露する。
マルノー家のお菓子が美味しいらしく、
時々用事をつくって訊ねて来るそうだ。
多分今日もお土産にくれるかも知れない。
昼食はセシリア母様が気をつかい
テーブルマナーを気にせず食べれる
けれどさりげなく豪勢な食事だった
夕方になり、やっぱり、お菓子を
たくさん持たされて学校に戻った
5月。卒業式の日
アリス先輩とロザリー先輩に
自分で稼いだお金でプレゼントを渡した。
先輩たちがいなかったらきっと
なかなか学校に馴染めなかったと思う
私は、周りの人にも恵まれている。
そして私たちも1年を終えて
長期休暇にはいる
ルートは領地にも帰らないで寄宿舎生活
訳あり貴族はだいたいそんな感じ
リーゼたち王都在住者は家に帰る
私は転移のおかげでどこにいても
同じだけど
休暇中も週末は基本的に、狩りに行く
約束をしたが、連絡方法に困った
スマホや携帯はないし、家に電話もあるわけがない
色々考えたけど、結局
私がリーゼ、メリッサ、フェリクスの
順番で転移して学校にルートを迎えに
行くことになった
誰かが都合が悪い時はやっぱり転移で
知らせていく
瞬間移動馬車と伝書鳩か
アリティア姉さんは3週間前に
お嫁に行ったので王都屋敷も寂しくなった
伯爵家の跡継ぎとの結婚だったので、
私はまた、壁のシミだったことは
言うまでもないことだ。
休暇の前半は狩りの合間に
王都で買い物をしたり
領地屋敷で開発の手伝いをしたり
飛び回っていた。言葉通り
休暇も半ば過ぎ
ふと思いついた、海水浴行けるかな?
セシリア母様とイリス姉さんに聞くと、
いつでも良いということで
父様に休みの日を聞いてみる
開発が軌道にのり家臣と呼べる人も
増えたので調節しやすくなったらしい
さて、それから伝書鳩だ
リーゼ、メリッサ、フェリクス
それぞれの家族に転移を説明して
マルノー領地屋敷に行く許可を
もらう。男子寮は入れないから
フェリクスに行ってもらった
水着はリーゼのアーガス商会が
用意してくれるそう
2泊3日マルノー海水浴旅行出発
みんなを連れて、領地屋敷に転移
ルート以外は領地の田舎がまず珍しく
「「「狩りがいっぱいできそう」」」
って、そこかい
色々と念入りに準備がされていて
あとは海まで瞬間移動馬車だ
今回は王都でちゃんとテントも用意した。
着替えたら遊ぶだけだ
ルートは泳げた。西の海沿いに領地が
あるそうで
フェリクスは父様に習ってすぐ泳ぎを
覚えた。男子の意地だね
リーゼとメリッサは浮き輪で
セシリア母様とアメリア母様と
イリス姉さんも浮き輪でのんびり
弟たちも父様に教えてもらいながら
少しずつ泳ぎらしくなってきた
私は久しぶりに泳ぐ。身体が開放される
そして人気のビーチボールで遊ぶ
大盛り上がりになる
砂でお城を作った。魔法で
ズルい?まあいいじゃないですか
弟たちは喜んでいたし
釣り竿は王都で良いのをいくつか
買ってきたから期待する
ルートは釣りも上手でメリッサに色々
アドバイスして、いい感じ
フェリクスとリーゼも相談しながら
釣りを始めた
母様たちは王都と領地の屋敷の采配
の話なんかしながら不思議に仲が良い
父様と料理人も釣り
私はイリス姉さんとおしゃべりする
「ライラ、なんかカップルが2組だね」
「うんそうそう。なんかいい感じ」
「ライラは?好きな人とかいないの?」
ジュース吹くとこだった
いやいやいや11才とか孫ですから
「別にいないけど姉さんは?」
「う〜ん友達みたいな人は何人か」
居るんだね
「でも冒険者になりそうな人がね
なかなかいないのよね〜」
夢は捨てられないと
「イリス姉さん、そのうちセシリア母様が
お見合い話いっぱい持ってくるよ〜」
「うわぁ〜確かに」
「こっそり冒険者登録しちゃうとかは?
ああ〜バレたら恐そうかぁ〜」
「その手があったかぁ〜」
この世界は封建的で女性は家のために
嫁ぐ。貴族はより高いつながりを求め
商人は商売のため、農民でも名主なら
領主の家臣や領主に妾でもと
そのなかでは冒険者は自由な方だろう
女性でも腕が良いと尊敬される
ランクが存在するので腕しだいで
稼ぎ、ただ、いつまでもできる仕事
ではないのでその後の身の振り方は
考えなければいけないが
イリス姉さんの気持ちはわかる
妾腹の私が自由にしているのに憎んだり
しない姉さん。幸せになってほしい
さて、釣りもかなりの成果なようで
昼食はバーベキューだ
王都で、領地では手に入れにくいタレや
香辛料を買ってきたので、
大盛況。肉や野菜も持ってきた
焼きそばはない。残念だ
大人たちはお酒も、デザートも豊富
食後はテントで昼寝をする者も
テントはちゃんと男女別ですもちろん
なんともおだやかな休日
みんなの笑顔が見れるなら
私に備わった魔法の力を存分に使って
馬車でも鳩でもいいなぁ。そう思えた
夕方屋敷に戻り
夕食に屋敷の食堂が寂しくないことで
うん、なかなか嬉しい
王都の屋敷はかなり貴族っぽい
貴族だけど
領地屋敷はそこまでじゃないから
リーゼたちも賑やかに話し
弟たちは、お姉ちゃんしかいないので
フェリクスやルートに冒険者の話を
せがんだりして
フェリクスやルートはお兄ちゃん扱いが
結構嬉しいようで
恒例行事にしてもいいかも
マルノー家海水浴
明日はセシリア母様は王都に先に帰る
何か約束があるらしい
父様も仕事ができてしまい
海水浴はちょっと人数が減った
翌日、セシリア母様を王都屋敷に送って
またお菓子を持たされて
領地屋敷に戻ると
フェリクスとルートが
弟たちの剣の相手をしてくれていた
またまた海に向かうが
マルノー家御一行を先に送り
リーゼたち4人は
あの私がお気に入りの魔の森へ
絶対ナイショでフルーツを採取
今日はもうお兄ちゃんたちに夢中な
弟たち
ごめんねリーゼ、メリッサ
ヤツらは食後には寝ちゃうから
私は釣りをする
魔の森じゃないから年齢制限なしだ。
魔法の袋に入るだけ釣る勢いで
2泊3日のマルノー領地旅行は
そんな感じで過ぎていった
休暇も終わり近くなると
買い物が多くなる
成長期なので服も靴も、身に着ける物が
小さくなってしまい
身体つきも少しは女の子らしくなって
そういえばそんな年頃かなと
なぜか懐かしいような気がする
週末は相変わらず狩りや採取
もちろんもう息はピッタリだ
寄宿舎に戻る日。図書館で、
調べ物をしたいので新学期開始より
5日ほど前に戻る
イリス姉さんはちょっと寂しそうだった
魔法の袋は便利だ、何でも入るし、出す時も
ゴソゴソ探らず、アレを出そうと思った物が
ちゃんと出てくる。なので手荷物はない
楽だ。
学校に転移して門番に学生証を見せて
寄宿舎へ向かうと寮監室前で
呼び止められた
個室の、階段に一番近い部屋が空いたそう
以前の寮の部屋には何も置いていない
ので鍵を交換してもらった
久しぶりに寮の階段を登って
すぐの部屋。卒業まで私のものだ
とりあえずクローゼットに服をかけ
チェストに下着などをしまう
去年もこんな感じだったなぁ
夕食までの時間は図書館で過ごす
獣や魔物の種類弱点や使ってくる攻撃
何度も読んで頭に入れる
魔道具についてももっと調べたい
夕食に行く。また3階ですはい
リーゼもメリッサもまだ寄宿舎に
戻っていない
まあたまには1人もいいか
久しぶりのサンドイッチにコーヒー
野菜のスープも買ってみた
少しは食べる量も増えたかも
図書館通いは続く
別に勤勉なわけではない
この世界のことを
みんなが当たり前に知っていることを
知りたいし
獣や魔物は突発的に遭遇する恐れが
ある。実際にあった。なので調べる
魔道具は魔法の歴史の授業でも
少し習ったが
古代には発展した魔法文化があった
らしく、遺跡から新たに見つかる
高度な魔道具があるという
魔導飛行船も実は発掘物で修理は
できるが魔術ギルドの研究でも
まだ造ることはできないらしい
とまあ、そんな感じで
本を読みふけって
新入生には試験の、在校生には進級の
日がやってきた
2年生の教室を探し各組に貼りだされた
名簿を確認して
何のことはない
去年と同じメンバーだった
2年A組担任は歴史の教師
クラス分けの基準は
選択科目の成績だという噂だ
冒険者でアルバイトをするのが普通
だし、そもそも冒険者になるために
入学したような者がほとんどだ
冒険者はパーティーを組む
同じクラスで組む場合がほとんどだから
実技の成績でクラス分けされている
らしいという噂
授業の科目は1年生の時と変わらない
内容がランクアップしたようなものだ
新しい教科書をもらい
その後は生徒会に入る希望者を募る
風紀委員も
私はパスだちょっと無理そう
授業は入学試験と入学式に教師が
駆り出されているので
今日はなし
去年のギャラリーはそういうわけか
購買で選択科目の教科書を買って、
私は図書館へ行く
今日は伝説や英雄譚でも読んでみよう
またまた週末は狩りに行く日々
草原で新入生パーティーを見かけたり
森でも学生たちに出会ったりする
私たちはランクも上がり
狩る獲物の種類が増えた
結構森の深いところまで入る
今日の目標は狼だ。狼は群れで
やってくるが、群れなら範囲攻撃ができる。
最近は精度の上がった雷撃で
動きを止めて、みんなで丁寧に狩る
薬草や食材になる植物も見分けがつく
ようになったので採取もしながら
今日もなかなかの収穫を得て
ギルドに戻る
買い取りを済ませてお金を分配
「久しぶりだな、ライラちゃん」
「ダリルさん!お久しぶりです」
そういえば最近見かけなかったな
「ああ、マルノー子爵領地にギルド支部をつくるためにまた調査に行ってた」
「領地にギルド支部ですか!楽しみです」
狩りがしやすくなるぞ。やったぁ
「もちろん13才までは魔の森禁止だぞ」
はい、わかってます
「ダリルさんは、そういう調査をする
役割の人なんですか?」
「いや、別に役割じゃない。ギルドの依頼を受けて、やってるだけだな」
「そんな依頼もあるんですね」
領地では広範囲の開発と
屋敷のある町をレナート領地との境の
山脈近くまで広げる工事が進んでいる
山脈の麓には魔の森もある
早く13才になりたい。いや、それまでに
もっと知識と腕を上げないとね
イリス姉さんの結婚話は意外なところ
からやってきた
デリック導師、ベルナール侯爵家から
3男で19才の息子をと
セシリア母様は喜んでいる
さっそくお見合いをするらしい
デリック導師が親戚になるのは私も嬉しい。
マルノー家としても侯爵家で
王宮魔導師の息子
イリス姉さんが気に入るような人なら
もう、文句無しだ。
姉さんに合う人だといいなあ
セシリア母様はまた忙しそうになった。
私は、呑気に生活しているが、
セシリア母様は、貴族としての生活を
送る、マルノー家の要だと思う。
なんだか、いつも忙しいセシリア母様
家族のために、みんな頑張っている。
私にできることは、少ないけど、
転移くらいは、家族の幸せを願う
気持ちだけは、変わらない。