電話
悟・視点です。
ひたすら走って、自分の部屋に入っても、ずっと激しい焦燥感が体全体を荒々しく覆っていた。冷たい空気の中を走ってきたはずなのに、体はうっすらと汗ばんでいる。
後悔、というものを感じられない自分が浅ましく思えた。触れた唇の感触が生々しく残って、消えない。
実はどう思っただろう。去り際、実は口元を拭うことさえせず、俺を見ていた。開かけた唇からどんな言葉が発されるのか、怖かった。聞きたくないことを聞かない為に、逃げた。きっと、遅いか早いかの違いだけで、いつか訪れるはずの日だったのだろう。実への想いは、隠し通すには大きくなり過ぎていた。
携帯電話の着信音が、静かな部屋に鳴り響く。
なんとなく誰かの声が聞きたくて、急いでズボンのポケットから携帯を取り出す。画面に表示された名前を見て、危うく携帯を落としそうになった。電話は、実からだった。
「……はい」
「あ、悟? 俺……、実だけど」
「……」
「今から、悟の家に行くから」
「え」
何で、と考えかけてすぐに、ああ、と納得した。実は、俺に謝る機会をくれようとしているのだ。実らしい考えだな、と思う。
「いいよね?」
「ああ。わかった」
じゃ、と実がいい、通話は終わった。
展開が早いですね……。
早くなり過ぎないように、頑張ります。
読んでくださり、ありがとうございます。