実の気持ち
1話目の続きになります。
語り手が悟から実にかわっているので、
ご注意ください。
何かの終わりだと思った。悟からキスされる、とか。今まであった色々なものが、一瞬で崩れていくような気がした。怖いようで、嬉しい、おかしな感覚。こんな瞬間を、俺はどこかで望んでいたのかもしれない。俺は、悟が好きだった。
狂おしいほどの想いを、必死で隠して、続いていた平穏な日々。俺たちの関係は、親友と呼んでいいものなのかわからない。友情に俺の恋心が不純物として含まれていることを、俺は知っている。しかし、悟はいつも俺の隣にいて、そのことが俺の想いにブレーキをかけていた。
本を取って立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。『貸出・返却』と書かれたカウンターに行って、本を差し出す。
「これ、借ります」
自分の声が、少しだけ震えて聞こえた。
「はい。貸出カードはありますか?」
そういえば、図書室で本を借りるのは初めてだった。入学してから半年以上経つが、あまり本を借りる機会がなかった。
「持ってないです」
「では、こちらにクラス、番号、名前を書いてください」
図書委員の冷たいほどに事務的な口調は、何故か俺の気持ちを落ち着かせた。
新しい貸出カードと一緒に差し出されたボールペンで、空欄を埋めていく。
書き終えたものを渡して、本を小脇に抱える。
「2週間後の、12月6日までに返却してください」
「はい」
なるべく足音を立てないように静かに歩いて、図書室を出る。
家に着いたら悟に電話しようかな、となんとなく考えながら、靴を履き替え、家路についた。
次回からも、語り手(視点)が交互にかわる予定です。
読んでくださり、ありがとうございます。