好きな人
・拙い文章です。
・初投稿になります。
・男子高校生同士の恋の話です。
幸せな片想い、という言葉が浮かんだ。浮かんですぐ、否定していた。幸せな筈がない。好きな人がいつも隣にいることを嬉しく思う時はある。しかし、それ以上にはならないのだと知っているのなら辛いだけだ。好きな人は昔から変わらない。親友だ。それも同性の。
実はいわゆる人気者というやつだと思う。あいつの周りには、いつも大勢の人がいる。俺は小学校に上がる年、近所に住む同い年のあいつを知った。近くに子どもは少なくて、俺たちは気もあったから、毎日のように遊んで、どんどん仲良くなっていった。そのまま中学生になっても一緒で、頭の出来も同じくらいの俺たちは、高校も同じところに進むことができた。つまり、ずっと一緒。高校を出てからはわからないが、少なくとも今まではそうだ。
俺たちの通う高校は、この辺りでもかなり古いらしい。実が、学校から帰る前に本を借りたいと言ったので、図書室で待ち合わせをすることになったが、ここも薄暗くて埃臭い。いかにも古い学校のそれだ。
パタパタ、と静かな空間に足音が響く。実が急ぎ足で近付いてくる。
「悟、ごめん。遅くなった」
「いや、大丈夫だよ」
あ、今のやり取り、デートっぽい。そんなことを思ってしまう自分に嫌気がさす。
「あ、本借りなきゃ。……ごめん、一緒に来て」
「オーケー、何の本?」
「植物の本。最近、好きでさ」
意外と言えば意外だが、実にはこういうところがあることを知らないわけではない。色々なものに興味を持って、積極的で。俺にはないものだから、時々眩しく見えてしまう。
「多分、こっちだった気がする」
確か、植物に関係する本は、図書室の一番奥にある筈だ。以前、調べ物をしたことがあった。実の前を歩いて、そこに向かう。
「あっ、発見」
本棚の一番下の段に、植物の本が並んでいる。実は、蹲み込んでそのうちの一つに手を伸ばした。
「よかったー」
そのままの姿勢で顔だけをこちらに向け、実は笑う。これが幸せな恋などではないことはわかっている筈なのに。叶う見込みのない片想いだ、これは。それでも、自分に向けられる笑顔に馬鹿な勘違いをしそうになる。実が好きだ。ずっとずっと、実だけが堪らなく好きだ。
「……っ」
少し乾いた唇の感触。他人の唾液の味。
「……ごめん」
そう呟いて、次の瞬間にはその場を離れていた。ひたすら走って、学校を出る。頭の中は真っ白だった。真っ白の中に、去り際に見えた実の顔だけがはっきりと浮かんでいた。
話はまだ続きます。
次回は実・視点で進みます。
読んでくださり、ありがとうございました。