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第十三話 ~ウェセックス城退却戦Ⅷ~

活動報告でも書きましたが、ちょこ転が書籍化することとなりました!

 カールが前線に出てアランの猛攻を防いでいたころ、帝国軍右翼戦線は一時的に落ち着きを見せようとしていた。


「アレク! 総員追撃を厳禁、隊列の再編を優先させろ!」

「はっ! 追撃は厳禁だ! 急ぎ、乱れた隊列を再編せよ!」


 カールの義兄であるゴーテ子爵と、同子爵家で代々領軍指揮官を務めている家系の出身である領軍指揮官アレクシス・ルッツの、二十代の若き主従は大過なく戦線を維持していた。

 本来ならば、領軍の規模が小さいだけあって数はそう多くはないものの、ベテランの参謀陣も居た。

 しかし、今回の小部隊に分かれての撤退劇において彼らと合流できず、不安を抱えての戦いとなったのだ。


「これでちょっとは休めるかな。アレクも中央の方が気になるのは分かるけど、今のうちに休んでおいた方が良いよ」

「あ、いや、申し訳ありません……」

「別に責めてはいないさ。僕だってカールが自ら前に出たって聞いて気になってるのは同じだしね。アレクだって、妻がギュンターの娘で本当ならカールの次世代の側近でもおかしくなかったカルラだろう? カールとカルラの仲も良好だったらしいし、そんな妻の気持ちをくんで動くのは、本業をしっかりこなす限りは美徳だと思うよ」


 緊張からようやく解放され、そうやって一息入れるように会話を繰り広げてた二人だが、前線方面から不穏な気配を感じてほぼ同時に緊張感を取り戻した。


「伝令は待たない! 戦況を直接確認する!」

「はっ! お供します!」


 そうして騎乗しすぐ近くの最前線へと飛び出した二人が見たのは、想像した通りの、しかし現実になってほしくはなかった光景である。


「敵の総攻撃か。ついさっき退いて行ったのは偽装というわけか……! アレク! 僕の直卒の精鋭も動かす! 指揮権を一時預けるから、絶対に敵は抜かせるな!」

「お任せください!」


 全体の状況の動きまではとても分からないが、単独で正面の敵が勝手な攻勢に出たというのは考えづらい。

 恐らくは敵全体の連動した動きだと予想したゴーテ子爵は、他からの援軍への期待を捨て、同時に自分たちが崩れればすべてが終わると想定する。

 だからこそ、用兵の腕のみならば自らよりも上のルッツに権限を預け、少しでも指揮のためのロスを減らそうとしたのだ。


 遅れて飛び込んできた伝令からの敵の急な動きの報告を聞き、自らの警護も兼ねる精鋭部隊と共に駆け回って敵の攻勢に対処を行う。

 急な動きに対応しきれず味方にも大きな被害が出たが、こちらも正面から殴りかかって負けじと敵に出血を強いた。


 互いに積極的に攻勢に出ることで混乱する戦場において、その出会いは偶然だった。


「おや、帝国側の大将首と見ましたが、いかに?」

「そちらは、王国側の大将首だね」


 王国側の部隊指揮官であるパーシーは、帝国側の要注意人物としてチェックしていたカールの義理の兄の家の紋章を身に着けた人物であることからゴーテ子爵を帝国右翼部隊の指揮官とあたりをつけた。

 一方のゴーテ子爵も、アランの初陣から付き従っていることと才を見込まれたことで引き立てられはしたが、まだ平民であるゆえに家の紋章のないパーシーであるが、自分と同年代でありながら周囲に見るからに精鋭な兵たちを侍らせる様子を見て敵部隊指揮官と見立てる。


「ご当主様、お下がりください」

「いや、ここは僕に任せてよ、アレク。お前は全軍の指揮に集中して」

「しかし、――」


 仕える家の当主に直接武器を使わせるなど、一部の極めて例外的存在を除けば非常識であるとともに、リスクの極めて高い事態だ。

 それに反対するルッツこそ一般的に賛同されるべき意見であり、ゴーテ子爵もそれは分かっていたが、それでもなお有無を言わせぬ口調を改めて命令を発する。


「『ルッツ』、勝利のために、お前はお前のなすべきことに集中せよ。――皇女殿下の軍師ですら殿で残ってるんだ。ここまで付き合った以上、当主だからとか、そんなことでアレコレ不合理なことをやってる場合じゃないんだよ」


 その言葉に、しばしの沈黙を経てルッツは指揮のためその場を去る。

 後には、両軍の部隊指揮官と、それを囲むそれぞれの精鋭たちが残った。


「もうよろしいですか?」

「待っていただいたのはありがたいけど、別にそこまで気遣ってくれなくても良かったんだけど?」

「いやいや。指揮官同士の一騎打ちでの決着なんて古風なもの、最近は流行りませんけど、今回は一騎打ちではなくとも、指揮官同士で直接命のやり取りをするんです。礼儀として、死にゆく相手の心残りは少なくしてあげた方が良いかと思いまして」

「悪いけど、若くして天才すぎるからこそ今回も自分で残るって言いだしたんだろう義弟に、大人たちだって彼の足元くらいにはやってやれるんだって教えてやらなきゃいけないんだ。だからもっと大人を頼れっていうためにも、君にはここで消えてもらわないと困るんだよ」


 二人の部隊指揮官が、ほぼ同時に好戦的な笑みを浮かべる。


「「いざ、尋常に!」」


 二人の若き指揮官の言葉が重なり、同時に動き始めた。





前書きや活動報告にあるように、ちょこ転が書籍化します!

これからも活動報告などで情報を出していくので、よろしくお願いいたします。

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