第五話 ~出陣前夜の女子会~
風邪ひいたとかなんとか色々ありながら勢いで書き上げたり、予定よりも文字数が膨らみまくって焦ったりがあったので、後で修正があるかも……
帝国第二皇女ソフィアは、出陣前夜のエレーナ師団司令部建物内を歩いていた。
すでになすべきことを終えて明日に備えているものが多いものの、出陣の直前だからこそ忙しく動き回る者たちの喧騒も遠くに聞こえていた。
親衛隊の装備をベースに、皇女が着ることと部隊指揮も剣をとることも予定されてないからとの点から多少華美に飾り付けられた従軍用の鎧に多少は苦闘しつつも、大きな物音を立てたりすることはなく確実に歩を進めていた。
そんなソフィアが階段を上り、今にも閉じそうになっている扉をくぐれば、月明かりに照らされた屋上で円陣を組んで座っていたのは最近見知った者たちだ。
「どうです、皆さん? これが、士官学校時代に同期の女子だけで定期的に行っていた飲み会の調理担当を卒業までずっと任されていた私の実力です!」
「ねえ、アンナ。料理の腕は置いといて、軍人としては後ろのお客様を知らずにお迎えしてしまったことの方が大問題だと思うんだけど?」
「え? いやフィーネ何言って……ソ、ソフィア殿下!? なぜここに!? まさか、隠密機動で私とビアンカさんをつけていたんですか!?」
「ご、ごきげんよう、皆さん」
廊下でいくつもの大皿からいい匂いをさせながら歩いていたアンナとビアンカの後をつけ、フィーネ、ハンナ、ナターリエの待っていた屋上までやってきたのは事実である。
ただ、まったくもって身に覚えのない謎の技術に随分とノリノリで派手に言及してくるアンナの姿に、ソフィアとしては自然と対応が固くなってしまった。
果たしてこれは、あなたたち二人が明らかに無理して大皿をいくつも運んでいて気付かなかっただけでは? とさっさと指摘して流れを切ってしまっていいものかと少し考えていると、別のところからソフィアへと声がかけられた。
「んん? ソフィア殿下ぁ! 出陣まであと一晩あるってのに鎧まで着込んでるなんて、随分と気合が入ってるんですねえ!」
「まあ、ハンナさんのおっしゃる通りかもしれませんわね。従軍するためにせっかく用意していただいたものですから、少しでも慣れておきませんと」
すでにお酒が入って軽く面倒な空気を出し始めているハンナの問いに、今度はソフィアも冷静に返す。
アンナの異様なノリの良さは不意打ちだったが、彼女の酒癖の悪さは古参の親衛隊員たちと話している中で『ここだけの話』ということで聞いたことだけはあったからだ。
ちなみに、嗜みとして乗馬くらいは出来るから長距離移動も大丈夫などと豪語していたソフィアは、今回の遠征において個人的に地獄を見ることとなるのだが、男性である某カール氏の視点からその物語が語られることはないだろう。
「ところで皆さん、変わった場所で飲むのですわね。さすがに夜は冷えますし、屋上は風も強いですわよ?」
「へぇぁ!? ま、まあ……」
酔っぱらいをかわすために適当に振った話題だったのだが、フィーネの予想外に大きな反応に、当の質問者たるソフィアの方が驚いた。
何事かとソフィアが考える間に、今度はナターリエが口を開いた。
「最初はフィーネとハンナの二人で飲むつもりだったみたいなところに偶然参加させてもらった身で言うのもなんだけど、それは気になるよね。やけに屋上にこだわっていたし」
「……ああ、まあ、そういう気分だったんですよ、ハハハ。――そんなことより、飲んで食べて楽しくやりましょう! ほら、ソフィア殿下も料理が冷める前にどうぞ」
人が変わったように豪快さすら見せるハンナを適当にあしらいつつのフィーネの返答は、何か必死さすら感じさせ、身分や立場はともかくまだ新入りのソフィアやナターリエがこれ以上立ち入って心証を悪くすることを戸惑わせる効果はあったらしい。
会場についての追及がこれ以上入ることなく、和やかに飲み会が始まっていた。
「ところで皆さん? 生まれはともかく、私の立場は同じくエレーナ様の部下。殿下というのはやめませんか? エレーナ様と同じく様付けや、なんならソフィアと呼び捨てになさってくださっても――」
「「「「それはないです」」」」
エレーナ元帥府と師団の後方業務を一手に引き受ける少女が何とも言えない顔で沈黙する以外、他の全員での息の合った反応に、ソフィアも面食らってしまった。
「あのですね? エレーナ様はともかく、ソフィア殿下みたいにまぶしいほどのお姫様オーラ出されたら、殿下ってお呼びするしかないじゃないですか! エレーナ様はともかく!」
「ハンナの言う通りですね。酔っぱらいモードなのに、良いことを言う。せめて、エレーナ様の半分くらいはお姫様としての大切なあれこれを捨ててから来てください。そんな身だしなみの隅々まで気を使うとか、上品で大人な雰囲気をわざとらしさのかけらもなく出しているとか、まだまだですね」
エレーナの親友二人の物言いに対し、残りの三人は、新参という立場や性格から、目をそらして気まずそうにするだけである。
ただ、反応を見る限りは、三人も同意見らしい。
少しでも早く溶け込むための提案はどうやら受け入れてもらえる余地は事実上ないらしいとみて、ソフィアはとりあえず会話の糸口を探そうと料理に目を向けた。
野菜を豪快にむしってドレッシングをかけただけの一応はサラダらしき物体や、彩り豊かな野菜炒め、薄切り肉に見栄えなど二の次で溶かしたチーズをかけたものと、用意されたつまみは皇女たるソフィアが普段から食べているものに比べて明らかに手間がかかっていなくとも、どれも確かにおいしいものだった。
量については自分基準ならば少なくとも十人前は行くだろうことに軽くは引いたものの、本職の軍人が四人もいればこんなものかと納得はしていた。
ただ、最後に目に入った一品を食べて、思わず言葉が漏れてしまった。
「これは、よく考えられてますのね。パンで野菜やお肉を挟んで、簡単に食事ができますもの。しかも手が汚れませんし。初めて見ますけど、士官学校で代々伝えられている秘伝のレシピだったりしますの?」
「ああ、いえ。それはビアンカさんが作ったんですよ。でも便利ですよね、書類仕事したりしながら食べられますし」
それまで気配を消しつつおとなしくしていた少女に、注目が集まる。――約一名、何が面白いのか爆笑しながら夢中になって酒瓶を傾ける者がいるが、その方が全員にとって幸せなので、割愛する。
注目が集まった方はかわいそうになるほどうろたえた後、小さな声で語り始めていた。
「そ、その。マントイフェル男爵領にズデスレンが併合されて大慌てだったころに、カール様が考案なされたんです。サンドイッチだって名付けられてました」
「僕の父を助けてくれるって判断したことや、その方法。果ては、これまでの戦績を調べて、政治や軍事において突飛な発想とそれを実行する度胸や実力を兼ね備えた天才だとは思っていたけどね。サンドイッチってのも聞けば単純だけど、最初に思い付いた発想力は理解を超えているよ。料理にまであの天才性が発揮されるっていうんなら、そろそろ本格的にあの人の頭をかち割って、中に何が詰まっているのか覗いてみたいね」
ナターリエの言葉は過激ではあるが、ソフィアにとっても同感だった。
情に流される意外と普通の人――そのはずだったのだ。
何の後ろ盾もないままに、貴族の生まれですらなく無力な母とともに宮廷内で生きていくため、最も基礎的な能力たる『人を見る目』は徹底的に鍛えられた自分が、見誤った。情を無視して、平然と、そして冷徹に自分たち母娘を切り捨てられるとは思わなかった。直接会って、言葉を交わして、良い印象も与えて、事前の準備は完ぺきだったはずなのだ。
「カール様なら当然です! 私の憧れる大天才ですからね。百倍以上の敵を前に、ヤケにならず、かといって心折れず。できることを積み上げて、目の前の戦場の勝利にこだわらず、戦争全体の行方を視野に入れて自らの戦略目標を定め、皇帝陛下すら駒として勘定し、最終的な勝利をつかみ取って見せた。こんな芸当を、十代の、しかも初陣でやってのけたんです。そりゃもう、パンに野菜や肉を挟むくらいはちょちょいのちょいですよ! ……あれ?」
熱く語っていたアンナは、周囲からの視線がやけに冷たいことに気付き戸惑っていた。
そこに声をかけたのは、ビンに半分ほど残っていた果実酒を一気に飲み干し、満足そうに一息入れたハンナだった。
「あのさー、そういうのもういいよー。そんなエレーナ様のご機嫌取り用の設定とか忘れてくれても、別にチクったりしないからさー」
「せ、設定!? 失礼な! カール様は私の目標なんです! 士官学校在学中に同い年でこんなすごい人がいるんだと、それはもう感動したんです! 卒業論文もゲリラ戦理論についてで、それが予算獲得の名目のためにゲリラ戦の研究チームを作っていた戦史研究部長の目に留まったからこそ、コネのない私が戦史研究部に入れたんですから。つまり、軍務大臣付き官房室や参謀本部作戦部に次ぐ出世コースに学歴はあってもコネのない私が入れたのは、カール様のおかげといっても過言ではないんです。しかも、まさかの十代の間に中央軍の事実上の連隊長職の経験を積めたり、この前まで中央軍師団長だった超エリートのヴィッテ子爵の教えをカール様と机を並べながら学べたり、本当にあのお方のおかげで人生すべて良いほうへと流れてるんですよ!」
そこまで語ったところで、何かに気付いたようにアンナの表情が固まった。
「あの、もしかして、カール様も……」
「君がエレーナ様に嬉々として語るわざとらしさすら感じさせる様子を見て、額面通りに受け取るってことはないんじゃないかと僕は思うけどね?」
ナターリエにとどめを刺されたアンナは、力なく崩れ落ちる。
そうしてハンナとともに一気に酒をあおる、決してマネしてはいけない危険行為に走る二人を置き去りに、ナターリエは別の方向へと話を進めていた。
「しかし、アンナがカール様のことを持ち上げるのはエレーナ様に取り入るためと誰もが思ったほどに、エレーナ様がカール様にべったりなのはみんな知ってるわけだ。だからこそ正直、ソフィア殿下の件でエレーナ様があそこまで怒ったのに、びっくりしたよ。まあ、ただの傀儡ではないんだと、ちょっと安心もしたんだけど」
ソフィアにしても、同じようなことは思っていた。
自分が当事者だからこそ聞きにくいことではあったが、あくまで外から情報を集めただけでの印象ではあったものの、カールさえ押さえれば何でも出来ると思っていたのだ。
「いや、別に驚くようなことではないですよ」
しかし、ハンナとともにこの中で一番エレーナと付き合いのある親友の見立ては違うらしい。
「元々、エレーナ様はかなり頑固というか、わがままというか、そんな人ですから。私やハンナがいくら無理だからあきらめようと言っても、軍内で出世する道を何年もあきらめなかった人ですし。カール様の言うことを一番聞くのは、それが自分の目的への最短距離だと判断しているからだと思いますよ。自分の道と違えると思ったら、笑って聞き流して自分の信じる道を行く。私やハンナはそんなことに慣れっこでしたし。――そういう意味では、『言い争った』ってのは、びっくりかもしれませんね。言ったのがハンナや私だったら、適当に意見を流されて終わりでしたでしょうし。それだけ、エレーナ様の中でカール様は重いんでしょうか」
エレーナに近しい人間のエレーナ評に、ソフィアは忘れず脳内に情報を保管していく。
この情報をもとに、さてどう動くかと考えていると、不意にフィーネにさらに声をかけられた。
「ところでソフィア殿下?」
「あら、なんですの?」
「カール様も、さっきのエレーナ様の性質は何となくでも気づいていると思うんですよ。シェムール川でのここ一番の決断や、ヴィッテ子爵の一件への介入と、色々とありましたので。それが、あえて忠言して、なのにあっさり引き下がった――みんなを納得させられる理屈ではなく何か、個人的部分だとか、感情的な部分で、ソフィア殿下とカール様の間に何かあったんですか?」
「いいえ。それがさっぱりですの……」
困ったような様子で答えるソフィアと、笑顔で黙っているフィーネ。
何とも言えない不思議な重圧を感じる雰囲気に、ビアンカは相変わらず気配を消しており、下手に手を出してヤケドは勘弁とナターリエも介入するつもりはない。
そんなナターリエが周囲に気をやれば、「もう知らない! 二日酔い上等!」などと軽く荒れ気味のアンナを見て、要職の人間だしさすがにまずいだろうと、ナターリエが苦笑いをしつつもフォローに入った。
「まあまあ。入るだけでもエリートの証と呼ばれる士官学校で、上位卒業者のみが下賜される銀時計持ちなんだ。だからこそ人事を任せられたカール様もエレーナ様の直卒連隊を任せたんだし、変に押していかずにコツコツとやっていけば大丈夫さ」
「学歴って言っても、コネがないとほぼ無意味な士官学校卒なんて……。ナターリエさんやビアンカさんみたいに、コネがなくともどうとでもなる魔法学院卒業資格の方がよっぽど珍しくてすごいですし。だって、ただでさえ希少な魔法の才能持っているのが前提で、その中のごく一握りしか行けないところですよね?」
「なに、僕は大したことないよ。まあ、ビアンカはすごいけど。確か、卒業と同時に、無給助手や有給助手をすっ飛ばして、給料に加えて研究費も出る助教に任じられたのは、後にも先にもビアンカ一人だろう? ああ、いや待て。そういえば、なんで学院じゃなくてここに居るんだ?」
「げっ……」
ビアンカは、自らが思わずこぼした声に、しまったと顔に出してしまっていた。
空気が変わって見た目だけは和やかなにらみ合いをしていたソフィアとフィーネの気がそれたことは良かったが、それ以上に触れられたくない部分だったようだ。
「ほれほれ、なんだかんだと忙しかったり話をそらされたりで今まで聞けてなかったけど、どうしたんだ? ほれ、先輩に言ってみてごらん?」
「い、いや。ほら、私なんかより、飛び級で卒業した先輩の方がすごいですって。ほら、私なんて実技がゴミでしたし」
「そんな、たまに居る程度の経歴よりも、オンリーワンの方がすごいに決まってるじゃないか。そもそも魔法の深淵だとか、世界の真理だとか、僕はそっち方面にかけらも興味がなかったからね。そう意味でも、ビアンカの方がすごいだろう?」
「あー」だの、「うー」だの、意味のないうめき声で乗り切ろうとするも、酒の入った年下の先輩を振り切れないと観念したのか、ビアンカはついにポツリと語り始めた。
「結果だけならそこそこ知れてるんでまあ良いんですけど、実は色々とあった結果として学長を半殺しにしてしまったというか、制止されてなかったら殺せていたというか――」
「待て、分かった。よく分からないけど、よく分からない方が良いってことは分かったからもう良い」
ほかの者たちにはさっぱり分からないが、魔法学院卒業生の二人には思うところがあるらしい。
随分と心配そうな様子でナターリエが声をかける。
「その、ご両親は大丈夫か? 二人とも、それぞれに研究室を持ってる学院の教授だろう?」
「あの、人生は研究のためにあるって信じてる研究バカたちは大丈夫ですよ。殺したくらいじゃ死なない人種ですし、研究室を守るための嗅覚と執念だけは一流。挙句に、嫌がらせをされても研究の害にならない部分ならそもそも気づかないくらいの鈍感さすら持ってる似た者同士ですもん。事情を話した時も、親戚のおじいちゃんの後任としてド田舎で何年か休んで来いって紹介してくれて……休んで来いって……休みって、何なんですかね……?」
そうしてまた一人ハンナのところへと行って酒瓶を受け取り、暗黒面へと落ちていくのを見て、ソフィアは内心焦っていた。
有益な話は聞けたが、いくらなんでも雰囲気が悪すぎる。
これからエレーナの下でやっていくために信頼関係を構築しないといけないというのに、一緒にいて負の感情を抱いたイメージばかりが残るのは、彼女たちの中でのソフィア自身のイメージの構築に良くない影響を与えてしまう。
これが男たち、特におじさまたち相手ならばどうとでも転がせるというのに。世の『女の子』とは、これほどに恐ろしく理解しがたい存在であったのか。
そんなソフィアの個人的感想に心の中だけで打ち震えていると、ふと閃いた。
「私、こうして同年代の女の子たちと飲むのは初めてですの。こういう時に、どんなお話をするのか、私に教えてくださいませんこと?」
分からなければ、聞けばいい。
そんな単純な答えが、今のソフィアには天啓にも思われた。
「んー、恋バナ、とか……?」
「まあ、素敵! では、皆さんの恋のお話をしましょうか」
多少は持ち直したらしいアンナの答えに、ソフィアは即座に飛びついた――よく考えもせずに。
「結婚が自由にならない僕らみたいな身分だからこそ、確かに酒のつまみくらいにはちょうど盛り上がる話ではあるけどね。問題は、基本的には男社会のはずの軍勤務なのに、僕らがよく一緒に仕事をする相手に男っ気が少なすぎることかな? 僕の右腕の騎馬魔法兵中隊の副隊長は既婚者だし、アンナに至ってはお熱を上げすぎて連隊司令部の部下たちなんて眼中になさそうだしね」
「あー……未婚か側室をとれる身分を持った身近な男の人だと、基本的にはカール様と、後はヴィッテ子爵くらい?」
「僕の父は除外しておいてくれ、ハンナ。後妻をとるつもりは一切ないらしいし、同僚を母と呼ばねばならなくなるかもしれないって生々しさは、何とも言えないものがある」
言われてみれば、確かにそうである。
ソフィアがまた話題を変えてもらわねばと考える中で、またフィーネが動き出した。
「そういえばソフィア殿下は、カール様と結婚するとかおっしゃってましたっけ? そのあたりをもう少し聞かせていただけますか?」
「いえいえ、政治的な判断の結果、そういう選択肢もあると提示しただけですの。それ以上の意味などございませんわ」
今夜一番の圧を放つ親衛隊長を前に、もはやソフィアはあきらめムードだった。
もうこうなれば、あれこれ考えるのは無意味だろう、と。
「ハンナさん?」
「なんですー?」
「お酒をいただけます? できるだけキツいものを」
「よろこんでー!」
酒瓶ごとあおるなんてことはせず、グラスに注いでハイペースに飲む中で、話はどんどんと進んでいた。
「やっぱり、変なヒモのついていない新興準貴族の跡取りでない娘ってのは、カール様のように一代で家の地位を跳ね上げた実力を持つある種の『成り上がり者』にとって、色々とやりやすいと思うんです」
「あー、うちはダメ、絶対にダメ! うちのお父さん、フィーネちゃんのお父さんみたいに成り上がった後の地盤固めに利用するために娘を差し出したなんて理由もなく、単に押し付け合いに負けて私をエレーナ様の遊び相手に差し出したんだもん。今のマントイフェル男爵家との繋がりなんて大きすぎる武器、使いこなせないどころか自滅するね、自滅。間違いない!」
「ほうほう。なら、カール様には子爵家の看板もそれなりに有用じゃないかな? 実態は男爵とあまり変わらないけど、子爵家の血筋が入るってのは男爵家にとっては名誉的にはプラスだし、僕は嫡子だから自動的にカール様の血を引く子がヴィッテ子爵家も継ぐことになるメリットは大きいと思うんだ。これなら、参謀いらずの大天才にも分かりやすい利だと思うよ? ほら、ビアンカはどうだい?」
「あの、フィーネさんの目が本当にヤバい感じに座ってるんで、冗談半分で適当につついて遊ぶのはやめてください……」
「はいはーい! 私、私も立候補します! えっと、立地は帝国中央地域よりですけど、立派な西方諸侯の男爵家の生まれですし、嫡子でもないから嫁入り出来ますし、全く問題ないです!」
どこまでが面白半分なのか、どこからが本気なのか。
よく分からないが、ソフィアの記憶はそのあたりでぱったり途切れていた。
気付けば自室のベッドで寝ていたソフィアが、二日酔いの頭を抱えながら後悔しつつ集合場所へたどり着いたとき、ハンナ以外が同じく青い顔で迎えてくれた昨夜の飲み会メンバーがかなり親しげに話しかけてきてくれたのを見て、まあ良いかと諦めた。
ちなみに、それでも『殿下』呼びを改めてくれた者は誰もいなかった。
※ご報告
前話と前々話で、投稿後に加筆部分があります。
それぞれ、前書きで告知し、ネタバレ防止のために具体的には後書きで説明しています。
各前書きと後書きで注意書きをすでに見た方は、加筆後のものを読んでいるので、この報告は関係ないです。




