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第五章第一話 ~南の地で~

 マントイフェル男爵領を開発し、俺個人の私兵団も思わぬ経緯で想定以上の水準に仕上がった。

 私兵団の初陣を見てギュンターも納得し、ビアンカちゃんたち魔法兵の負担を減らすためにアルバイター魔法兵の数を今の二倍に増やしたりしつつ、早速帝都まで私兵団を連れて報告に――行くなんてすれば、男爵家の格からして明らかに過剰な兵力を連れて帝国の中枢に近付くことに文句をつけられるのが目に見えている。

 なので、帝国中央地域ではあるが帝都から外れた適当な賊の出没している領地で現地集合し、うちの私兵団を披露することに。


「すごい……すごいぞ! こんな大軍・・を用意してくれるなんて! うぅ……!」


 仮にも将軍なんて肩書がありながら千人にも満たない兵力を『大軍』なんて言ってることに、こっちまでかわいそうすぎて泣きそうになりながら、活動開始。


 まあ、移動のために通過する領地の領主に兵の通過を認めさせたり、公式にエレーナ様の戦果を記録してもらうために、正式な辞令をもらってここにたどり着くのは大変だったけど。

 まさかの、軍務省と陸軍参謀本部の各部署間で、将軍にして皇女をたらい回すという凄まじいお役所ぶりだったのだ。

 単なる肩書程度に動じないのは良いのだが、『雑魚狩り』のために将軍クラスに辞令が出た前例がないとかであちこちに行かされたのは本当に大変だった。

 どれだけ大変だったかって、ある日突然、陸軍参謀本部の担当職員の対応が親切になって手続きがすんなり進むようにならなければ、エレーナ様が二、三人くらい軍人をぶっとばしてたに違いないくらいには大変だった。


 なお、あまりにすんなり進み過ぎたことから念のため、討伐時にはその道中も含めて斥候を多めに出してるけど、特に大きな危険は今まで見つからなかった。


 そうして、エレーナ様やその親衛隊と合流し、帝国全土を賊狩りのために駆け回る生活を送り、八か月が過ぎようとしていた。


「先に討伐したのと、別の賊が出たと?」

「はい。そこで、どうかエレーナ様におかれましては、どうかご助力をいただきたく……」


 ここは、帝国南端にある南洋連合との国境地帯、ランドルク男爵の居城。

 夕食を終えてくつろいでいたエレーナ様のところに、小太りの中年男性である男爵から話があるとエレーナ様が突然呼ばれ、エレーナ様に当然のように引っ張ってこられた俺も同席している。

 そして、ランドルク男爵の執務室で彼にエレーナ様がひざまずかれているのが現状だ。


 そもそもどうしてこんな辺境に居るかと言えば、百人程度の賊退治の辞令があったからである。

 本当ならば皇帝陛下の直轄領でもなければ各領主の仕事なのだが、複数の領地に渡って活動している賊についてはそう簡単ではないらしい。

 隣同士故に因縁があったり、特に財力の低い諸侯同士だと討伐費用の負担割合が死活問題になるので賊の被害がどっちに寄ってるだのと話がまとまらなかったり。

 そんなところに赤字確実な低額の謝礼で中央軍が討伐に出て、皇帝の存在感を地方にも出しているのだとか。俺たちが受けるのは、主にそんな仕事だ。

 とは言え、金があるなら自力でやるなり、ご近所に謝礼を出して討伐すればいいのであり、それができない貧乏な辺境巡りである。略奪なんて不安定な方法で食ってる連中が高い戦闘力を維持できるわけもなく、倒しても大した軍功にならないので中央軍では左遷に等しいそうだ。

 だからこそ、中央を牛耳る三大派閥ににらまれているエレーナ様が見逃されているとも言えるのだが。


「ふむ。そもそも私たちは賊退治に来たわけだし、別に――」

「閣下。失礼ながら、その賊についての情報をいただきたい。我らとしても、自らの手にえぬことを引き受けるわけには参りませんので」


 賊を討って軍功を稼ぐのが仕事なのだから、確かにエレーナ様がしようとしていたようにすぐに受けても悪いとは言わない。

 ただ、どうしてランドルク男爵は不自然に大量の汗をかいているのかだけが引っかかったのだ。


 いきなり口を挟んだ俺を不快そうに睨んだが、それでもこの場で一番目上のエレーナ様にも促され、出るわ出るわ面倒な話が。


 流石さすがに即答できない状況に、一度引き上げ、城内に居る部隊のメンバーを集めて作戦会議となった。


「少なくとも千人からなる大盗賊団ですか……」


 聞いた話を伝えれば、まずはフィーネが悩ましに口を開く。


 エレーナ様の客室に集まったのは、エレーナ様の後ろに控える親衛隊長のフィーネに、副親衛隊長にしてエレーナ様の秘書代わりのハンナの二人。そして、俺の後ろに控える、お付きのギュンターだ。

 千人からなる大兵力を城内に入れるのは迷惑なので場外で野営し、かと言って皇女まで外に置けないし、一応は貴族の俺も外に置いとくのは良くはない。なんで、その二人に加え、エレーナ様の護衛二人に、俺の側近がお世話になろうってことになった。


 なお、外の部隊は、親衛隊は指揮権の継承順通りに責任者を決めたらしいし、うちの私兵団は平民とは言え魔法が使えることからうちの私兵団で俺とギュンターに次いで社会的地位の高いビアンカちゃんを代表に、兵士たちのまとめ役のホルガ―を付けた。

 女のそのの人間関係は男には理解不能だし、ビアンカちゃんは俺が『親分』って呼ばれるようになったころから『姐御あねご』とか呼ばれてるし、大丈夫だろう。


「男爵自ら出陣してここの領軍五百人も動かすそうだ。私としては、所詮賊だし、どうとでもなると思うのだがなぁ……」

「いやいや、いくらなんでも危険です! 話によると、数日すれば南方管轄の公爵様の軍勢が動くんですよね? そっちに任せましょうよ。そもそも、ここは西方諸侯の宿敵の三大派閥の一角の公爵様の勢力圏ですよ? 西方とか中立派閥ならともかく、三大派閥の勢力圏で危ないことはやめた方が良いですって」


 エレーナ様の言葉に対してのハンナの慎重論だが、もちろん一つの選択肢だ。

 だが、今回はそれを差し引いても受ける価値がないとは言えないのだ。


「でも、ハンナ。今回の依頼は、援軍が来るまで略奪を止めるために牽制するだけでしょ? 千五百の兵力相手に金になるでもないのに賊が向かってくるってのも考えにくいし、派手に斥候を飛ばしながら慎重に動けば危なくないでしょ。何より、雑魚を狩ってるより、よっぽどマシな軍功だし」


 このフィーネの意見が、難しいところだ。

 略奪に頼って維持できる人数なんて大したことなく、装備も貧相。まともな軍功になる規模の連中は、どこかのお抱えか、略奪よりもよっぽどまともな収入源を持ってるか。

 で、そんな略奪しない連中は、決して賊と呼ばれることはない。賊っぽいことをしてないのだから、当然だ。


 正直、賊なんてしないといけない程度の小粒な連中を潰して回るより、千人以上の戦闘集団を維持している連中相手の先陣として動く方がよっぽど評価は高くなる。

 むしろ、そんな大規模な連中がどうして賊をしてるかが問題だが、本命は、国境向こうの南洋連合からの嫌がらせ。最悪は、俺たちのための罠。


 正直、倒すどころか接敵しなくてもいいんだから、やれないことはないと思う。

 むしろ、転戦する中で私兵団の練度は上がっているし、ここで数の優位がない戦いも一度経験するために一当てするのも、俺の経験値的にも悪くはないのではないかと思う。

 国境の領軍ならきっと練度もそれなりにあるだろうし、皇女なエレーナ様が少なくとも形式上は指揮官になるだろうし、俺にとってもエレーナ様にとっても、チャンスと言えばチャンスなのだ。


「ギュンターはどう思う?」

「あ、えっと、カール様。その、確かに、戦わずしてこれまでで一番の功績にはなりうる状況とは思いますが……」


 ただし、エレーナ様たちには言えないけど、数年してキリの良いところで俺を領地に連れ帰って領主教育をし、エレーナ様たちとの縁を切るまで行かずとも薄くするのが仕事の身としては、危険なことはさせたくない。

 でも、それはそれとして、主導権を持った状態で戦闘経験を積むのは、下っ端のド田舎男爵にとっては貴重な経験でもある。


 その辺で迷っているのだろうか。


 三人の少女たちの視線が、自然と俺に集まる。


 正直、断れるものなら、受けるかどうかですごく迷ったと思う。

 ただ、今回はなぁ……。


「動ける戦力を持ちながら、要請を受けて何も動かなかった方が、後々面倒なことになる確率が高くなると思います。なら、斥候をとにかく飛ばしながら慎重に動くのが一番安全かと。あまりにも敵が多かったりするならば逃げ回っているだけでも敵の注意を引いて略奪を止めたとして最低限の仕事をしたことになります。少なかったりほぼ同数なら、逃げ回っては問題になるかもしれませんが、罠もなく正面から向き合えば負けはしないでしょう。時間は味方です。敵の奇策を封じれば、援軍が来るまでこれ以上被害を出させないって仕事はできます」


 結局、このまま受けるってことで話がまとまり、城外の連中にも知らせて準備をさせる。


 本当の最悪は、ついて来た領軍が裏切って……だけど、まあ、騎馬戦力ばかりのエレーナ様たちじゃ逃がす危険が大きいし、確率は低いかな?

 まあ、知恵を貸してほしいからとか何とか言って、念のために男爵自身の身柄を依頼の間こっちで押さえておけば良いだろう。

 皇女にわれたってのと、主戦力がこっちってのと、向こうが頼んできたってのを利用すれば、向こうが断れないようにはできるだろうし。





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