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第五話 ~変化~

 オーランジェ公国に、オルキアと呼ばれる地がある。

 現在生じている長男派と次男派の継承戦争における最前線地域へと2日程度で軍を送れる程度の位置にあり、また、帝国軍が支援する長男派の総司令部が置かれている拠点ビルシュからも1日程度の位置にある。

 普段は、平原と森と獣しかないなどと言われるこの地であるが、現在は、堀と土壁に囲われ、武装した兵たちや作業に従事する軍属たちが出入りし、約三万の軍勢を支える補給物資の集積拠点兼簡易砦として賑わいを見せていた。


 そんな状況から関係者に自然と『オルキア砦』などと呼ばれている地の、その賑わいの中央に、一軒の平屋の建物があった。

 周囲に存在する建物より二回りほど大きく、某転生者が初めて見た際に「豆腐ハウス……」と無意識につぶやいたその建物の中では、この物資集積拠点の最高責任者であるビアンカが書類と格闘していた。


 そんなビアンカへと来客が告げられたのは、山のように積まれた書類の山を少しでも早く崩そうと奮闘しているなかで、一息入れるためにペンを置いた時であった。


「お疲れ様です、デルディ将軍。いや、今はレッチェ将軍でしたか」

「おじさま。公務中とはいえ、そんなに肩ひじ張らなくてもいいですよ。どうせここには私たちしかいないですし、ちょうど休憩しようと思っていたところですから」


 ビアンカは、客人のヴィッテ子爵に笑みを浮かべながら、近くの応接スペースに移動する。

 そのまま慣れた手つきで水差しに入っていたお茶を二人分注ぐと、向かい合ってソファに腰かける。


 ヴィッテ子爵の娘であるナターリエは、ビアンカの帝都魔法学院時代の先輩であり、同じ生徒会にも所属していた縁でヴィッテ子爵の帝都屋敷にビアンカが招かれる機会も少なくなかった。

 その際に顔を合わせることもあった二人は、特にお互いに緊張することもなく、和やかな雰囲気でお茶を口にする。


 先に口を開いたのは、ビアンカだった。


「おじさまは、またすぐにたれるのですか?」

「ああ。前線は開戦当初からほぼ動いていないが、かなり激しく陣地の取り合いが続いているからな。一つ取れば、一つ取られの繰り返しだ。あまりゆっくりしていると、押し負ける。前線に出ている部隊としては、私の連隊と、ギュンター殿の率いるカール殿の連隊以外は大きな期待はできない状況。補給がすめばすぐに出る予定だ」

「やはり、王国軍が出ると公国軍は役に立ちませんか?」

「……友軍についてあまり悪くは言いたくないが、正直に言うと、そうだな。公国軍同士の戦いを見る限りは、正面切って戦うには最低限必要な訓練等は出来ている部隊が多い気はするが、気持ちが折れてしまうとどうしても、な」

「そうなると、やはりこちらの負担は多くなりますね」

「まあ、王国側も、帝国兵を見れば無理押しはせずに去ってゆく。双方、現段階で本格衝突をして、損害を出すことは避けているからな。動き回るのは大変だが、まともな戦闘がないのは助かる」


 そうして苦笑いを浮かべるヴィッテ子爵に、ビアンカも苦笑いで返した。

 ビアンカは、軍同士の戦いのことは分からないが、急遽きゅうきょ、補給計画の練り直しをすることになり、カールと共にグラスレ―卿その他の公国軍長男派の幹部と詰めていた際に、唖然としたり、苦労したりすることも多かった。

 そのような仕事の雑さを思えば、領域は違えど、ヴィッテ子爵の気持ちや苦労も、少しは分かるような気がしていた。


 その後、細かい実務的な事項について情報共有のために色々と話をしていた二人だが、ちょうど一杯目のお茶を飲み干したところで、ヴィッテ子爵が立ち上がった。


「さて、小休止にしてはすっかり長居してしまった。そろそろ失礼しよう」

「そうですか。おじさま、ご武運を」

「武運か。そのようなものに恵まれるということは、王国側もやる気を出してきたということになるから、複雑な気持ちだな」

「あ、すいません……」

「いや、気にするな。それより、これだけ堂々と物資集積拠点を構えているんだ。補給計画の見直しの開始から、この簡易の砦を完成させるまで五日足らずという魔法兵たちの働きは常識外れで驚いたが、いくら守りを固めても落ちるときは落ちるからな。特に、王国軍はウェセックス伯自身は前線に出てきていない」

「もちろん、警戒は怠りませんよ。マントイフェル領での土木建築工事の日々で編み出したアレコレで形にはして、見た目は堅城のように仕上げましたが、肝心の守備兵はあまり多く置く余裕がないですから。カール様にも、本格的に攻められたらすぐ落ちるから、すぐに助けてくれとは言っています」


 そんなやり取りを経て、ヴィッテ子爵の連隊は、出立していった。





 ――ヴィッテ連隊、ウェセックス伯自ら率いると思われる軍勢と遭遇し戦闘を開始す。敵兵数は歩兵を中心としたおよそ三千弱とみられ、兵力は同等。至急来援を乞う。


 その連絡が、オルキア砦のビアンカの下へと届いたのは、その四日後。

 長男派の総司令部があるビルシュの街へと届いたのは、さらにその半日後のことだった。





お久しぶりなうえに少し短いですが、

切りがいいので今回はここまでで。


投稿ペースが安定せず申し訳ないですが、続けて短くもあったし、遅くともGWには続きを出したいところ……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄く面白かったです。 この作品を見つけて読んだら怒涛の展開と濃密に作りこまれた世界観に引き込まれてスクロールが止まらず、一気に全部読み切ってしまいました。なろう小説を恐らく2000以上は読…
[一言] えっ、GW中はビアンカちゃんの気持ちになって毎日更新するって? 永遠に殺し合えば平和になるって心境なら戦争も書きやすいよね、うんうん
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