第二十話 ~今の勝利と、次代の勝利と~
幻のビアンカちゃんヒロインルートイベントなど、書下ろし要素満載で好評の本作書籍版
その第2巻『剣と弓とちょこっと魔法の転生戦記2 ~凡人貴族、好敵手との邂逅~』
は、令和元年6月25日より好評発売中!
1巻共々、よろしくお願いします!
「で? 何か言うことはないのか?」
「いやー、『表向きは』無用な深追いをして部隊が壊滅する寸前まで追い込まれた無能な新伯爵を、本当にお咎めなしにできるなんて、流石です父上!」
王都中心部にある、ウェセックス伯爵家の王都屋敷。
断絶前のウェセックス伯爵家が使っており、アランが当主になるまで無人であったその屋敷のテラスでは、のん気にお茶をすすりながら微笑む息子と、そんな息子相手に疲れ果てた表情を隠そうともしない父親が、昼下がりの時間を過ごしていた。
「世辞はいい。こうなることは、分かっていたのだろう? 今はなき王国の名将たちが、それに国王陛下が、あのエレーナ皇女の軍勢を前に大敗を喫してきたのだ。損害が多かろうと何だろうと、あの皇女の軍勢を主戦場から引き離すとの戦略目標を達成したお前に、責任を問うわけにはいかないのだから」
ジトっとした視線を向ける父親に、息子は意に介した様子もない。
帝国相手に国が傾くほどの大敗続きだった王国では、国王による親征すら大失敗に終わり、王の権威の崩壊による国の崩壊にもつながりかねない状況だった。
それが、防衛戦争とはいえ、久々に国王率いる軍勢が大勝利を収めた。
これから国内での権威の回復のための国王の戦果の大々的な宣伝をしようとの状況で、損害がいくら大きかろうが、王国をここまで追い詰めた元凶であるエレーナ皇女相手に戦略目標を達成して見せた者に責任を負わすなどできるわけがない。
そんなことをすれば、エレーナ皇女相手に戦略的にも戦術的にも大敗を喫してからそう時間が経っていない国王のメンツまで丸つぶれになってしまう。
「まあ、本隊の方では、勝ちはしたものの追撃は思ったような戦果を挙げられなかったようですしね。宣伝をする人たちも大変ですね。帝国も負けたとはいえ、若いエレーナ皇女陣営だけじゃなく、ライツェン男爵みたいなベテランも健在だと示してきたわけですし」
「そうだな。むしろ、本隊の方にお前の言う『新兵器』とやらが出てきていれば、それこそ取り返しのつかない結果になっていたかもしれん。やはり、当主や重臣をまとめて失った家が多すぎる。ガリエテ以前まで戦力水準が戻るのに、何年かかることやら……」
「あれ? 確か父上は、『新兵器』についてはもっと懐疑的なご意見だったと記憶しているのですが?」
アランはケーキを口に運ぼうとしていた手を止め、不思議そうに父親に問いかける。
それに対してアルベマール公爵は、苦々しげな顔でカップに口をつけた後に口を開いた。
「全滅した重装騎兵隊の鎧を確認した。魔法だろうと何だろうと、少なくとも私の知りうる方法で、あの分厚い鎧を正面から粉砕するなど不可能だ。正直、今でも信じられんが、お前の言うことを信じるしかあるまい。――ああ。こんな悪夢、信じたくはないがな」
「それで、帝国側はどうです? 今回の新兵器について、何か大々的に発表しましたか?」
「お前の読み通り、何もない。本隊ではなく別動隊のみが使ってきたことと言い、どうやら、あちらの事情も複雑なようだな」
アランの報告した『新兵器』の件は最重要の機密指定をされ、ここしばらくで最も王国上層部の胃を苦しめる事項となっていた。
そうして胃を痛める当事者である父と違い、そのような責任のある地位はまだ与えられていない息子は、楽しそうに言葉を紡ぐ。
「なら、エレーナ殿下には、頑張って『新兵器』を少しでも長く隠し抜いてもらいましょう。帝国全土での全面配備を遅らせるためにも、ね。それはそれとして、こちらも情報を集めにかかるんでしょう?」
「ああ。本命は西方諸侯領での開発と見て、マイセン辺境伯領に、フーニィ。後は、実は開発元が別の可能性も考え、三大派閥方面と、技術系の話であるので帝都魔法学院も。後は一応、急速な発展で物資も人も急速に流入しており、エレーナの信頼も厚いマントイフェル領も、か。他も探りは入れるが、開発能力などから考えて、開発元として特に可能性がありそうなところとしては、この辺りを中心に当たることになろう」
それを聞き満足そうにうなずいたアランと、その後は親子の他愛ない会話を行い、父親は席を立つ。
そうして息子に見送られてテラスから屋敷内へと戻ったアルベマール公爵は、深々と頭を下げる一人のメイドに迎えられる。
通常であれば貴人がそのような使用人の行為に何らかの反応をすることなどないのだが、周囲に他の人影がないことを確認したアルベマール公爵は足を止めた。
「カレン。報告書は読ませてもらった」
「はい。本来であれば私がアラン様をお守りせねばならないところ、むしろ私が守られる――」
「構わん。あの子にとって、お前が特別であるからこそ、側に置いているのだ。あの子が、唯一、心底人間らしい感情を向けるからこそな。あの子がお前を守ったのは、その延長上のことゆえ、想定内だ。責は問わぬ」
「寛大なお言葉、感謝いたします」
頭を上げず、さらにわずかに頭を下げて礼を示すメイドに、アルベマール公爵は、さらに言葉をかける。
「そうだ、報告書は読ませてもらった。今回の戦い、あの子が手塩にかけて育て、共に泣き、笑い、戦い抜いてきた兵たちが『新兵器』を前に恐慌状態になる中、あえて混乱を大きくし、冷静に判断ができなくなる中で上から押さえつけてまで突撃をさせ、使い潰したこともな」
「はい」
「一つ加減を間違えれば、部隊が潰走するのみ。その状況で、共に戦ってきた兵たちを望むままに使い潰してみせた手腕は、年に似合わぬ優秀さ。頼もしい限りだ。――王国の大貴族たるアルベマール公爵としては、な」
頭を下げたままのカレンにも、そこからは明らかに雰囲気が変わったことを理解できた。
「あの精神性は、明らかに異常だ。お前がいるからこそ、なんとかまともに見える範囲で収まっているがな。決して『表立って報われることのない』お前の思いを利用していることは申し訳なく思う。だが、どうか、あの子のために、これからもよく仕えてくれ」
「はい、当然です。そのためにこそ、私はあの方の側に置いていただいているのですから」
「ああ。私たち夫婦にとっては、誰が何と言おうとも、あの子もかわいい我が子なのだ」
立ち去るアルベマール公爵を、カレンはただ頭を下げて見送った。
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その第2巻『剣と弓とちょこっと魔法の転生戦記2 ~凡人貴族、好敵手との邂逅~』
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大事なことなので2度(ry




