黒疫鬼討伐隊〈クリスタルズ〉
王都フロースに、四人は凱旋した。
「クリスタルズだ!」
「救国の英傑だ!」
黒疫鬼を倒し、人々を救った英傑として、讃えられる。
街路は人で埋め尽くされていた。一目、カイたちを見ようという人々だ。
カイは馬上から手を振る。途端、黄色い声が響いてくる。
「カイ殿下ー! こちらを向いてー!」
カイが金緑色の瞳でほほえむと、町娘たちの声が飛んでくる。
それはジェラルドやニコラスに対しても同じだ。
「君、かわいいね。どう、今夜は?」
「きゃー!」
ニコラスに話しかけられた娘が、頬を真っ赤にして恥じらう。
「ニコラスは相変わらずだなぁ。ジェラルドはどう?」
「どう……とおっしゃいましても、私には殿下をお守りする役目がありますから」
「堅いなぁ。ね、サーラ」
「いえ、大変頼りになります」
表情を変えないサーラに、カイは笑って、また周辺の声に応える。
向かう先には、白い王宮が見える。カヴァデイル王国の国主が住まう、美しい宮殿だ。
四人は王宮に入った。馬から下り、詰め所へ向かう。
王宮の片隅に、黒疫鬼討伐隊クリスタルズの詰め所がある。
カイ、ジェラルド、ニコラス、サーラの順に入り――サーラが扉の鍵を閉めた瞬間。
「あー……疲れたー」
全員が、伸びてしまった。
椅子にだらしなくもたれかかり、口を半開きにしている。ニコラスはともかく、真面目なジェラルドまでそんな様子だ。武器を放り出し、全身をだらりと伸ばした様は、とても救国の英傑たちには見えない。
「……日本が懐かしい」
カイがぽつりとつぶやいた。
だが全員が不審に思った様子はない。
「日本か……確かにそうですね」
「ま、今のこの髪色じゃあ、間違いなく日本人扱いはしてもらえないでしょうがね」
ニコラスが自身の赤毛をいじる。
「まさか、輪廻転生が本当にあるとはね」
「しかも異世界ですよ、異世界」
「剣と魔法のファンタジー」
四人は同時にため息をついた。
そう、四人の共通点――それは、日本人の転生者であること。前世の記憶を保持し、今世で鍛えた体と得た知識で戦う。
「そして何の因果か、水晶人」
またため息がもれた。
転生者である四人は、全員が水晶人であった。異世界に転生したときに、こちらの神様がくれたプレゼントなのかもしれない。
「黒石病にかからないで済むのはありがたいけどなぁ」
「あの病気はちょっと……考えられないくらい、痛いですからね」
四人の共通点はまだある。――前世であの黒石病に冒され、死に至ったという点である。現代日本では原因不明の病とされたが、この世界では〈黒石病〉と呼ばれていると知って、四人はそれぞれに驚いた経験を持つ。
このことは、四人だけの秘密だ。話したところで、奇人扱いされるのがオチだった。
「前世の記憶……なんて、信じてもらえないからなぁ」
「しかもこちらではあまり役立ちませんしね」
今でこそ国を救う英傑だが、前世では四人とも平凡な人生を送っていた。
「知識チートがいないのはつらいなぁ」
「知識チート?」
「持ってる前世の知識で無双する。よく小説の設定であるだろ?」
カイが言うと、ジェラルドが息をつく。
「よくあるのかは存じませんが、確かにもっと知恵のある者は欲しいですね」
「いいじゃないですか、全員脳筋ってことでも」
「それってわたしも脳筋ってことですか!?」
サーラがすかさず突っ込んだ。
「あれ? 違ったか?」
「うう……確かにわたしは献策なんてできませんけど! でも、乙女をつかまえて脳筋呼ばわりはひどいです!」
サーラが必死に訴えると、誰ともなく笑いが起こった。
その時、詰め所の扉がノックされた。
すぐさま四人は姿勢を正し、サーラが鍵を開けて応対する。
詰め所を訪ねてきたのは、国王の侍女であった。四人とは顔見知りだ。
「カイ殿下、陛下がお召しでございます。陛下のお部屋においでくださいませ」
「わかった、すぐ行く」
侍女は一礼すると、詰め所から出て行った。
「んじゃ、今日のところは解散! 各自、疲れを取ってね」
「お気遣い、痛み入ります」
「よーし、街にくり出すかな!」
ジェラルドとニコラスはそれぞれに支度を始める。
カイとサーラは、国王の部屋へと向かった。
たった四人の討伐隊――クリスタルズの日常だった。
初出:2016年丙申04月16日