表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

四人の戦士

 聖なる白の世界アルブムは、黒疫鬼(アートルム)と呼ばれるモンスターによって、苦しめられていた。

 黒疫鬼は、瘴気を吐き出すモンスターである。

 その瘴気に当てられた者は、全身の激しい痛みに襲われ、やがて筋肉が石化して死に至る。そして皮膚が、漆黒に染まるという恐ろしい病であった。

 人々は黒疫鬼の吐き出す病を、〈黒石病(こくせきびょう)〉と呼んで恐れおののいた。

 しかし黒疫鬼と黒石病に対して、人間も手をこまねいていたわけではない。彼らには神の加護というべきものがあった。〈水晶人(すいしょうびと)〉と呼ばれる、生来の体質を持った人間の出現である。彼らは黒石病を引き起こす瘴気に耐性があり、黒疫鬼と対等に戦える能力の持ち主であった。


 白銀暦五百十八年、春。

 カヴァデイル王国の西部で、黒石病が蔓延しているとの情報が入った。

 国王はただちに、水晶人で構成された黒疫鬼討伐隊〈クリスタルズ〉を派遣した。

 西部の街は、すでに人型の黒疫鬼で占拠されていた。街のあちこちで、黒疫鬼の啼く声と、人々の苦しむ声がする。

「グウオオオオオッ!」

「雷神トニトルスよ、我が血に応えたまえ!」

 カイが双剣を抜き放つ。

 金緑色の光が、空間を切り裂く。雷だ。

 雷電の直撃を受けた黒疫鬼が、〈(コア)〉ごと霧散する。

 黒疫鬼には、必ずこの核が存在する。破壊すれば、黒疫鬼は霧散し、黒石病も治る。

 〈クリスタルズ〉の戦士たちは、次々と敵を倒していく。

「出でよ、魔槍!」

 ジェラルドが左耳のイヤリングを取った。

 刹那、銀の煌めきとともに、長槍が彼の手に収まる。

「ハァッ!」

 槍が、黒疫鬼の胸元を貫く。

 刃先に、黒疫鬼の核が揺れる。核は破裂し、霧散した。

「殿下、こちらにも!」

 ニコラスが別の黒疫鬼を大剣で斬り伏せる。黒疫鬼の巨躯を蹴り倒し、核を踏み抜く。

 ざぁっと漆黒の巨躯が塵になる。

「カイ様!」

「――!」

 カイに向かって、黒疫鬼が両腕を振りかぶる。

 その腕を、サーラが跳躍して剣で斬り落とす。鮮やかに着地を決めて、再び剣を繰り出す。

「ガ……グェ……!」

 彼女の剣もまた、黒疫鬼の核を切り裂いていた。青い長髪をなびかせ、塵となった黒疫鬼には目もくれず、次の敵に向かっていく。

「わ、私たちも戦います!」

 その時、四人のうしろから声がかかった。

 街の衛兵だった。手に剣や槍を持ち、黒疫鬼に向かっていく。

「出てきてはなりません!」

 サーラが衛兵たちを制す。

 しかし遅かった。黒疫鬼の口から瘴気が放たれる。

「あ……何だ……?」

「い、痛い! 痛い、痛い!」

 瘴気を浴びた衛兵の皮膚が、黒ずむ。同時に彼らは痛みを訴え、剣や槍を取り落とす。

 サーラが顔をしかめる。

「出てくるなって言ったのに!」

「仕方がない、命令系統の混乱が生じている」

 街に入ったときには、すでに黒石病が広がり、領主にも会えない様子だった。

 街を守る衛兵たちをまとめる暇もなく、四人は戦闘に入ったのだ。

「ともかく! 親玉を探し出してケリをつけるよ!」

「御意!」

 カイに応えて、サーラが剣を天に向かって振り上げる。

「水の神アクアリアよ、我が血に応え、護りたまえ!」

 サーラの青い目が、よりいっそう深い輝きを増す。

 何もない空間から、水柱が上がる。水柱は水流となって、黒疫鬼の足を払う。街路にあふれていた群れごと、地に倒れ伏す。

 倒れた群れの隙間を縫って、その中心を目指す。

「オオオオオ……」

 ひときわ大きな体の黒疫鬼が咆吼を上げていた。その背がボコボコと泡立つと、そこから新しい黒疫鬼が生まれてくる。

 間違いない。この街に悲劇をもたらしている根源だ。

「あいつか!」

「ガアッ!」

 四人に気付いた黒疫鬼は、瘴気を吐き出す。黒い煙のようだ。

「水晶人に、瘴気は効かない!」

 瘴気の中を、走る足をゆるめず突撃する。

「ニコラス、ジェラルド、奴を足止めしろ!」

「御意!」

「サーラ、瘴気を止めろ!」

「かしこまりました!」

 ニコラスとジェラルドが前に出る。

「おおりゃあッ!」

 ニコラスが大剣を振るう。

 黒疫鬼の左脚が、膝から千切れ飛んでいた。

 バランスを崩した黒疫鬼の腕に、槍が突き立つ。ジェラルドの槍だ。

「ギアアアアアッ!」

 脚と腕を封じられた黒疫鬼は、耳障りな叫びを上げる。

「水の神アクアリアよ、青き氷をもって、貫きたまえ!」

 空間に、氷塊が浮かぶ。槍のように先端が尖ったそれは、黒疫鬼の口を貫いた。

 黒疫鬼の牙が折れ飛ぶ。悲鳴を上げることも出来ず、黒疫鬼は顔をがむしゃらに掻いた。

「一発、デカイのを行くぜ!」

 カイがニッと笑って、双剣を構える。

「雷神トニトルスよ、我が血に応え、魔を切り裂きたまえ!」

 カイの瞳が、金緑色に輝く。

 双剣に雷が宿る。

「――ハァッ!」

 一閃、黒疫鬼の体は十文字に斬り裂かれていた。

 黒疫鬼の親玉は、塵と消えた。

 やがてほかの黒疫鬼が苦しみ出す。その体が煙のように散じていく。

 街にあふれていた悪夢が、覚めていく。

「ふうー」

 カイは息をついた。

 パリパリと刀身に雷電が走っている。鞘に剣を収めると、静まった。

「みんな、ご苦労! オレたちの勝利だ!」

 カイはニッと笑った。

「殿下、黒石病も治まり始めているようです」

「よし、街の様子を見に行くか」

 四人は街中へときびすを返した。

 春の陽が昇りきった空は、やけに青かった。

初出:2016年丙申04月09日

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ