最終話:たった四人の転生者
クリスタルズの四人は、馬を走らせていた。
先頭はカイの馬。カイとノーラが乗っている。
王都郊外の平原へと向かって、馬に鞭を振るった。
そうしている内にも、ノーラの体は黒疫鬼に変化しているだろう。
「殿下、もうダメです! ここで彼女に死を――」
ニコラスが並走し、声を張り上げる。
平原の中程まで来て、ノーラに変化が現れた。
「ああああ!」
苦しみ方が、強くなっている。もう馬には乗せていられない。
四人は馬を下りた。
馬たちは尋常でない気配を悟り、逃げ出す。
「いい、かまうな!」
馬に気を取られた仲間に、カイは鋭く呼びかけた。
「ノーラ……」
「……怖いよ……怖い……」
ガクガクと震えるノーラを、カイは大地に寝かせた。
「殿下」
「カイ様」
「殿下!」
「……わかってる!」
サーラたちが呼びかける。カイは苦々しげに眉を寄せた。
「あ……ああああ!」
ノーラが叫んだ。
「カイ様!」
サーラが悲鳴を上げた。
カイは咄嗟に腰の双剣をつかむ。
ノーラの腕が、服を切り裂き、巨大化した。漆黒の皮膚がのぞく。暴れるように伸びた腕が、カイの腕をつかんだ。
「――!」
強い力で、カイの腕が引っ張られる。剣を握ったままの腕が引かれ、剣が鞘から滑り出る。そのまま銀色の切っ先が――ノーラの喉に吸い込まれる。
「ノー……ラ……」
「……う、ぐ……」
カイの剣が、ノーラの喉を切り裂いていた。
「かひゅ……っ」
小さく声のようなものを上げて、ノーラは絶命した。
巨大化した黒い腕が、ぱたりと落ちる。ノーラは黒疫鬼になりきってしまう前に、みずから命を絶った。
その事実が、クリスタルズの四人に深い悲しみをもたらした。
「ノーラ……ごめんな……」
「カイ様……」
「不甲斐ないな、クリスタルズなんて」
四人は同じ気持ちだった。
「殿下、ここにノーラを埋葬しましょう」
「わかった、ニコラス」
四人は、薄幸の少女を平原に埋葬した。
王都を騒がせた死霊術師の事件は、ここに終結した。
数日後――。
「おはようございます、殿下」
「おはよう、ニコラス、ジェラルド」
「では、今から新しい王命についてのお話をします」
「黒疫鬼か?」
「はい」
四人に休んでいる時間はない。
これからも、戦い続ける。たった四人で、英雄譚を紡いでいく。
――「異世界アルブム奇譚 ~たった四人の転生者~」了
初出:2017年丁酉12月14日




