夕闇と死の神
クリスタルズにノーラを加えた五人は、先を急いだ。
ウィオラの街は、王国北方に位置する。
到着すると、まだ肌寒かった。
クリスタルズは、それぞれ装備を調えた上に、外套を羽織っている。ノーラはもともと魔道士が纏う外套でカバーしている。寒さは軽減されていた。
「ここがウィオラか……」
どことなく活気の少ない、小さな街だった。
「まずは神殿へ。そこで情報を集めましょう」
ノーラの案内で、一行は街の中心にある神殿へと向かった。
夕闇と死の神ウェスペルの神殿には、神官がほとんどいなかった。信者を失い、滅び行く神の座所といったところだろうか。ヒビの入った神の彫像が痛々しかった。
「ここにいてくれよ……」
カイたちは祈るような気持ちで、神殿に足を踏み入れた。
「お師匠様!」
ノーラの声が神殿にこだます。
外套を纏った金髪の男が、二階の回廊へ向かう階段を上っていく。
「追うぞ!」
クリスタルズは即座に二手に分かれた。
ニコラスとジェラルド、そしてカイが階段へ向かう。
サーラは一階から、二階の回廊を走るライオネルを追う。
「水の神アクアリアよ、我が血に応えたまえ!」
サーラは水の足場を呼び出し、ライオネルが逃げようとした先に降り立つ。
「チィッ!」
ライオネルが、サーラに向かって何かを投げつける。灰色の煙――死霊だ。
「キシャァ!」
回廊は狭く、避けられない。サーラはそれを悟ると、腰の短剣を抜いてライオネルに投げつけた。
「ぐわっ!」
肩に短剣を受け、ライオネルは悶絶する。
同時に、サーラの体を死霊がすり抜けていく。
「あとは……頼みました……」
「サーラ!」
ようやく追いついたカイたちの目の前で、サーラが倒れる。
「お師匠様! もうやめましょう!? こんなこと、どうにもならない!」
ノーラがカイたちの前に出る。
「ノーラ……やはり、一緒だったか」
ライオネルは暗い表情のまま笑った。短剣を抜いた肩から血が滴っている。
その血と同じ色の瞳をした彼には、まだ何か企みがあるように見えた。
「ライオネル・シーグローヴ。アンタ、水晶人だろう?」
ニコラスが尋ねた。
「そして転生者。元日本人だろう、アンタも」
その言葉に、ライオネルが反応した。
「貴様、何を知っている!?」
「俺たちも転生者だ。転生者と水晶人の間には、相互関係がある」
「……ならば知っていよう。転生者の孤独を!」
ライオネルは悲痛な叫びを上げた。
初出:2017年丁酉04月30日




