↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/120

第十九席 破壊神様の歴史

「……さて、じゃあちょいと長くなるが、一つレンボルテオラス様を巡る歴史の講釈をさせてもらおうか」

 そう言ってエルネストは右手の人差し指を宙に躍らせる。

「この大陸は……人族はレナンジェイス大陸って呼んでるんだが、おおよそ100年ほど前まで、全土に渡って秩序と混沌の勢力に分かれた戦いが繰り広げられていたんだ」

 もちろん時々で規模の大小はあったけれど。と、言葉の末に添えて、エルネストは生徒らの顔を見回す。

 ここまではいいと言わんばかりにうなずく生徒三人。

 とは言っても、二人はそもそも元からこの世界この大陸に暮らす現地人。しかも一人はレンボルテオラス神官の異種族妻である。

 この段階で確認の必要があるのは利康一人しかいない。

 ともあれ、その反応にエルネストは首を縦に話を続ける。

「で、魔なる物の集まりとされた、その混沌の勢力の守り神にして首魁だったのが破壊神だったころのレンボルテオラス様だったってわけだ」

「いわゆる魔王、いや、その上の存在だったと?」

「まさにその通り! 歴代に魔王と呼ばれていた人物は数多くいるが、そのほとんどは種族は違えど、レンボルテオラス神の高位神官だったんだ」

 利康の見立てにエルネストは正解だと指を向けて、さらに説明の言葉を重ねるため口を動かす。

「まあ高位神官が魔王って言われるようになったのには、弾圧に対する抵抗が激化していったからだとか、教団のもともとが破壊行為に転びやすい性質を持っていたからだとか言われてるが、俺としちゃどっちかが絶対の元凶だとは言えないと思うがね」

 弾圧もあっただろうが、暗黒勢力呼ばわりされる素養もあった。

 信奉する神にかつて仕えた者たちをそう評して、エルネストは軽く肩を上下。

「で、ついに百年前にだが、とんでもない大戦が起きたんだ」

 秩序神を奉じ国教とする国。それらがいくつも破壊神の使徒たちに滅ぼされて、世はまさに破滅へ向かってただ荒廃していくのみに思われた時代。

 しかし破壊の限りを尽くす破壊神の使徒を退けて、秩序の神に守られた戦士たちは魔王の元へ。

 そして闘いの末にいざ討たれる段になって、当時の魔王は記録に記されている限り、過去の誰もが手を出さなかった禁忌に手を染めた。

「死に行く自分を生け贄に、破壊神を呼び出そうとしたんだ」

 破壊神レンボルテオラスそのものの降臨。

 その意味するところは世界の崩壊。

 仮に対立する神の信徒が、その命を捧げてもう一柱降臨願ったとしても、神々の戦いの余波はどこまで届くのか分からない。

 むしろ世界が滅びる最終戦争にまで及んでもおかしくはないのだ。

 どちらをとっても世界の滅びは確実か、極めて高いかの違いでしかなかった。

「……でもまあ、結局破壊神としてのレンボルテオラス様は降臨されなかったんだけどな」

 そこであっさりと放たれる結果の話。

 これまで秩序と混沌の戦いの流れを、前のめりに聞き入っていた利康は、その一言に思い切り肩透かしを食らう形になる。

「……儀式が上手くいかなかったんですか?」

 百年前の歴史として語られていること。加えて当時を生きていたエルフたちが何も言わないこと。

 それらから冷静に考えて結果は見えている。

 利康はそう思い頭を振ると、苦笑交じりに尋ねて話の先を求める。

「見ようによってはその通りだな。決戦の場にたどり着いた神官のひとりが、その降臨の儀式を上書きしたわけだから」

「へ?」

 そしてまたさらりと語られた内容に、利康は呆けた声を抑えきれなかった。

「そんな、命がけの儀式だったんですよね? そんなに簡単に妨害できてしまうんですか?」

 地球ではともかく、この精霊が目に見えて存在する異世界で、命を賭した祈りを他人の横やりであっさりと無かったことにしてしまうなど虚しすぎる。

 語られたのは一言だが、実際には命がけだったのかもしれない。むしろ命を賭けるほどの儀式だからこそ、わずかな乱れで無効になったのかもしれない。

 しかしそれでも、すべてを捧げた信徒の最期の祈りをないがしろにするようでいいのか。

 もたらした結果はどうあれ、利康としてはそこがすっきりとしない。

「その上書きされた儀式が、「本来の」レンボルテオラス様に降臨いただく儀式でなかったら、間違いなく破壊神として降臨されてたんだそうだ」

 そんな利康の疑問に、エルネストは繰り返しうなづきながら答える。

 エルネストもまた利康と同じ疑問を抱いたのであろう。その反応からは、言いたいことは分かると、深い理解を見てとれる。

 それに利康は黙ってうなづき、話の続きを待つ。

 対するエルネストも軽くあごを引いて礼を返して、講釈を再開する。

「その破壊神としての降臨を妨害したのも、またレンボルテオラス様の神官だった。もっともその当時、その神官の祀る神は違う名前、違う神格として扱われていたがね」

「この話をすると、違う神様なのに同じ? って首をかしげる人がいるんですけど、大丈夫ですか?」

 エルネストがそこまで語ったところで、ポリーヌは利康とフミニアに着いていけているかと確認を。

「ありがとうございます。私は大丈夫ですよ」

「僕も平気です。特に違和感はありませんから」

「へえ……」

 ポリーヌの気づかいに対しての、問題ないという二人の答え。

 それにエルネストはまばたき。感嘆の息をこぼす。

「二人とも、今の段階でどう解釈して受けとめてる?」

 そして利康とフミニアに、好奇心に輝く目を向けて問う。

「破壊神としての姿は、荒々しく災いを為す一面が強調されて独立したもの。もうひとつは、残された進歩と発達を助ける一面がそれだけで信仰されてきたもの……と、思ったんですが」

「私もそんな感じですね。風の精霊と嵐の精霊。火の精霊がもたらす明かりや暖かさと、火事のような災い。本質、根源の同じふたつが、別々に見られた結果かと」

「……すごいな、ふたりとも正確に事を見抜いてる。大概の人族は、ただ別々の神が融合したとしか見ないんだが」

 利康とフミニアの解釈に、エルネストは舌を巻いて感嘆。拍手さえしてみせる。

「しかし精霊と馴染みのあるフミニアさんはともかく、トシヤスはよくそんな風に飲み込めたものだな」

「故郷には荒御霊と和御霊……神にも荒々しい面と和やかな面といった多様な顔があるという考えがあるんですよ。さっきのフミニアさんが精霊で例えた話みたいな感じですね」

「はぁー……なるほど。そりゃスルッと受け入れられるワケだ」

 日本の宗教観に基づく考えからだと説明する利康に、エルネストは腕組み何度もうなづく。

 話は変わるが、茶道は禅宗、仏教とも深い関わりがある。

 だが利康自身は仏教徒というわけではない。むしろ古賀家は神道の家である。

 とは言え、ガチガチかと言うとそんな事はない。親戚の法事では家の誰もが抵抗無く念仏を唱和する。

 これは日本人としては特に変わったところではなく、むしろよほど頑迷な信者でもなければ逆も、キリスト教徒であっても、また然りといったところだろう。

 こうした宗教的に無節操だと誤解される、どんな神にも敬意を払って相手に合わせる、普通の日本人なのである。

 そんな普通の日本人の見識でそんなに感心されては、利康としては苦笑するしかない。

 対してエルネストは何度もうなづかせていた首を止めると、「それなら話が早いか」と前置きして歴史の講義を再開する。

「まあそんなわけで、レンボルテオラス様が自分の祀る神と分離した神だと知った神官は、分離する以前の古い儀式で降臨の儀式の流れを変えて、破壊神ではない変革神レンボルテオラス様を降臨させたワケだ」

 それ以来レンボルテオラス神信仰はやや和やかに形を変えて、表沙汰には弾圧されることも無く存続を許されている。

 何故ならば、苛烈に弾圧をすれば、またかつての破壊神レンボルテオラスに分離。せっかくの統合により生まれた平穏な時代を破壊しかねないからである。

「……とまあ、ざっくりとではあるが、これが我が神と教団を巡る歴史だ」

 そうして説明を締めくくるエルネスト。

「認められるようになった経緯は分かりました。それでもやっぱり王様貴族様方に好まれてないのは変わらないんですよね」

「まあな。だからお声を受ける聞こえし者になって、実家から逃げることになったし」

 しかしあくまで表だって弾圧されなくなり、差別が緩和されたに過ぎない信徒の状況もまた認める。

「実家から? ということは、エルネストさんって元は……」

 うなづいての言葉に添えられたエルネストの状況。

 それに利康が言及すると、ポリーヌが目を伏せて首を縦に。

「ええ。さる国の伯爵家の御子息様でした……」

「ま、言っても財政的には吹けば飛ぶような木端貴族の、しかも三男坊だけどな」

 沈んだ調子で言う妻に対して、エルネストは鼻を鳴らして自嘲する。

「それでも……元の身分を捨てるようなことになってしまったのは……」

 しかしポリーヌの顔の陰りが晴れることは無く、さらに深く沈んでしまう。

 そんな妻の浮かない顔に、エルネストは深いため息をひとつ。

「俺が構わないって言うんだからいいんだよ……おかげでこの村でお前を嫁にできたんだからな」

 エルネストはそこまで呟いたところで、慌てて顔の下半分をはたいて自身の口をふさぐ。

「え、エル様……」

 だが塞いだところでもう遅い。

 豚の耳でしっかりと呟きを捕まえた妻は口元を抑え、こみ上げるものにその瞳を潤ませている。

 そして利康は微笑ましげにそんな夫婦を眺めて、フミニアもまた輝いた目を二人に向ける。

「なんだよオイ! ただ口が滑っただけだぞッ!!」

 そんな集まる視線に対して、エルネストは歯を剥いて睨み返す。

 が、真っ赤になった顔ではただの照れ隠しであることは丸わかりで、利康らの笑みを深めるだけにしかならない。

「だぁあ! もうッ! そんな目で俺を見るなぁあッ!!」

 そして悶えわめくエルネストの怒鳴り声がフミニアの家を貫いて表にまで鳴り響いた。

今回もありがとうございました。

次回も更新予定は未定ですが、読んでいただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。