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Pro/No.2 In the Game  作者: P2-ITG傍観者
1/6

愉しい思い出は、美しいモノだからこそ、笑う。

6000文字弱です。




 光の無い部屋で、“誰か”が何かを起動させていた。

 ジジ……ジッ、ブゥン。

 音を微かに立てて、何か――立体映像記録ホログラムが起動する。この暗闇の中で、これだけが唯一の光だった。その光に照らされるのは、黒い髪。


 一度、誤って水の中にこの機械を落としてしまったせいか、ところどころが途切れて写されない事が悔やまれない。だが、完全に壊れなかったのは本当に幸いだろう、と黒髪はホログラムの起動を確認して笑った。

 そうこう考えている内に、ホログラムに映像が映し出される。ほんの少しの過去、の事だが、どこか懐かしい、と黒髪は眺めていた。

 


 * * *



 ――見てみて~! じゃっじゃーん! 例のブツをもらってきたよ~ん★


 大きな声で走り寄って来る金髪。

 高々と手に持っている“何か”を掲げて、喜びに満ち溢れた表情を浮かべる金髪を、その場に居た男女が不思議そうに首を傾げていた。女は紫黒色の髪が特徴的で、男は栗色の髪をしていた。

 金髪の発言の内容からして怪しい、とでも思ったのか、紫黒色の髪の女が腕を擦りながら、呆れている様子で金髪へ言葉を返す。


 ――例のブツって……なんだか危険な香りがするわ


 ――なぁに? まさか、卑猥なモノ見せてるんじゃないでしょうね!


 そんな紫黒色の言葉に反応したのが、彼女の隣に居た栗色の髪の男だった。栗色は紫黒色を守るように抱きしめ、金髪を威嚇しているように、噛み付いた言葉を吐く。

 それに面食らった金髪だったが、ムスッとしたかと思えば、すぐに満面の笑みへと戻った。よほど、嬉しい事なのだろう。


 ――卑猥なモノって失礼だな! そんなもんじゃないよ、プンプン!

 ――……こほん、改めて。じゃっじゃーん! お楽~し~み~箱~ぉ~だよ!


 金髪が見せてきたのは、両手に乗せられるくらいの小さなパッケージ。彩られた可愛らしい箱。

 それだけではどうにもできない物であり、この箱があるだけでは何もできない事は金髪も他の者も知っていた。

 けれど、金髪達は、その箱の使い方を知っている。知っているからこそ、金髪はそれを手に出来た事を喜んでいるのだ。


 ――なんだ。

 ――何かと思えば、今女の子たちの中で流行りの、……確か、“堕落させる箱”だったかしら?


 ――え!? 違うよ!? そんな表し方、初めて聞いたよ!

 ――“愛に落ちる箱”だよ、正しい表し方は! 堕落って、どうしてそうなったの……!


 紫黒色がなるほど、と言った面付きで、曖昧な記憶を辿ってその箱の名前を口にしたが、金髪はそんな紫黒色の言葉に驚き、可笑しそうに笑って訂正する(どちらにしても、微妙な表し方のようだが)。確かに言葉は似ているけれど、意味は違ってきそうな間違い方ね、と栗色がくすくすと紫黒色の隣で笑った。

 自分の間違い自体、どうでもいいのか、紫黒色は金髪の言葉を促す。


 ――それで? それを手にしてどうするの?


 ――え? どうするのって……するんだよ?


 紫黒色の疑問に対して、何てことなくそのままの意味だと言う金髪。そんな金髪の様子に、紫黒色も栗色も顔を見合わせ、それぞれが不思議そうな反応をしていた。

 金髪の持っている“それ”は、確かに紫黒色の友達――言わば、女友達にも好まれているが、まさか金髪がやるとは思っていなかったのだ。だが、何もかもを楽しむ金髪ならばやりかねない、とも思っている紫黒色が、確認するように確信した疑問を言葉として紡ぐ。


 ――……あなたが?


 ――ううん。キミが!


 しかし、金髪がそれを得たのだから楽しむのも金髪だろう、と思っていた紫黒色に、金髪がにこやかに笑いながら否定。“これ”で楽しむのは紫黒色だ、と金髪から言われれば、は? と首を傾げて、意味が分からない、とでも言っているかのような表情をする。

 紫黒色にそれをさせる事を反対と思っているのか、栗色が金髪に突っかかろうとした。が、それを見る事は叶わなかった。


 ――はぁあああ!? ……アンタ、何言ってん……――




 * * *



 ジジッ……ザー……。

 嫌な音を立てて、映像が乱れた。結果、中途半端な場面で映像は終わり、再びただの光が室内を照らすだけ。

 残念だ。と黒髪は思った。黒髪の持つ記憶通りだと、此処から先が面白い場面が見られるはずだったのだが、ホログラムは音を立てて途中で途切れてしまった。確か、栗色が紫黒色を庇うように金髪に怒って、金髪が箱は女性向けだから、と言ったところで、栗色もやると言いだして、結局紫黒色と栗色がやり出して、ハマる……という内容だったはず。


 しかし。まぁ、いいか。と、黒髪は肩を(すく)めて、まるで諦める様な仕草をした。まだ憶えているのだし、見れない物は仕方がない、とでも思っているのか、今度はどの場面をこのホログラムが映し出すのか、何処かワクワクしながら黒髪は眺めてジッとしていた。

 ジジ……と音を続けて、ホログラムはまだ動いている。何かしら見られる記憶はあるのだろう、と黒髪は思うが、そこまで期待していないのも事実だった。諦め半分で眺めていた黒髪の前に、再び金髪の映像が浮かび上がった。

 お? と黒髪が首を傾げると、ホログラムは正しく再生をし始める。




 * * *




 ――……そ、本当に!?


 ――えぇ。本当に。


 唐突に見えたのは、金髪が興奮した様子で、紫黒色の言った言葉に、それは真実か? と目を輝かせて尋ねている場面。紫黒色は詰め寄ってくる金髪を鬱陶しそうな顔をしながらも離れ、ただ一言、確かだ、と言っている。

 紫黒色の手には一枚の紙。それを金髪へと渡すと、金髪はフルフルと震えている手で受け取り、嬉しそうにその紙を頭上に掲げた。そんな金髪の様子を見ていた紫黒色は、くすくすと面白そうに笑う。


 ――あら、何の話をしているの? 愉しそうね?


 ――仲良しはいいことだけどさ! ほら、こんなに嬉しい事は無いよ!? 見てよ!


 紫黒色と金髪が笑い合っているところに、栗色が近づいてきた。紫黒色の側に来ると、その頭を一撫でして、金髪に質問をする栗色。相変わらずラブラブだね? と、金髪が茶化すように言うが、当たり前でしょう? と何てことの無いように栗色が返す。

 いつも通りの光景。満足が行くまで栗色に自分の頭を撫でさせる紫黒色、そんな彼らの仲の良さに半ば金髪が呆れ始めたところで、話の内容を元に戻そうと言葉を紡いだ。

 

 ――何? …………、まぁ! 本当なの!? 夢じゃないのよね!


 ――えぇ。確かに夢じゃないわ。


 ――びっくりだよね! いや、本当に……まさか、此処までとは思ってなかったよ。


 金髪に見せられた紙を見て、その驚きの余り、二度見した栗色。更には、金髪と紫黒色の顔を交互に見て、その驚愕している様を露わにしていた。

 ホログラムからでは紙の内容は見えないが、金髪達にとっては目を輝かせるほど、思わず二度見してしまうほどの驚く事が書かれているのは、間違いなかった。

 声を上げる栗色に、紫黒色は神妙に頷き、金髪はどこか遠い目をして、それでも喜んでいた。


 ――ふぅ……これから忙しくなるわね。


 ――どんな風にするか、皆で愉しみましょうよ!


 ――いや、でもさ、指定にドロドロ……ってあるんだけど★


 首を鳴らしてそう呟いた紫黒色に、栗色がワクワクしている表情で声を掛ける。しかし、金髪は紙に書かれていた一文を読み上げる。不安そうに、しかし、面白そうに笑いながら。

 わいわいがやがや、楽しそうに談笑している三人が気になったのか、「どうしたの?」「なになに?」と近づいてくる者達。彼等にも紙の内容を見せた金髪、紙を見た者は大いに驚き、それでも確かに嬉しそうに笑った。

 



 * * *



 あぁ、この場面もあったな。と黒髪は思い出していた。良いタイミング――金髪の笑みで終わった映像を見ながら、黒髪はこの映像後の事を思い返していた。指定のドロドロ感をどう生み出すか、どう表現するかで紫黒色と栗色とで(いさか)いが起き、何時振りかの喧嘩が勃発→周りが宥めるも不可→その間にも一悶着あったが、何とか仲直りをし→現在の状況まで持ってこさせる、という……雨降って何とか、な素晴らしい結果を生み出した、あの日。

 これは、あの日の前日譚(プロローグ)だったのだろうな。と、黒髪は懐かしんでいた。


 幸いにも、黒髪が久方ぶりに見たかった記録は破壊されておらず。勝手に早送りをし始めたその後、勝手に再生されたホログラムを見て、黒髪はほくそ笑んだ。

 ホログラムに映る、紫黒色と栗色、金髪と己自身の姿。黒髪自身、滅多にホログラムの映像に残されないよう、機械の死角に居る事が多い。最初に見た記録にも、ホログラムの死角に居ただけで、黒髪は確かにあの場に居たし。先ほどの映像でも、黒髪はひっそりと、だがちゃんとその場に居たのだ。

 確かにあの時は驚いたが、声を荒げるまでも無かったしな、先に知っていたし。と黒髪は一人呟いた。


 始まる。黒髪は直感していた。何度見ても面白い、場面がやって来る事を。

 ジジ……ジー……ジッ、と不可解な音を立てつつも、ホログラムは次の映像記録を映し出していた。

 それは、黒髪が望む、最高の映像にして、最後の映像でもあった。



 * * *



 ――本当にっ? 本当に、決めちゃったのっ?


 映像を見ている限りでは、いつでも賑やかで、能天気で笑みが絶えない金髪が、紫黒色と栗色を前にして、不安そうなさびしそうな顔をしている。

 そこには、初めて映像にくっきりと映し出された黒髪本人も居て、紫黒色たちをじっと見つめていた。

 そんな金髪達に対して、紫黒色と栗色は顔を見合わせて、静かに笑った。可笑しそうに、嬉しそうに。


 ――えぇ。本当よ。私達が望んだの。


 ――貴方たちには申し訳ないけれど、もう、上に伝えてあるのよね。だから、決定事項だわ。


 栗色が肯定し、紫黒色が決定事項だと付け足した。何てことの無いように言う紫黒色達に、金髪らも顔を見合わせ、こう言われてしまえば元も子もない、とでも思ったのか、未だに寂しそうにしている金髪も肩を竦めて呆れる仕草をした。

 黒髪はというと、何処か不満そうに紫黒色を睨んでいて。その視線に気付くと、紫黒色はくすくすと笑い出し、黒髪の肩をばしばしと叩いた。


 ――そんなに、睨まないでよ。私は私の楽しみの為に、私が楽しむには最適だと思ったから、決めたんじゃない。

 ――彼は、私一人にさせられない、って言うから……まぁ、私も彼が居てくれると心強いし?


 そう言った紫黒色の隣から、栗色の、やっぱり突然の惚気デレって効果抜群よね! なんて言う言葉が聞こえたが、それを紫黒色は無視し金髪は爆笑し、黒髪は更に不機嫌そうな顔つきへと変化した。

 そんな黒髪を見て、紫黒色は肩を竦めて真剣なまなざしを黒髪に向けた。けれど、どうして黒髪が不機嫌なのか、紫黒色には分かっているのか、目は面白そうに笑みを浮かべていた。


 ――何故、そんな面白い事を隠す。


 ――立候補したかったのは分かるけど、貴方が居ないと此処は大変でしょう?

 ――それに、どうして私が、私の為なのに、貴方に何かしなきゃいけないというの?


 ――……チッ。相も変わらず、自分主義な女め……。


 全ては自分の為だ、と紫黒色が言い放った言葉に対して、不機嫌そうに悪態を吐く黒髪に、紫黒色は褒め言葉だわ、と微笑みを返し。

 話がきれいに終わったのを見計らって、栗色はそんな黒髪にまるで握手をしよう、とでも言っているかのように手を差しだした。しかし、黒髪には栗色が何をしたいのかの意図が分からなかったのか、不機嫌ながらも眉を吊り上げ、不思議そうに栗色の顔とその手を交互に見やる。


 ――面白くしましょう? 私達と、貴方達とで。とっても、可笑しく、楽しく、ね♪


 ――フン。そうとなれば、こっちのセリフだろうに。お前達は……


 ――まぁまぁ! いいじゃん! 面白そうなのは確かなんだし!

 ――それに、頑張るんだから、スーパーデラックススペシャルなものにしたいじゃん?


 ――そこは、貴方達の腕の見せ所よね……期待、してるわよ。


 にこやかに微笑みを浮かべる栗色に、諦めが付いたのか黒髪はその手を掴み固く握り、挑発めいた視線を栗色に送る。が、それを金髪が割り込むような形で黒髪の肩に手を置き、空いているもう片手でガッツポーズを栗色達に向ける。それを紫黒色が手をグーにして、金髪のこぶしにコツンとぶつけ合い、確信めいた言葉を言う。

 それは、金髪達が信頼に値する存在だからだろう、金髪は紫黒色の言葉に大いに頷き、黒髪は鼻で笑って、当然だ、と言った。そうして、どこぞの青春物語の様な茶番めいた事を終わらせた後、金髪達は揃って笑いあった。


 映像記録は、此処で終わりを告げるかのように、ジジジ……と鈍い音を立てて、光と共に消えていった。



 * * *



 終わったか。と、黒髪は静かに溜め息を吐く。


 黒髪は感傷に浸っていた。理由は最後の映像。あれだけだったのだ……全員で集まって話し合っている姿が見られるのは。だからこそ、黒髪はその最後の記録を好む。懐かしい掛け合いを見られるがために。立体映像ホログラムを観終わって、黒髪は光が一切なくなった薄暗い部屋で、ふっふふ、と小さく笑みをこぼした。実に愉快だ、とでも言うように。

 確かに紫黒色達は非常に面白い提案をした為、こうして紫黒色達が己に託した期待は、大成功するだろう、と黒髪はそう感じている。その半分で、あの頃は――最後の映像記録では、そんな面白い事を考え出した紫黒色達に嫉妬していた。今だって、そうだ。

 だからこそ、黒髪は笑う。自分と、自分たちの思い出を楽しそうに思い返すことで。


 黒髪が一頻り笑っていると、黒髪の居るその部屋に一筋の光が漏れた。正確には、ただ、光がある隣の部屋の扉が開かれ、その光が暗闇の中を照らしたにすぎないのだが、黒髪はその光を辿って目の前にやって来た者を見やった。

 そこに居た者、金色の髪。光に照らされた金髪はキラキラと輝いて、黒髪を見る目は不思議そうに――ホログラムを見て納得し、にやりと笑った。


「そろそろ、確認しようと思うんだけど! 来るよね★」


「あぁ、今行く。用意だけはしとけ」


 互いに軽い言葉を投げ交わし、金髪は黒髪の言葉に満足そうに笑って、元来た方向に戻っていく。その背中は楽しそうで、嬉しそうなオーラを身に纏っているようだった。

 黒髪はホログラムを自身の服に忍ばせる。そして、金髪が確認する、と言った事に対して、面白くなりそうだ、とほくそ笑み。暗闇から離れ、黒髪は、その隣部屋に入っていった……。




 

  

はじまり、はじまり。

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