5.After Work
あれ以来黒髪の少女の噂を時折聞くようになった。仲間たちと行きつけの酒場に飲みに来ているとそんな話が出てきた。
「最近になって彼女に依頼するやつが増えてるんだってさ」
「まあ分からない訳じゃないですけど…元凶はあのタラシ上司だよなぁ」ご執心だったものなあと何かよからぬ想像をしているらしい。
彼の妄想はどうでもいいが、上司が関わってそうなのは確かだ。彼女が今フリーで通訳の仕事をしてるのは知ってるが、登録所がギルドだと仕事量が安定していない。来るときには来るし運が悪ければ食べていけない。それを知ってるからか。
まあ、彼女の才能が埋もれてしまうのはもったいないのは分かる。あの移民たちの言葉は数カ国語あった。それを難なく会話可能にした彼女は確かに才能があった。
「通訳ってたらエリート風吹かしてるからなあ。その点彼女だと話しやすいし。」全員で頷く。その辺の女子と普通~な会話してるノリ。彼女みたいな通訳はまれだ。
「まあ彼女にとっては自分の能力を生かせる環境になったんだから良いことだろう。」
「そうだな。一応上司殿は褒められるべきだろう。」
「ああ、だが何か嫌な予感がするのは気のせいじゃないか?」
ははは…その内の一人がぼそっと口にする。
「今日も我らの上司殿と冷血紳士殿の間に立たされた者が辞表出す勢いであった…」
びくっ
「ま、また犠牲者が出ましたか…」
「あの二人は相性最悪ですからな」
「でもそんな事出来るはずないでしょう?彼女に聞いたんですけど、学校に行ってなかったって言ってましたよ。ご両親が海外を回るお仕事されてた関係で技術は問題ないといえ、普通は専門学校で知識を教えられて初めて登録が出来、それから経験をつんでやっとプロになれるんですから。」
「だからこそじゃないのかな?彼女に知名度と実績を作ってもらう計画…とか」
「それは―」
「まあ上司殿に聞いた訳じゃないからわからんがね」
「そうですよ、大体話が飛躍しすぎです。単にエロ上司が可愛い子だからって足長おじさん気取りで助けてる可能性の方が高いと僕は思いますね。」
そうかも――
なんだなんだと噴出して笑った。真剣に考えてたのもバカらしく覚え、また別の世間話に花を咲かせるのだった。