4.バイトはじめました
翌日ギルドに登録を済ませた私は「すぐ行ってもらいたい仕事があるから」と渡された地図の場所へと急いで向かった。そこに到着すると移民が集まり役人に対し不満の声をあげているのが分かる。プラカードを持ち自己主張する彼ら。何人かの役人が立ち回っているが言葉が違うためまともに会話が成り立っていない様だった。
「ここは、ここに行って…そうそう。」若い役人は地図に印を付けながら相手に何とか伝わった事に一息つくが、また次の次のと質問が押しかける。正直泣きそうになる…一体いつになったら終わるのだろう…上司の姿が見えないのもまた彼を不安にさせていた。そもそも何でこの人たちはこの地区でデモなんてやってくれるんだっ!すると横から場違いな声が聞こえて来た。空気を読まない暢気な口調。振り向くといつの間にいたのか黒髪の少女が立っていた。
「あのーすみません。ギルドから来たんですけど」
「あー今話しかけないでっ。何か変なこと喋りそうだから。」
「はぁ」
「内容はともかくこれを伝えるのかー…」
さあ気を取り直そうとしたその時。
「伝えるだけなら出来ますけど」
――聞いた話をそのまま伝える。そんな仕事だったが困っていた人たちからは非常に感謝された。こんなに感謝されたのって今までなかったかもしれない。契約期間が切れる2週間目には現場も落ち着きを見せるようになっていた――
・・・
「やあ、お待たせ。」今回の依頼者である現場責任者の彼は陽気に手を振ってサインした書類を私に手渡す。依頼者からの報告書だった。それをギルドに渡して報酬を得られる仕組みで、ドキドキしながらそれを見るとギョッとして彼を見た。
「ふっ…何も言わなくていい。何、礼には及ばない。だがどうしてもというなら今度――」
「あ、監督官。こちらでしたか――会議の打ち合わせがしたいと本部長がおっしゃってます。」
「おお、そうか。それでは失礼するよ子猫ちゃん」アデューとウインクする彼を呆然と見送った。彼は最初からこんな調子でかなりの軟派な人だから気をつけろと周りが教えられた。
「私は子猫ちゃんじゃなくてリコって名前なんだけど……」と突っ込む。絶対名前覚えてなさそうだ。悪い人じゃなさそうだけど。
「いいんですよ。あの人の辞書には若い娘は皆子猫ちゃんなんです」まじで?一応上司よあんたの。
「それはそうと――お仕事お疲れ様でした。双方の伝えたいことは伝わりましたから後は結果待ちです。彼らもそれまで大人しくしているでしょう。」
「そっか、よかった」
「我々もやっと通常の仕事に戻れますよ。またこんな仕事が発生したら指名させてもらいますよ」
「本当?じゃあ、その時はまたよろしく」
ギルドで報告して報奨金を頂くと持って歩くには不都合な分は銀行に預かってもらう。その帰り道。商店通りに店を構えてる一角に美味しそうだなぁと前から目をつけていた惣菜屋があって持ってきた袋一杯にして帰り管理人さんに話してマンションの夜食メニューにして美味しく食べたのだ。