2.目覚めは苦いものでした
長かったか短かったか時間の感覚が分からない。ぼんやりとしてる頭に人の声が聞こえて来て目をうっすら開けてみるとこちらを心配そうに覗いている女性だった。その人は端正な顔立ちで現実味の薄くなる程綺麗で天使…そう私は本気に思った。金の巻き髪を日にキラキラと煌かせながら私の顔にそっと手を触れ何かの薬なのかそれを塗っている。冷たいけれど気持ちいい感覚。私はどこかで倒れたのかなぁと覚いだそうと記憶を辿っていたがそこで弾けたように覚醒し、跳ね起きた――
「うっ…!!げほっけほ…はぁ…あにこのニオイ…」
鼻につんざくくらい強烈な匂い。そのあんまりな匂いにむせて涙が出ている。ふと昔を思い出したが、家の大掃除に使ったゴ○○リ千殺という強力な殺虫剤。その威力は、あのしぶといそれが床裏や天井裏に死骸を大量に残したために私の中で最強の匂いとして覚えていたのかもしれない。それを悪意を持って改良したらこんな風になるのかもしれない。そんな自分の酷い状態を見て周囲から安堵の声が上がったりしたのを恨めしく思ったが、何人かの人たちからは大丈夫かい?痛いところはないか?と親切そうに尋ねられたりと何だか分からない状態に困惑した。
「――意識がはっきりしたみたいですからもう大丈夫の様ですね」先ほどの女性がこちらの様子を見てそれは天使の様に微笑んだのだった。
この時私の中で何かのイメージがビシィっと音を立てて壊れて言ったのはまた別の話。
さっきははっきりと分からなかったが彼女の身を包んでいるのは修道服なのだろう。私とそう年が違わないだろう彼女はこの町の教会に勤めていてシスター見習いなのだそうで薬草学を中心に勉強しているらしい。あのドギツイ匂いのするあれはきつけ薬だったそうで、何でも道端で行き倒れになっていた私を町の人が見つけ慌てて彼女を呼んだのだとか。意識が戻らないのは何より危険という判断からだったと話す。何か迷惑をかけてしまった事が分かったのでとりあえず礼を言った。
「――お世話になって有難うございました。」
「いえいえ、お気になさらずに。これもお仕事ですから。それと貴女のお名前を教えてもらっても?」
私は一瞬固まったがすぐに
「リコです。姓はサクラです。」
「失礼ですがあまりこの辺りで聞きなれないお名前ですね。随分と遠方から来られたのですね。」
話を進めていくにつれ(あ…やっぱり)と悪い予感を確信した。
石造りだけで出来た建物が通りを挟んでひしと並んでいる様子を見て普通にどこよここ??と遠くには更に土地の高いところにあるらしい中世ヨーロッパを感じさせる城。歩いてる人の外見はともかく、その話している言語をまず聞いたことがなかった――なのになぜか私の中で理解できてしまっているらしい。そして日本語で話してる筈なのに相手に通じている。こんな都合の良い設定、小説やゲームのカテゴリにある異世界トリップと疑っていたのだ。
私はこの世界を知らない。この国が異世界人に対してどんな感情を持ってるか分からないそれが怖いと思った。未知のものに対する迫害が怖かったのだ。
だから彼女にはそれらしい嘘の理由を話した。幸いこの国が領土拡大してる為、移民受け入れを行ってたせいで国籍云々と言った難しい手続きは必要なかった。能力があれば食べていけると、就職センターに案内された私はそこで仕事を探すことになったのだった。