1.トラブルの発端
(まったくもうっ――)
バサッと手にした書類を大きな机上に置きながらぼやいた。この所教師の雑用ばかりやらされているので腹が立っていた。私は高校三年生で就職なり進学なりで忙しい年なのだが、一旦進路が決まったら途端に暇人になる。エスカレーターで進学する私はそれだった。今も受験に向けて勉強する友人からは羨ましがられているが、実際私も推薦が決まったら遊べると喜んでいたが、それを話す雰囲気ではない事に以前のような楽しさは無かった。窓を閉めても届く運動部員の声を耳にし青春してるだろう彼らを想像すると自然ため息が出た。
クラス内には他にも内部進学者が居る。なのにいつも私を指名してくる理事長…気に入られてると聞こえはいいが実際にはただの雑用係だ…それなりに内進点はいいのかもしれないが。その理事長はというと現在優雅に海外旅行中だったりする。
『あ。私の旅行中、届くと思う資料と教材。全部部屋に運んどいて。』
今から思うと怒っても良かったのではないだろうか。大体仕事ではなく旅行って何だよ。そもそも理事長の旅行ってモノ自体がロクなもんじゃない。今居る理事長室の壁側に置かれてる(変な)コレクションの数々。正直なんだこれ、みたいな物もある。例えば、どっかの少数民族の古代の盾とか、不気味な猿っぽい銅像、中世の騎士みたいな全身鎧etc...。…最初にこの部屋に入ったときには流石にショックを受けた。
この学校の理事長は趣味がおかしい。旅行に行っては買い込んでくる謎の物体。この部屋に出入りする自分としては、もう趣味が本職の威厳を通り越してたりするから言ってやりたいことがあった。
『趣味を学校(職場)に持ち込むな!それについては言いたい事は多々あるが、まず生徒と客にそれを見せちゃならんだろうがっ学校の評判がっ(泣)』
親戚らしい副理事長も見かねて説教してるのを内心密かに応援してたりするのだが本人どこ吹く風なのが腹立たしい。
目の前にあった変テコな猿の像を触りながら(こんな物の何がいいのかさっぱりわからないわ)と思ったが誰も居ない部屋で一人で何やってるんだ私…とさっさと用が無くなった部屋から退散しようとするとふと奇妙な鳴き声が聞こえて来た――そしてその日、私がふっつりと姿を消した時だった。