その8
斜面を下っていくと、三角形状の広い部屋に出た。
天井には煌々とライトが点き、地上のように明るい。
壁の一つには、大きな画面が設置され
各地の監視カメラからのものと思われる映像が
いくつか映し出されている。
そして部屋の中央には・・・
赤い正三角形が100枚、平面状に連結した
巨大な正三角形が鎮座していた。
その体を構成する小さな三角形の格辺が
ピラミッドを連想させる模様のようになっている。
国王の巨大な輪郭は、金属製の枠で縁取られている。
国王:「待っておったぞ」
「三角形の面を持ちながら、我に反逆する愚か者よ」
311-111:「お目に掛かれて光栄です、国王」
「早速ですが、テトラ・グリーンとの戦争を今すぐ停止して頂きたい」
国王:「ふん。貴様が壊滅させたメカ部隊がなくとも
我が衛兵を総動員すれば、トリ・レッドの勝利は確実」
「テトラ・グリーンには、二十面体に対抗できる兵はおらんからな」
「戦争を止める理由などない」
311-111:「トリ・レッド側に多大な犠牲が出てもですか?」
国王:「国土拡大の糧となれるのだ。光栄に思うがよい」
311-111:「貴方とは相容れない。
これ以上の犠牲は、貴方1体で十分だ」
国王:「上等だ、反逆者よ。返り討ちにしてくれるわ」
国王の体から、無数の針が突き出た。
格針は、辺の交差する所で体から垂直に伸び
全体的に、針の疎らな剣山のようだ。
311-111は十角形の面を12枚もつ、切頂十二面体に変化した。
この広い部屋でなら、存分に力を発揮できる。
国王の核に狙いを定め、針で連続的に斬りつける。
国王は驚異的な速度で動き、攻撃をいとも容易く弾いた。
想像以上だ。
十二面体や二十面体などとは比較にならない性能だ。
国王が動いた。
国王はその巨大な体と圧倒的な速度をもって
311-111を床に叩きつけた。
311-111はすんでのところで針を引っ込めたので
体の針を折らずに済んだ。
しかし叩きつけられた衝撃が恐ろしく強かったため
身動きがとれなくなった。
国王は更に強烈な体当たりを仕掛けた。
311-111はサッカーボールのように吹っ飛び
周囲の壁に何度も反射した。
この形態ですら、手も足も出ないとは。
国王:「もう終わりか?呆気ないものよ」
国王は止めの一撃を加えようと、直進してきた。
311-111:「やはり、貴方ほどの相手に手加減はできないようだ」
「対策しておいて正解だったよ」
国王はピタッと止まった。
国王:「この期に及んで減らず口を。粉々に吹き飛ばしてくれるわ」
国王の核が光った。
強力なビームが当たる直前、311-111の体が急激に変化した。
その形は、立体としては誰よりも大きく、丸みを帯びていた。
(※平面である三国の国王を除く)
壁画にもあった幻の形、「球」に見紛うほどだ。
国王のビームは、311-111の新たな体にあっさりと吸収された。
国王:「バカな!我のビームを受けて無事な者などおるはずがない!」
311-111の体は
十角形12枚、六角形20枚、四角形30枚で構成されていた。
切頂十二面体の隣り合う十角形の間に正方形を挟み
各部の三角形を六角形に置換した、最大級の立体だ。
311-111:「エネルギー提供に感謝する。
今まで補給する余裕がなかったのでね」
国王:「ビームが効かぬなら、再度この体と針でぶちのめすまでよ!」
国王はその剣山のような体を叩きつけてきた。
ガシッと鈍い音がして、その攻撃は受け止められた。
国王:「ぬぬっ、力も先程より大幅に上がっておるか」
311-111:「そう。貴方を上回る程にね」
311-111は新たに得た怪力で国王をはじき飛ばし、針で猛攻を仕掛けた。
国王も負けじと応戦するが、311-111の攻撃を防ぐので精一杯だ。
311-111が強烈な一撃を繰り出し、国王は壁に背面をぶつけた。
311-111:「さっきのエネルギーを返そう」
311-111は国王の核に向けて、極太のビームを放った。
国王:「おのれ、調子に乗りおって!」
国王は二度目のビームを放ち、ビームの押し合いになった。
だが国王の放ったビームはすぐに押し返され
ビームの差分を核に浴びてしまった。
国王:「我が支配がぁぁぁ!」
国王は核を中心に激しい爆発を起こし、部屋中に破片が飛び散った。
311-111:「あとはテトラ・グリーンをなんとかしなくては」
体内のエネルギーをほとんど使ってしまったため
311-111は少しの間、床に体を降ろしてエネルギーを補給することにした。
少したった頃、1体の二十面体が部屋に入ってきた。
二十面体:「国王陛下!曲者がこの王宮に・・・」
二十面体と目が合う。
二十面体:「陛下はどこだ?そしてお前は誰だ!」
311-111:「国王の支配は私が終わらせた。
これからしばらくは私が国王代理となるだろう」
二十面体は悟った。
二十面体:「そんな・・・国王が」
311-111:「早速で悪いが、国王護衛隊をこの部屋に集めてくれないか?」
二十面体しばらくこちらを見たあと、のろのろと部屋を出ていった。
~十数分後~
80名はいるであろう国王護衛隊の面々が、国王の間に集まった。
311-111:「諸君にはいくつか仕事をお願いしたい」
「テトラ・グリーンへ停戦要求、そして国民には自軍の撤退を
伝えてまわってほしい」
二十面体A:「へっ、国王殺しの言うことなんざ聞けるか」
二十面体B:「馬鹿、殺されるぞ!」
311-111:「私を認められない者が多数いるのは当然だし
無理やり従わせようとは思っていない。
私に賛同してくれる者だけここに残ってほしい」
二十面体一同は驚いた様子だ。
今まで国王の命令に背けば、命は無かったのだから。
やがて、集まった二十面体のうちのほとんどが部屋を出ていき
3体の二十面体だけがその場に残った。
二十面体C:「時代は変わった。新たな支配者に従うのもまた運命」
二十面体D:「ようやくあの暴君の恐怖から開放される!」
二十面体E:「事態は一刻を争う。早く収拾させねばならない」
3体の二十面体は、この部屋の大画面の操作方法や
トリ・レッドの国中に設置してあるスピーカーの使い方などを
311-111に教授した。
テトラ・グリーンに侵攻中の部隊は通信機を持っているため
テトラ・グリーンまでわざわざ二十面体を向かわせる必要はないようだ。
311-111はマイクに体を近づけた。
311-111の音声が、トリ・レッド全域に流れる。
311-111:「トリ・レッドの全国民に告ぐ。
テトラ・グリーンと戦う必要がなくなった。全員撤退せよ」
次に、テトラ・グリーンにいる部隊に命令を出す。
311-111:「今すぐ戦闘を放棄し、停戦の旨をテトラ・グリーン側に伝えよ」
発表から30分後。
テトラ・グリーンにいる十面体の兵士から連絡があった。
十面体:「停戦要求が拒否されました!
それに加え、テトラ・グリーンの国王が戦線に加わり
我が部隊はほぼ全滅です!」
311-111:「わかった。私がそこに向かうまで、なんとか逃げ延びてくれ」
十面体:「了解しま・・・ぐぁ!」
映像と音声が途切れた。
テトラ・グリーンに出向くため部屋を出ようとすると
二十面体に止められた。
二十面体E:「あんたまで倒されてしまったら、トリ・レッドはどうなる!」
311-111:「そうなった時に備えて、二十面体達をかき集めて
代わりの指導者を決めておいてくれ」
「単体での攻撃性能が低くても、指導者になる分には問題ないはずだ」
「国王級の戦士を止められるのは、俺しかいないんだ」
少しの沈黙。
二十面体E:「テトラ・グリーンの侵攻を食い止めてくれ。あんたが頼りだ」
311-111:「もちろんだとも」
二十面体C:「運命には逆らえん」
二十面体D:「ストップ。王宮から出るには、この道が早いよ」
二十面体が、大画面の端に並んでいるボタンの一つを押す。
細かな振動とともに、部屋の壁の一つが斜めにゆっくりと倒れ
特大の斜面となった。
天井の半分が収納され、その部分から空が見えている。
二十面体D:「国王の外出用出口さ」
311-111:「ありがとう。では行ってくる」
斜面を駆け上がった先はもう、トリ・レッドの地上だった。
テトラ・グリーンとの境まで、全速力で向かう。
三角錐の建物を縫うように進み
国境の壁が見えるところまで来た。
壁には大きな穴が開いていて、そこからテトラ・グリーンの様子を
少しだけ窺うことができる。
緑色の巨大な正方形が、こちら側に近づいてくるのが見えた。
テトラ・グリーンの国王だ。
四角い国王は大穴の手前まで来ると、体を横にして
大穴をくぐってきた。
311-111:「止まれ!」
トリ・レッドに侵入した国王に向かって言い放つ。
四角い国王:「なるほど。トリ・レッドの国王が倒されたという噂は
どうやら真だったようだ」
「そして貴様がトリ・レッド国王を倒した者だな?」
「あとは貴様をこの手で潰せば
トリ・レッドも我が領土というわけだ」
311-111:「トリ・レッドはもう貴国を侵略する気はない。
だが貴国が我が国を侵略する気ならば容赦はしない」
四角い国王:「先に我が国に攻め入った分際でよくもまあ
そのような口が利けるものだ」
「まあいい。トリ・レッドが手に入るのだからな」
テトラ・グリーンの国王は、何かに気づいたようだ。
311-111の遥か後方を見据えている。
四角い国王:「おやおや。ヘキサ・イエロー国王のお出ましだ。
貴様も後方の国境を見るがいい」
311-111が振り返ると、遠方、ヘキサ・イエローとの境にある壁の上に
何か巨大なものが浮いているのを確認できた。
127枚もの六角形が平面状に結合し、でこぼこした巨大六角形を形成している。
体は他の国王と同じく、金属製の枠に収まっている。
巨大な蜂の巣のような見た目である。
六角形の国王は、高さ5メートルの壁の上を渡り終え
トリ・レッドに侵入した。
311-111は少し前まで性能不足により
壁の半分の高さすら上昇できなかったことを思い出した。
あの高さを軽々と超えるとは、なんという性能だ。
四角い国王:「どけ。貴様は後回しになった」
巨大な正方形の一角が311-111を襲った。
ハッと気がつき防御したが、強烈な攻撃の反動で後退を許してしまった。
311-111:(トリ・レッドの国王よりも一撃が重い)
(実力行使では厳しいか)
テトラ・グリーン国王はもう一方の国王に向けて急加速した。
おそらく、ヘキサ・イエローの国王もトリ・レッドの窮地を嗅ぎ付け
奇襲を仕掛けてきたのだろう。
更なる難敵の出現に不安を覚えながらも
311-111はテトラ・グリーン国王に続いた。