その7
四角形たちの国、テトラ・グリーン。
その地では、無数の立方体の兵士と、トリ・レッドからの侵略メカ3機による
激しい攻防戦が続いていた。
立方体A:「くっ、我々では全く歯が立たない!」
立方体B:「このままでは、無駄に犠牲者を増やすだけだ」
機械仕掛けの侵略者は、三角錐と三角柱を合わせた犬小屋のような頭部を持ち
三角柱の各側面から3本ずつ、計9本の強靭な足を生やしている。
三角錐の側面の一つには、逆三角形の目が三つついている。
ようは、9本足の巨大なクモのような外見である。
1体の立方体が、侵略者の頭部を狙ってビームを放った。
侵略者は足を持ち上げ、その足でビームを遮断した。
そのまま足を振り下ろす。
立方体はあっけなく潰されてしまった。
立方体C:「もはや、国王陛下にすがるしか道はないのか?」
侵略者の頭部が上下に割れ、中から銃口が現れた。
立方体B:「何をする気だ?」
侵略者は、立方体たちに向かって3発、銃弾を発砲した。
速度が速すぎて、立方体の性能ではとても回避できない。
しかし銃弾は、何者かの針によって3発とも斬り捨てられた。
立方体たちの前には、12面の十角形を持つ大型立体の姿があった。
立方体A:「十角形を側面に持つ立体だと?!そんなバカな・・・」
大型立体:「こいつらは俺が相手をする。君たちは下がっていろ」
侵略メカの銃口が大型立体に向けられた。
大型立体:「無駄な戦いはしたくない。破壊されたくなければ祖国へ帰れ」
銃弾が飛んできた。
大型立体:「それが答えか。どうやら対話は通じないようだな」
大型立体は、侵略メカの頭部まで素早く浮き上がると
己の針で連続的に切りつけた。
メカの頭部はびくともしない。
メカは足の2つを振り上げ、大型立体を叩き潰そうと猛攻を仕掛けてきた。
大型立体:「なかなか丈夫な装甲じゃないか」
飛んでくるメカの足をひらりと回避しながら、大型立体・311-111は攻撃のスキを窺う。
銃口が再度、こちらに向けられる。
311-111:「そこだ!」
メカの頭部の割れ目に向かって、極太のビームを放つ。
ビームはメカの頭部を内側から焼き尽くした。
311-111:「あと2体!」
311-111は他の場所にいる侵略メカに向けて、すっ飛んで行った。
立方体C:「よくわからんが、助かった」
立方体A:「ぼさっとしてないで、他地点に加勢に行くぞ!」
~10分後~
311-111は、2体目の侵略メカを同じ方法で葬った後
最後の1体と対峙していた。
311-111:(あと1体。同じ方法では
さすがに俺のエネルギーがもたん)
立体型が放つビームは、体内エネルギーの最大値の1/3を消費するのだ。
どうすればよいのか。
針だけでは侵略メカを破壊することは出来ない。
突破口を考えていたその時、1体の立方体の放つビームがメカの頭部に当たった。
威力が足りないのか、メカには全然効いていない。
311-111は突然閃いた。
311-111:「勇敢なテトラ・グリーンの戦士たちよ、俺に協力してほしい」
「8体ほどでいい。俺の針に向かってビームを撃ってくれ」
後方で眺めていた立方体たちに呼びかける。
数秒後、10本のビームがこちらに飛んできた。
10本のビームのエネルギーは、針を通して
311-111のエネルギーに変換された。
311-111:「今なら、撃てる!」
立方体約8体分の極太ビームを、メカの頭部にぶち込んだ。
メカは頭部から黒煙を上げて、その場にくずおれた。
311-111:「これでひと段落っと」
立方体D:「なぜだ。四角形の面を持たない者が、なぜ我らに味方するのだ」
311-111:「住民たちが、むざむざ破壊されるのは見るに耐えないからさ」
「国の違いなど大した問題ではない」
立方体E:「随分甘い考えだ。我々が次に会う時には
敵となるのかもしれんのに」
311-111:「そうならないと願うよ」
311-111はその場を去った。
場所が変わって、トリ・レッド王宮、国王の間。
国王:「戦闘マシンが全滅した?ふざけるな!」
「アレにどれだけの金と時間をつぎ込んだと思ってるんだ!」
二十面体:「戦闘マシンからの映像によりますと
相手は十角形12枚、三角形20枚で構成される立体のようです」
国王の核が光った。
恐ろしく高威力のビームが二十面体の角に当たり、二十面体を粉砕した。
国王:「十角形12枚を面に持つ者。なかなかの戦力だ」
「だが所詮我の敵ではない。我が直々に滅してくれるわ」
一方、311-111は国境の壁に穿たれた大穴を通り抜け
トリ・レッド王宮の目の前まで来ていた。
戦闘マシンを全て破壊はしたが、戦争は収束する様子を見せない。
少しでも犠牲を減らすために、国王を止めなくてはならない。
最悪、国王を破壊することにもなるだろう。
王宮の入り口から、二十面体が次々と出てきた。
彼らを全滅させるのは、信条に反する。
ならば。
311-111は、こちらに飛んでくる無数のビームを跳ね返しながら
入り口まで猛スピードで突っ走った。
狭い入り口にぶつかりそうになった瞬間
311-111は四角形18枚、三角形8枚を面に持つ
八角形の輪郭を持つ立体(斜方立方八面体)に変化し
狭い入り口を無事に通過した。
王宮内部。狭い一本の廊下に、等間隔で横道がついている。
廊下の突き当たりには、上の階へと続く斜面が見える。
とりあえず上の階に進むことにする。
斜面を上がりきった先には、再び廊下と突き当たりの斜面があった。
何度か斜面を登った後、最上階に到達した。
この階もやはり、廊下と横道で構成されている。
ただし、突き当たりに斜面は見当たらない。
その代わり、廊下の中央付近に二十面体が1体、ポツンと浮いていた。
311-111は、そいつの識別番号に見覚えがあった。
針道道場の師匠に怪我を負わせた、あの二十面体だ。
二十面体:「神聖なるトリ・レッドの王宮に
土足で踏み込んだ輩というのは貴様か」
「むむ・・・貴様から漂う強者のオーラ。
他の二十面体の手に負えないのも道理」
二十面体は全身の針を一斉に伸ばした。
二十面体:「国王護衛隊最強の名にかけて
貴様を野放しにしておくわけにはいかん!」
「勝負!」
311-111は、より上位の形態に変化しようとした。
だが厄介なことに、狭い通路にいるせいで
広いスペースを必要とする、巨大な立体になることはできない。
斜方立方八面体のまま、勝負するしかあるまい。
311-111:「1体でも犠牲者を減らしたい。黙って引いてくれないか」
二十面体:「ならば、貴様の命を差し出すのだな」
「もし俺に勝てれば、国王陛下の居場所を教えてやろう」
「勝つのは俺だから、何も問題ないがな」
交渉決裂。
両者ともに針を伸ばし、対峙する。
二十面体が動いた。
次々と繰り出される斬撃の速さに、311-111は狼狽した。
立体の性能でいえば、こちらの形態のほうが1.6倍ほど上のはずだ。
この二十面体は、その性能差を埋める程に、鍛錬を積んでいるのだろう。
こちらも負けじと斬撃で応戦する。
針が幾度となくぶつかり合い、そのたびに火花が散る。
二十面体:「強い。今まで戦った者の誰よりも」
「その強さに敬意を表し、わが針術の奥義で葬ってやろう」
二十面体は、数メートル後方に下がった。
何か仕掛けてくるか。
二十面体:「奥義・螺旋流星」
二十面体が、縦に回転し始めた。
ある程度回転の速度が増したところで、その状態のまま
横にも回転を始めた。
もはやその針の軌道を、この斜方立方八面体の目を
持ってしても見極めることは出来ない。
高速回転する赤色の球体が、こちらに突進してきた。
311-111は後ろに下がり、横道に入った。
球は、通路の分岐点で回転を保ったまま一時停止し
横道に進入してきた。
横道の突き当りは行き止まりとなっている。
もうどこにも逃げ場はないようだ。
赤色の球体は、すぐそこまで迫っていた。
ぶつかる刹那、311-111は七角形に変化し
薄っぺらい体で壁に張り付いて、球体をやりすごした。
球体は己の慣性に逆らえず、直進を続けている。
球体が通り過ぎた後、311-111はすかさず斜方立方八面体に変化し
ビームを球にぶち当てた。
二十面体の針がビームを吸収する。
そして、容量オーバーしたエネルギー分を、己のビームとして
核から排出した。
しかし、排出量の上限(132)を容量オーバー分(216)が上回ったため
エネルギーを排出しきれず
二十面体は体内に致命傷を受け、その場に停止した。
二十面体:「これまでか」
311-111:「約束だ。国王はどこにいる」
二十面体:「国王陛下は地下におられる。
一階の最も西の部屋に、地下への斜面が隠されている」
311-111:「わかった。情報をどうも」
二十面体:「俺を倒した程度で調子に乗るな。貴様なんぞ何体いたところで
国王陛下には」
言葉の途中で、二十面体は爆散した。
311-111:「さて、地下か」
元きた道を戻り、他の二十面体を軽くあしらいながら
一階の最西端の部屋にたどり着いた。
一見、何もない三角形状の部屋だ。
じっくり室内を見渡すと、部屋の隅に、小さな三角形の出っ張りが見えた。
あれだ。
そこまで近づき、出っ張りを針で押す。
部屋の床がゆっくりと左右に割れ、地下への斜面が姿を見せた。
いよいよ、国王とご対面だ。