その5
311-111は、以前進入した地下通路の入り口に来ていた。
世界の端経由では、他国に進入することは出来なかったが
この地下通路を使えば、もしかすると行けるかもしれない。
入り口の蓋を開け、中に飛び込む。
無数に枝分かれした地下通路の道のうち
なるべく南向きのものを選びながら進んでいく。
しばらく行くと、一枚の五角形に出会った。
五角形:「その識別番号は・・・七角形の旦那!」
311-111:「やあ、また会ったね」
五角形:「ジャンク組に入ってくれる気になったのか?」
311-111:「入っても良いが、今日は別の用で来てるんだ」
311-111:「君、ヘキサ・イエローに通じる道を知らないか?」
五角形:「これまた厄介な所に行きたがるんだなあ」
「ヘキサ・イエローは知らないが、
ペンタ・ブルーへの道なら知ってるぜ」
311-111:「そこでもいい。案内してくれないか?」
五角形:「他の組の縄張りを少しばかり横切ることになるんで、
ちょっと回り道しながら行くぜ?」
311-111:「構わない」
五角形を先頭にして、複雑な地下通路を再び進んでいく。
幸い、他の組の誰とも遭遇することなく
ペンタ・ブルーの地下まで来ることができた。
五角形:「ここだ」
広めの通路が、45度の角度で上っていき、地上につながっている。
出口からは光が差し込み、出口付近を明るく照らしている。
311-111:「案内ありがとう。では行ってくるよ」
五角形:「待った。あんた、その姿で行くつもりか?」
「死にに行くようなもんだぜ?」
そうだった。ペンタ・ブルーの住人、つまり五角形でないと
地上を歩くことはできない。
311-111:「もし、よければ」
五角形:「まあ、最初からこうなるんじゃないかと思ってたんだ。
最後まで付き合うぜ、旦那」
二体は速やかに融合し、一体となった。
押し寄せる記憶の波に、軽いめまいを起こしながら
311-111は五角形の姿で、上方を目指した。
五角形である俺がこの国に戻るのは、随分と久しぶりだ。
失踪扱いになっているだろうから、五角形といえども、油断はできない。
捕まると、何をされるか分かったものではない。
地上に出た。
五角形のテントのような建物が、何列にも渡って並んでいる。
この国では中央政府の建物を中心として
他の建物が同心円状に配置してあるのだ。
さて、はやいとこ、住民達に紛れないと。
出口を少し離れたとたん、蓋がスライドしてきて
出口を閉ざしてしまった。
大きな体格の正十二面体が三体駆けつけ、こちらを取り囲んだ。
十二面体:「侵入者よ、ペンタ・ブルーへようこそ」
311-111:「俺はこの国の住民だ。侵入者ではない」
十二面体:「この国では、地下通路への出入りは一切禁じられている」
「よって地下通路から出てくる者は皆、侵入者だ」
311-111:「そんな!数年前はそんなことはなかった!」
十二面体:「法律が整備されたのだよ。さあ、ご同行願おうか」
相手は、あの二十面体に匹敵する強さの兵士だ。それも三体。
勝ち目はないし、逃げることすら叶わないだろう。
おとなしく連行され、小さめのテントの前まで来た。
将棋の駒のような形の入り口をくぐると
目前にあやしげな機械が置かれていた。
その機械には、大きめの五角形の輪が接続されていた。
機械の前には一体、五角形型がいて、機械のモニタを見ながら
ボタンをあれこれ押していた。
十二面体:「輪をくぐれ」
速やかに言われたとおりにする。
機械をいじっていた五角形が驚く。
五角形:「こいつ、三角形と七角形を内包していますよ!」
十二面体:「おお、三角形か。確か、兵士増強研究施設の学者が
三角形を欲していたな」
十二面体たちが寄り添い、しばし相談する。
十二面体:「よし、そいつを連れて行こう」
再び十二面体に囲まれ、連行される。
どうやら国の中央付近に向かっているようだ。
5時間ほど休憩もなく進み続け、ようやく目的地に着いたらしい。
先ほどよりも小さめの建物だ。
十二面体:「では俺が行ってくる。見張りを頼む」
三体の十二面体うち二体は、入り口に残るようだ。
十二面体:「さっさと入れ」
入り口に押し込まれる。
入り口はそのまま、地下へ通じる道に伸びていた。
通路が終わり、広い部屋に出た。
最初に目に付いたのは、暗い灰色の十角形だ。
12の透明なケースがあり、格ケースに一体ずつ入っている。
ケースにはケーブルがついていて
12のケーブルは一つの大きな機械に全て接続されている。
機械の前にはまたもや、五角形が一体いた。
十二面体:「三角形を連れて参りました」
五角形:「おう、ご苦労さん」
壁に寄りかかっていた五角形の輪を五角形型が持ち上げ
311-111に被せる。
五角形:「ふむ、間違いない」
「これで合計20の三角形が揃った。あとは組み込みだけじゃ」
「こちらに来てもらおうか」
言われるがまま、別の機械の前まできた。
先っぽに吸盤のついた配線が、機械から何本か出ている。
五角形:「これは、記憶を消し去る装置じゃ」
「ここで、お主に選択肢をやろう」
「記憶を消されて実験台にされるか、十二面体に破壊されるか
好きなほうを選ぶがよい」
どちらも願い下げだ。
だが、この状況を突破できる力は持ち合わせていない。
会話で、執行までの時間を稼ごうか。
311-111:「記憶を消された後はどうなる?」
五角形:「よくぞ聞いてくれた。我が国の秘密兵器である
切頂十二面体の一部となれるのじゃ。光栄じゃろ?」
311-111:「材料から見るに、五角形は含まれないようだが
排他的な国の兵力がそんなもので良いのか?」
五角形:「やむを得まい。他三国の多角形と違い、五角形だけでは
強力な形状である壁形態になることは不可能じゃ」
「だからこそ、国王級の性能には達しないまでも
より強力な兵力が必要なのじゃ」
「それに、切頂十二面体は、20ヶ所を機械で補足し、青色に着色すれば
巨大な十二面体となり、我が国の兵士としてもふさわしくなるわい」
「おしゃべりはここまでじゃ。はよう選ぶがよい」
死ねば全ては無に還る。記憶を消されれば、体だけは残る。
311-111:「記憶を消してくれ」
五角形:「嬉しいのう。手に入れた材料を無駄にせずにすむわい」
吸盤を体に貼り付けられた後、五角形が機械のレバーをゆっくり引く。
視界が暗くなってゆく。
目が覚めたとき、まがい物の巨大な十二面体は
味方の命令に従うことと、敵を滅ぼすことしか頭(核)になかった。