その11
円盤状の惑星「disk」。
その星の表面には恒星からの光をエネルギー源とする
幾何学的な形の生命体が多数暮らしている。
彼らは一部の例外を除き、体の表面が
正多角形だけで覆われている。
最も大きい側面、あるいは体の中心的な側面にだけ
半球状の核を1つ持っている。
彼らは高度な知性を持ち、disk全土に
巨大国家「ディスク」を形成するに至った。
国家の名称が、国家の基盤となる惑星「disk」から
とられていることは明白である。
その国家「ディスク」の遥か上空でのこと。
そこには、二枚の巨大な正方形を
数十本の柱が繋ぎとめている、檻のような形状の神殿があった。
宮殿内部の中央にある部屋には、正方形のテーブル1つと
それを囲むように4つの丸椅子が設置されている。
丸椅子の上には、それぞれの上に特別な立体が浮いていた。
1つは円柱。
1つは円錐。
1つは見る角度によって、円にも三角形にも正方形にも見える
奇妙な立体。
そして1つは球。
それらも地上の生命体と同様、体に核を持っている。
球が言葉を発した。
球:「我々は何百年もの間
平凡な者たちの自由意志を尊重し、見守ってきた」
「その結果」
「4つの秩序ある国が統合され、混沌の進んだ国が生まれた」
「diskの表と裏の秩序が破れ
diskは無様にも回転し、光と闇をかき回した」
「更には、種類の異なる多角形を面に持つ立体が数多く誕生した」
「この膨れ上がった混沌が、近いうちに我々のような
超越した立体を生み出し、我々を皆破滅に導くであろう」
円錐:「それは避けられぬのですか?」
円柱:「球の言葉は絶対だ。我々は運命を受け入れねばならぬ」
奇妙な立体:「・・・」
球:「我々神が生き残る道はただ一つ」
「世界の混沌を排除し、再び秩序ある世界に書き換えるのだ」
円柱:「多くの命が失われることとなるが、やむを得ない」
円錐:「世界に秩序を!」
奇妙な立体:「同意スル」
場所変わり、地上、ディスク第一区の庁舎。
ディスク第一区は、かつてトリ・レッドの支配下にあった地域を指す。
庁舎内部の広い部屋に、巨大な壁形態の者と、二十面体が1体ずつ
浮いていた。
壁形態の者は、正方形の列と正三角形の列が
交互に積み重なった模様をしている。
二十面体:「ディスク第一区長、就任おめでとう」
壁形態:「元国王にわざわざお越しいただけるなんて光栄です」
元国王と呼ばれた二十面体は頷いた。
二十面体:「ようやくこれでディスク国8区の区長が出揃うのだ」
「私も安心して隠居生活を送れる」
ディスク国は、第一から第八まである区の区長が
国王に代わり国を治めることとなったのだ。
2種類以上の多面体が結合した、壁形態の8種が
各区の区長として選ばれている。
二十面体は第一区長といくらか話をした後、別れを告げた。
庁舎を出て、第三区にある別荘に向かうため、二十面体・311-111は
斜方切頂二十・十二面体に変化した。
道幅の広い通りでは、最もスピードを出せるこの形態が適しているのだ。
周りがなにやら騒がしかった。
住民達が外にでて、空を指して何やら話している。
311-111も空を見上げた。
空には、巨大な円形の底を持つ、透明な何かが浮いていた。
311-111は戦慄した。すぐにその場を離れなければならないと
本能が訴えた。
巨大な物体の真下から抜け出た直後
恐ろしい地響きとともに、大質量が落ちてきた。
それは、円形の底を持つ、途方もなく大きな円柱だった。
その大きさは、この星の生命体で最も大きな身体を持つと思われていた
壁形態など、比較にもならない程だった。
第一区長を始めとする、多くの住民が
建物ごと巨大円柱に潰されてしまった。
とんでもない非常事態だ。
どこからともなく音声が聞こえた。
???:「地上の者たちよ。貴様らの生み出した多大なる混沌が
我ら神々の逆鱗に触れた。その粛清を受け取るが良い」
どうやら音声を発しているのは巨大円柱のようだ。
311-111:「勝手なことを言うな!我々が何をしたと言うのだ!」
巨大円柱:「ほう、平凡なる分際で神に口答えするとは威勢の良いことだ」
巨大な円柱はみるみる縮んでいき
高さ、幅ともに30センチ程度の大きさになった。
その下には無残な円形の平地が広がっている。
小さな円柱は次の瞬間、311-111の目の前にいた。
数ある立体の中で壁形態に次いで性能が良いはずの
この斜方切頂二十・十二面体ですら
円柱の動きを捉えることは全くできなかった。
円柱:「貴様も混沌そのものだな。混沌は排除せねばならない」
周囲の物全てが物凄い速さで流れだした。
いや、311-111が飛ばされているのだ。
311-111は惑星diskの中心から遠ざかる方角に飛ばされていた。
高い建物は皆、diskの中央付近に集まっているため
これから建物に激突する心配はない。
しかし、速度は落ちる様子を見せないため
惑星外に飛び出てしまう可能性がある。
飛ばされている方角に核を向けると、世界の端が見えてきた。
あそこには、確か無数の円型生命がいて
自分達の領域を守っているはずだ。
311-111は世界の端を突破した。
このまま惑星から飛び出して、宇宙を永遠に漂うことになるのだろうか。
311-111はふと、自分と並んで飛翔している1体の円型に気づいた。
円型も、こちらに面を向けている。
円型:「とうとう始まってしまった。神々による破壊活動が」
311-111:「そのようですね。全くもって理不尽だが」
円型:「そう。理不尽だ。
上の神々は世界の秩序のために、神の端くれである
我々円型を世界の端に閉じ込め
今度はディスク国の住民を蹂躙し始めた」
311-111:「それで、なぜ私に付き添っているのです?」
円型:「君を助けるためだ」
「私と一つになるがいい。そうすれば君を助けられる」
「そして神々の横暴を食い止められるかもしれない」
合点がいった。
311-111と円型は核のある面を向かい合わせ
同じ速度、同じ方向に回転を始めた。
辺りに閃光が走った。
311-111は透明で平らな円型の身体となっていた。
そして、惑星diskの神々に関する知識が核に刻み込まれた。
311-111:「反撃開始だ」
311-111は、速度を落としてその場に停止した。
今までどうすることも出来なかったことが嘘のようだ。
次に、遥か遠くの円柱の目の前まで
一瞬で移動した。
円柱は再度巨大化し、ディスクの街並みを
でたらめに破壊し続けていた。
円柱はこちらに気づき、驚いたようだ。
円柱:「なぜだ。"円"が世界の端を離れて
この場所に出現できるはずがない」
「まさか貴様、純粋な"円"以外の要素が混じっているのか」
311-111:「そう。先ほど貴方にぶっ飛ばされた輩を取り込んだのさ」
「これで自由に行動できるし、取り込んだ者の恨みも晴らせる」
「一石二鳥だ」
円柱:「下級神が自由を得た程度でいい気になりおって」
円柱は311-111と同程度の大きさに縮んだ。
円柱:「再び世界の端まで吹っ飛ぶがいい」
円柱が攻撃を仕掛ける。
いまや円型の性能を手にした311-111には
その攻撃をはっきりと見切ることができた。
円柱の針攻撃を、円型の縁から出した針でなぎ払う。
そのまま針で連続攻撃を仕掛ける。
円柱は防戦一方だ。
円柱:「お、おのれ」
311-111:「どうやら自身の力に慢心し、針術の鍛錬を怠っていたようだな」
円柱:「"円"ごときに負ける我ではない!」
円柱は急速に膨張し、惑星diskの半径ほどの大きさになった。
円柱:「我は『体』の力を持つ神。我が肉体は伸縮自在よ。
"円"などひねり潰してくれるわ」
311-111:「馬鹿め。これで貴方は終わりだ」
円柱:「何っ!」
円柱の底面の円周めがけて、世界の端から5本のビームが放たれた。
ビームは全て命中し、膨大なエネルギーが円柱を内部から焼き焦がした。
円柱:「グガア!」
円柱はみるみる縮み、空気中の塵よりも小さくなって
見えなくなった。
311-111:「体を大きくすることに気をとられ
周りが見えてなかったようだな」
「世界の端にいる他の円型達も
貴方達を快くは思っていない」
311-111はdiskの遥か上空に浮かぶ、神々の神殿を睨んだ。
311-111:「まだだ、あと3体も残っている」




