その1
視界がゆっくりと明るくなり
周りの景色がはっきりしてきた。
周囲に点在して浮く灰色の球体。
その多くに混じって、球体の両極から黒い棒が飛び出たものや
中央に球体をつけた赤い正三角形、緑の正方形、
青い正五角形、黄色い正六角形が少数確認できる。
それらのほとんどは、その場から動くことなく
留まっている。
ときたま、球が分裂して2つになったり、
球から棒が生えたり、棒が赤い三角形に変化したり
三角形が緑の四角形に変化することもある。
それらのうちいくつかは上昇し、上方にある大きな円形の天井に吸い込まれて
見えなくなる。彼らは消滅してしまったのだろうか?
時が流れ、自分にも変化はおこった。
360°どこでも見渡せた視界のうち2点が黒くなり
その箇所で風景を見ることは出来なくなった。別の角度から見ると
両端に黒い棒が生えているのが確認できた。
さらに時は流れた。
視界を遮る箇所が2点から視界全範囲を大きく二分する
リング状に変化した。
別の角度から見ると、一枚の赤く平たい三角形が
周囲の視界を遮っていることが分かった。
下方に見える球体たちがゆっくりと遠のき
上方に見える球体たちと銀色の天井が
ゆっくりと近づいてきた。
自分が上昇しているのだ。
銀色の天井が間近に迫ると、天井は微かに波打った。
天井を突き抜けた。
上方の景色は明るい青色で、その真ん中には
白く眩しく輝く丸いものが見えた。
下方には、たったいま通り過ぎた床がある。
ただし、銀色ではなく、透き通り
一緒に過ごした球体その他たちが見えた。
横を見ると、透明な床が終わり、
代わりに灰色の床と周囲を囲む高い壁があった。
壁には等間隔に4つの通路があり
その入り口の脇にはそれぞれ
三つの指をもつアームが設置されていた。
アームの一つがこちらに勢いよく伸びてきて
自分をがっちりと掴んだ。
そのまま引き寄せられ、通路の一つに投げ込まれた。
入り口が閉まり、元の場所には戻れそうにない。
近くを見渡すと、すぐそばに
ピラミッドを2つ重ねたような形の物体が置いてあった。
ピラミッドはおもむろに動き、通路に沿って進んでいく。
興味をそそられたので、後をついて行く。
一本道の通路の脇に、三角形の入り口があった。
ピラミッドは、その横で止まる。
その中に入ると、またもや入り口が閉まった。
そこは、三角形の小部屋になっていて
自分と同じ、赤色の三角形が数十体漂っていた。
部屋の中央に、一体だけ赤い正八面体型の者がいる。
正八面体とは、八つの正三角形を面に持つ立体で
その全体像はおおむね菱形として見える。
その者の面のうち一つだけ、灰色の半球が中央についている。
ほかの面には何もなく、平らである。
その者は、なにやら不思議な音を発した。
部屋の側面の一つに、逆三角形のスクリーンがあり
赤い八面体の音に呼応するように
画面がつき、赤一色となった。
八面体が音を発する。
八面体:「****」
画面が緑一色となる。
八面体:「** ***」
何回か画面の色が変わった後、今度は白い背景に
黒い三角形が映った。
八面体:「* **」
次に、黒い四角形が映る。
八面体:「**** **」
このようなやり取りが2時間ほど続いた後、
八面体は部屋を出て行った。
15分後、八面体が部屋に入ってきた。
再び同じようなやり取りが行われる。
半年後・・・
八面体:「我々トリ・レッド国民は、いかなるときでも
国外に出てはならない」
「それはなぜかね? 311-111君」
311-111とは、たくさんいる赤い三角形のうち、
自分のことを示す識別番号である。
311-111 :「我が国の東にはテトラ・グリーン、南東にはペンタ・ブルー
南にはヘキサ・イエローの三国があります」
「我が国を含む四国は、外国者の侵入を禁じており
侵入者は警備隊に捕らえられ
処刑対象となるからです」
「また、我が国の北から西にかけて
何もない領域に囲まれており、進入自体不可能です」
八面体:「うむ、その通りだ。宜しい」
「では3時限目はここまで。」
八面体はそそくさと部屋を出て行った。
そう、赤い三角形は誕生後、この教室に集められ
それから半年もの間、教育を受けていたのだ。
一定の知識を身につけた者は、この部屋を出る許可を与えられる。
この半年の間に、生徒の約半分が入れ替わっている。
八面体が部屋に入ってきた。
八面体:「311-111。君はトリ・レッド国民としての
基礎知識をひと通り学んだことになる」
「よって君は卒業だ。おめでとう」
「部屋の外に案内ロボが待機している。彼について行きたまえ」
部屋のドアが開いた。
八面体の教師は角の一つから針を伸ばし、そこを指し示した。
311-111:「半年間お世話になりました。ご恩は忘れません」
別れの挨拶をすると、311-111は三角形の部屋を出た。
外には、ピラミッドを2つ重ねた形の案内ロボットがいた。
案内ロボ:「こちらです」
ロボはゆっくりと床を滑り、広い通路を進んでいく。
311-111が住むことになる住居まで案内してくれるのだ。
311-111は新しく始まる生活を思い、ワクワクしながらロボについて行った。